144Pのアートブック付も

アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ『スワンライツ』
2010年10月13日発売
ALBUM
アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ スワンライツ
オフィシャル・サイトでも観ることのできるファースト・シングル“サンキュー・フォー・ユア・ラヴ”のビデオクリップが素晴らしい。アントニーが10代でニューヨークにやってきたときにスーパー8のフィルムで撮影した映像が使われたクリップは、多くがモノクロで、被写体との2人称というべき関係性が記録されている。そして、2人の間に存在していたであろう生々しいまでの熱量が確かに映像として記録されている。そこにはアートという平易な言葉では決して辿り着くことのできない体温があった。このクリップを観たとき、僕はこれまで彼の音楽を誤解してきたのかもしれないと思った。

これまで僕はアントニーの歌を彼方からの声として聴いてきた。今ここではないもの、私たちの怠惰な日常とは別のものとして、その声を聴いてきたところがある。実際、出世作となった『アイ・アム・ア・バード・ナウ』『クライング・ライト』にはそうした側面があったように思う。この世界に対する絶対的な他者として、だからこそ叶わぬ願いとして崇高な美しさをその歌は放っていた。まさに彼は鳥だったのだ。しかし、この4作目となるアルバムで聴くことのできるアントニーは違う。そのてらいのない、ストレートな曲名からも伝わるかもしれないが、我々のすぐ隣にいるアントニーの姿がある。だからこそ、このアルバムは躍動感に満ち溢れている。ロンドン交響楽団と共演を果たした“ゴースト”をはじめ、音色が増え、その景色には瑞々しく色が宿っている。むしろビョークとのデュエットだけが異質に聴こえるほどだ。彼は自ら神秘のヴェールを脱いだのだ。(古川琢也)
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