イーノには昔『ミュージック・フォー・フィルムス』という架空のサウンドトラック盤のようなアルバムがあったが、これもまた似たコンセプトを持つアルバムで、イーノ自身は「音のみで作られた映画」であるとしている。聴き手を一定の方向に導くような明確なイメージやメッセージはなく、すべてが曖昧で抽象的だ。強いビートを持った曲もあるが、アンビエントで柔らかくて感覚的な電子音が聴き手の五感をそっと刺激する。音そのものが語っているのはほんの一部で、残りはすべて聴き手のイマジネーションに委ねられる。ここでは音楽家のエゴやパーソナリティの過剰な表出は巧妙に回避され、そのぶん聴き手の能動性が試されるのである。従来のポップ・ミュージックの、なにもかもお膳立てされた起承転結に慣らされた耳には、あるいはとっつきにくく聴こえるかもしれないが、これもまた音楽の持つ可能性のひとつである。(小野島大)
これぞイーノの世界
ブライアン・イーノ『スモール・クラフト・オン・ア・ミルク・シー』
2010年10月20日発売
2010年10月20日発売
ALBUM
イーノには昔『ミュージック・フォー・フィルムス』という架空のサウンドトラック盤のようなアルバムがあったが、これもまた似たコンセプトを持つアルバムで、イーノ自身は「音のみで作られた映画」であるとしている。聴き手を一定の方向に導くような明確なイメージやメッセージはなく、すべてが曖昧で抽象的だ。強いビートを持った曲もあるが、アンビエントで柔らかくて感覚的な電子音が聴き手の五感をそっと刺激する。音そのものが語っているのはほんの一部で、残りはすべて聴き手のイマジネーションに委ねられる。ここでは音楽家のエゴやパーソナリティの過剰な表出は巧妙に回避され、そのぶん聴き手の能動性が試されるのである。従来のポップ・ミュージックの、なにもかもお膳立てされた起承転結に慣らされた耳には、あるいはとっつきにくく聴こえるかもしれないが、これもまた音楽の持つ可能性のひとつである。(小野島大)