夢の小休止

ゴリラズ『ザ・フォール』
2011年04月20日発売
ALBUM
ゴリラズ ザ・フォール
昨年のクリスマスに先行ストリーミングがスタートしていたゴリラズの最新作のCD化である。「秋」と題されたタイトルもずばり、本作は昨年秋のゴリラズの全米ツアー中にデーモンが自身のiPadで様々なアプリを駆使して書いた曲によって構成された特殊なアルバムだ。ツアー先のホテルと思しき部屋でぽつんと座りこむ2Dが描かれたジャケットからしてまんまだが、アリゾナ、デトロイト、ダラス、フェニックス……と全米各地の街の名がそのまま曲名にも反映された本作は、デーモンにとってはツアー・ダイアリー的な意味もあったのだろう。トラックリスト自体もツアーの日程通りに、曲が書かれた順番通りに並んでいる。

「プラスティック・ビーチ」なる仮想世界を打ち立て、ボーダレスなサウンド遊覧を試みた前作とは対照的に、本作は1曲1曲がデーモンの足跡そのもので、彼の実体験に基づいたリアリスティックな視点で全てが象られている。基調はダウンビートで、前作のムードを決定づけていたコズミックで奔放なサウンドの広がりは無い。アイディアと実践が直結して放出・拡散されていくタイプのかつてのゴリラズではなく、デーモンの脳内でアイディアが幾度もループし、乱反射し、熟成していくような、内宇宙の深淵を感じさせる味わいの一作。そう、ゴリラズというプロジェクトのコンセプトであったはずの「リアリスティックなフィクション」の真逆とも言える、「フィクショナルなリアリティ」の産物なのだ。解散報道というらしからぬ普通のバンドみたいなゴシップもあったけれど、彼らの此処と何処かの越境行為はまだまだ続きそうだ。(粉川しの)
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