ソウル~AOR的な演奏と、ネットリとしたマイナー調のメロディが見事にミックスされた今作。そのサウンドから連想できるのは80年代のニューミュージックや歌謡曲の楽曲だ。一流のスタジオミュージシャンがアイドルのオケでブイブイ弾いていた時代のテイストが、どの楽曲からも感じられる。ただし「歌謡曲的なメロディ」の位置づけは当時とは違う。往年の歌謡曲では七五調の歌詞やメロディはリスナーに親しんでもらうための呼び水であり、その和洋折衷ぶりがキッチュさを生んでいたが、中田の音楽では歌謡曲的なメロディやディープな情景描写こそが表現の核となっている。
恋愛の真実を描くためには、このフォーマットしかないという強さ。日本の折衷的音楽文化を踏まえ、ひとつのスタイルを築き上げた快作である。(神谷弘一)