2014年、イタリア生まれアメリカ育ちの小川悟(Vo・G)を中心に結成。「数万人の観客を熱狂させるようなスタジアムロックを鳴らしたい」という壮大なビジョンを掲げながら、関西圏を中心に邁進中のロックバンド、それがSLMCT(読み:スリムキャット)だ。US/UKロックをはじめとする洋楽への憧れとリスペクトをそのまま反映させた彼らの音楽は、帰国子女の小川による流暢な英語詞のフロウと相まって、この日本のロックシーンにおいて唯一無二の存在感を放ち始めている。そして今回、今まで以上にダイナミックで、ソリッドで、そして、より重厚なロックを追求した新作アルバム『Class : A』が届けられた。今作に収められているのは、コロナ禍において歓声を封じられた現行のライブシーンにドロップされた新たなフロアアンセムであり、いつの日か、広大なステージで大合唱と共に鳴り響く光景をクリアにイメージできる。このスタジアムロックが、無数の観客の心をダイレクトに震わせる日が来ることを、僕は確信している。バンドとしてひとつのブレイクスルーを果たした4人に、今の想いを聞いた。
インタビュー=松本侃士
中学生の時から曲を書き始め、その頃から、数万人の観客を熱狂させるようなスタジアムロックを鳴らしたいという想いがありました(小川)
――はじめに、小川さんが曲作りを始めたきっかけを教えてください。小川悟(Vo・G) 親が海外を転々とする仕事をしていて、学生時代の長い時間をアメリカで過ごしていました。2008年、13歳の時に、解散する1年前のオアシスのライブを観たことが、今の自分の原体験です。とにかくオーラがすごくて。中学生の時から曲を書き始め、その頃から、数万人の観客を熱狂させるようなスタジアムロックを鳴らしたいという想いがありました。その想いは変わっていなくて、今もウェンブリー・スタジアムの光景を想像しながら曲を作っています。
――では、このバンドを結成したのはどういう経緯だったんでしょう。
小川 高校2年生の時に日本に戻って来て、2014年に大学に入学したタイミングでメンバーの3人と出会いました。3人とは、軽音部の集まりで席がたまたま一緒で。
島田将羅(B) みんな洋楽が好きで、部活の中には僕たちほど洋楽を聴き込む人は多くなかったので、自然とこの4人が集まりました。
大平“王将”雅樹(G) 一人ひとりのルーツとなる音楽はそれぞれ異なるんですけど、洋楽好きという共通点があり、すぐに話が深まっていって。
島田 悟のアメリカ時代の話を聞いていくうちに、「こいつはヤバい曲を書きそうやな」って思ったんですよね。4人で喋っていて馬が合ったので、そのまま「バンドやろか」と。部室の前のベンチで初めて悟が作ったデモを聴いた時は、「あ、この選択、間違ってなかった!」って思いましたね。
王将 悟のデモを聴いて、これまで聴いてきた洋楽と同じくらいかっこよくて。すぐに、「ここに僕がギターを混ぜたらどうなるだろう?」といったイメージが湧いてきて、はじめからバンドの勢いを感じました。
――最初からオリジナル曲をやってたんですか?
小川 いきなりオリジナルを始めました。ただ、軽音部ではカバーをする人たちがメインで。
島田 僕以外の3人はコピーバンドもやってたんですけど、僕は頑なにコピーバンドをやりたくなくて、軽音部ではずっと立場が弱かったですね(笑)。
小川 でも、ついに初めてタワレコにCDが並んだ日には、「ほら、言ったやん」と(笑)。
――先ほど小川さんは、数万人を熱狂させるようなスタジアムロックを鳴らしたいという、今の音楽活動にも通じるビジョンを語ってくれましたが、そのビジョンに3人もすぐに共感した、ということですね。
小川 そうですね。また、洋楽由来の音楽を、今の日本のロックシーンに届けたいという想いもあって。日本のリスナーに、世界にはこんなにたくさんの音楽があることを知ってほしい、という考えもありました。
――これまで、自分の目で広い世界を見てきた小川さんだからこそ、とても説得力がある言葉だなと感じました。
島田 結成当時から言っていることはずっと変わっていないですね。当時も今も、日本人のバンドとして世界のフェスに出演することを目標のひとつに掲げています。
“Decade”には、「次の10年間のロックシーンを俺たちが牽引していく」という覚悟を込めました(小川)
――では、新作『Class : A』について話を聞かせてください。まず、今年の3月にデジタルシングル『Decade』がリリースされました。初めてこの曲を聴いた時、サウンドアプローチがよりダイナミックに、ソリッドに、そして重厚に変化していることに驚きました。バンドとして、次のモードに突入する口火を切る1曲になったと思います。小川 それこそ、ひとつ前のアルバム『Bleachers』は、今振り返ればポップな色合いが強かったのですが、そのアルバムに収録した“Killer Boots”が完成した時に、こういうテイストの曲を俺たちはやりたいんだな、とイメージできて。この曲で、そのモードを体現できました。
王将 “Decade”は僕と悟の共作で、僕たちのルーツとなる音楽性に、2010年代のオルタナティブシーンの現代性を掛け合わせることで、自分たちが好きな方向へ向かえたなという感覚がありました。
島田 ネクスト“Killer Boots”というか、この曲が次に進むべき道を示してくれて、「これやんな」、「いけるな」という確信をもらえて。この曲には、ありがとうという気持ちですね。
――そうしたバンドにとってのブレイクスルーとなる楽曲に、「10年間」を意味する“Decade”というタイトルをつけたのは?
小川 「次の10年間のロックシーンを俺たちが牽引していく」、「次の10年間のシーンにおいて、鮮烈なインパクトを与える存在になる」という覚悟を込めています。
――いつの時代にも「ロックの時代は終わった」という言説はあって、ロックは常にそうした時代の逆風に立ち向かい続けてきた音楽ジャンルだと思いますが、この2020年代において、真正面からロックを鳴らすうえでは、相当の覚悟が求められると思うんですよね。僕はこの新作から、そうした4人の力強い覚悟を感じました。
島田 ありがとうございます。ライブでも、これまでのポップ路線の楽曲と比べて、グッと気合いを入れて演奏していて。自ずと、ライブに向き合うスタンスも変わってきました。
上羽一志(Dr) 僕自身としては、“Decade”の制作をきっかけに、ドラムのアプローチが大きく変わりました。前のアルバムまでは、初めてデモを聴いた時のファーストインプレッションを大切にしていたんですけど、“Decade”以降は、そうしたノリを残しつつ、より深く届けるためにはどうすればいいか、時間をかけて考えるようになって。たとえば“Decade”では、サビで一気に壮大な景色が開かれるイメージで、テンポをグッと落としたり、サビの前の間奏からサビに向けての抑揚を工夫していますね。
小川 この曲ができて以降、対バンするバンド仲間からの反響も大きく変わりましたね。ここから一気にモードを変えていきたいと考えていたので、作戦大成功です(笑)。
――10月には先行配信シングル『Flashback』がリリースされました。この曲も、“Decade”で切り開いたシリアスでエッジの効いたギターロック路線をさらに突き進めていて、SLMCTの最新モードを表す楽曲ですよね。
上羽 この曲のアレンジでは初めてパッドを導入して、とてもローな音を一音だけ鳴らしているんですよね。前作までは生ドラム以外の音を入れたことはなかったんですけど、バンドとして新しいモードに突入していくにあたって、今回、新しい要素を取り入れました。
小川 これも王将と一緒に作った曲で、サビの《Flashback(訳詞:思い出せ)》という歌詞には、「自分たちが、バンドを始めた時の高揚感や期待感を思い出そう」という原点回帰の想いを込めていて、だから、この曲をアルバムの実質的な1曲目に位置づけています。
――“Flashback”と“Decade”の2曲がアルバムの冒頭に並ぶことによって、今作は、バンドの第2章の幕開けを告げる所信表明としての意味合いが強まっていると思います。
小川 はい。まさに「ここからギアを変えていく」という意思表示のつもりです。