あいみょん、4枚目の傑作アルバム『瞳へ落ちるよレコード』が完成した。1曲目“双葉”が堂々たる開会宣言のように鳴り響き、続く“スーパーガール”が、どこか捻られた角度からのニヒルな告白を歌い、かと思えば、3曲目に置かれたとびきりのバラード“姿”がまっすぐに、恋の「これから」を歌ってくれる。4曲目に登場する“初恋が泣いている”は、ど正面からのど名曲。そして5曲目の“君のこゝろ”は、意表をついたオルタナティブな攻め方をしてくるロックであり、6曲目“3636”は、不意に終わりが訪れた恋を宅配ボックスというモチーフに託したさすがのリードトラックで――という具合に、ひとつの流れで、バトンをつないでいくように語りたくなる作品になっている。
そこに「アルバム」を作るうえでの、あいみょん的な必然がある。シングル曲を集めればいいのではない。アルバムという共同体で活きる曲は、●曲目でこそ意味をなす、そんな確かなキャラクターと役割を持っていなくてはいけない、ということなのだと思う。
インタビューで語られているように、この「アルバム」の作り方をあいみょんは、2枚目『瞬間的シックスセンス』ですでに確立していた。そこから『おいしいパスタがあると聞いて』を作り、その黄金比を引き継いだ最新作が『瞳へ落ちるよレコード』なのである。
今回は、そんな唯一無二の精度を誇る「アルバムメイカー」であるあいみょんをひもとくインタビューと、7曲収められた新曲についてのセルフライナーノーツを掲載。名作が名作として生まれた必然を、あいみょんの言葉とともに追ってほしい。
インタビュー=小栁大輔 撮影=オノツトム
力作で力作で、売りたあてしゃあないです。ていうか、完成したものがすごくいいので、手に取って触ってほしい、見てほしいっていう気持ちがすごくある
――今回、新曲が7曲あるんですよ。その完成度がすべからくすごい。要するに、シングルカット級の曲をズラズラズラっと並べることもできると思うんだけど、あいみょんって、そういうアルバムの作り方をしないよね。アルバムの中の曲として愛される曲をちゃんと作るっていう。そのバランス感と、その土俵の中で名曲を作るという。本当にすごいと思う。「ありがとうございます。でも、曲はひとりで選んでいるわけではなくって。私の意見がいちばん通るっちゃ通るんですけど、自己中な作品にはしたくないので、基本的に3人で選ぶようにしていますね。マネージャーさんと、ディレクターさんと。だから、私だけの感覚ではないっていうか。マネージャーさんとディレクターさんが第三者、リスナー、ファンとしての感覚を取り入れてくれているので」
――その曲選びの中で、きっと印象深いやり取りもあったんじゃない?
「ありました。今回はもう、めっちゃめちゃ悩んだんで。あれでもない、これでもないって。かと思えば、これは絶対っていう曲もありましたし。ギリギリまで決まらず、どうしようかなって思ってました。でもそれって、いいことなんですよね。デモにすごくいっぱい、いい曲があるっていうことなので。幸せな悩みやったと思います」
――どういう部分で、あれでもない、これでもないって悩んでいたの?
「もちろん、全部いい曲やって思ってはいるんですけど、アルバム全体のバランスを見て、いいグラデーションにならないとなっていう。なんやろ、言葉は違うけど、歌ってる内容は一緒じゃない?っていう曲を省いたりとか。『おいしいパスタがあると聞いて』が基準になったといいますか。『パスタ』でいう“マシマロ”って“神秘の領域へ”じゃない? “朝陽”って“ペルソナの記憶”じゃない?って。そうやってバランスを見ながらやっていった気がします」
――『パスタ』が持っているアルバムとしてのメリハリと完成度に、あらためて手ごたえがあったということかな。
「ありました。私、マスタリングで、最後の仕上げとして、アルバムを1枚バーッと通して聴く作業があるんですけど、それが苦手で。自分の楽曲でも。でも、『パスタ』の時は、すごくすんなり楽しく聴けたんですよね。その感覚って、すごくいいのかもって思って。なので今回、『パスタ』基準というか、お手本にして、曲選びをしました。なんとか系、なんとか系って分けて書いていくんです、ホワイトボードに」
――ああ、なるほど。
「昔、(笑福亭)鶴瓶さんと話した時に、私の曲を鶴瓶さんが分けてくれていたんですよ。なんとか系って。そんな感じで、たとえば歌謡曲系、クズな女系、男目線系とか分けるんですよ。その中で選んでいく、っていうこともやりましたね。だから、ホワイトボードがアリの巣みたいになってました(笑)」
――ほんとによく作られているよねえ……どの曲も。
「ありがとうございます。力作で力作で、売りたあてしゃあないです(笑)。売りたあてしゃあないっていうか、完成したものがすごくいいので、手に取って触って、聴いてほしい、見てほしいっていう気持ちがすごくあります」
思うことはいっぱいある2年間だったけど、コロナがない時と、コロナがある時と、おんなじスピードで進んだな。充実感や、音楽に向き合う時間は、ほとんど変わらなかった気がする
――曲数が多めなんだけども、結果的に13曲になったの?「もともと12曲で考えていたんですけど、私があともう1曲入れたいって言ったら、いいよって言われたんで」
――それは、なんで入れたかったの?
「どうしても、やっぱりこの曲だけは入れたいっていう楽曲が多すぎて。それで結果的に13曲になった感じです」
――なるほど。それはこの曲を入れたいという、具体的な理由があったの?
「今回のアルバムって、変な曲とか、極端に短い楽曲が多いので、遊びだけじゃなくて、J-POPといいますか、これぞあいみょんだって思ってもらえる楽曲もあったほうがいいとか、いろいろ考えているうちに、12曲じゃまとまらなくなったので、13曲にしました」
――今回のアルバムはすごく誠実な作品だよね。しかも、ふたつの誠実さがあると思う。ひとつは、この作品って、約2年ぶりじゃない?
「そうですね」
――この期間はツアーが回れないこともあったし、僕らもフェスができなかった。その中で発表するものとしての新曲を、あいみょんはたくさん書いてきたんだよね。主にこのアルバムでいうと、6曲の既発曲。それぞれ、今、歌うべき価値のあることってなんだろうとか、今、届けたい、届けられてうれしいことってなんだろうとかね、“双葉”なんかまさにそういう曲で。何かに向き合いながらあいみょんは曲を書いてきた。その誠実さが、このアルバムには、今まで以上に詰まっている感じがするんだよね。まず、そういう観点でこの2年を振り返ると、どう?
「予想もしなかったことがたくさん起きて、すごく性格が悪いことも考えましたよ。自分さえよければいいって思ったりもしましたし。でもラッキーなことに、なんだかんだくぐり抜けてきたんですよ。ツアーもやれて。このラッキーって、ほかのアーティストさんからしたら、すごく嫌な言葉だと思いますし。でも、それでもやっぱり私はそう思ってました。そういう自分もいましたけど、自分にもいろんな中止、延期っていう打撃があって。それでもやれてるほうやからありがたいと思ってましたけど、ほんとなら全部やりたかったですし、お客さんも100パーでやりたかったし、思うことはすごくいっぱいある2年間でしたけど、正直、コロナがない時と、コロナがある時と、おんなじスピードで進んだなと思ってるので。そういう意味でいうと、意外と充実感や、音楽に向き合う時間は、ほとんど変わらなかったのかなっていう気がしますね」