──アルバムではその2曲が続く美しい流れのあと“もうすぐゆうれい”につながるのが、また衝撃的で。不穏な空気のサウンドに、境界ギリギリのところに立つ人の心象風景が描写されています。自分が曲の中で伝えたいのは「ずっと味方でいるよ」っていう、ただそれだけだなっていうところに辿り着いたんです(少年)
少年 中央線に乗っていた時に、そこに乗っていたスーツ姿の人がものすごく暗い顔をしていたんですよ。朝から晩まで働いて、もう人生が嫌になっているのかもしれないって、その人の心理を妄想するところから歌詞を書いたんです。なので、シンセで中央線のホームの発車音を抽象化させた音をちりばめて、それがすごく不穏な空気を醸し出してますね。これはあまり解釈を必要としない曲というか、歌詞としてはわかりやすいものを書いたと思います。でもこういう一線を踏み越えたみたいな曲って、今まで終活クラブにはなかったし、大きな挑戦だったかなと思います。
羽茂 シンセのフレーズは少年のデモにすでにあったんですけど、それが中央線の発車音をモチーフにしてるって聞いた時、正直ちょっと嫌な気持ちになりました(笑)。それくらい攻めた曲っていうか、ほんと、一線を越えた曲になってる。これをライブでどうやるか、まだ試行錯誤中ですね。
──この異質な曲のあとに、“地球破壊のマーチ”がくることでバランスが取れている気がします。
少年 そうなんです。ここらへんで、冗談だってわかってもらえるかなと。そういう意味でもこれは終活クラブらしい曲なんですけど、これは『メジャーな音楽』を作るにあたって、最初のほうに書いた曲です。時々、「この日に地球が滅亡する」みたいなことが言われたりするじゃないですか。
──ああ、この前もありましたよね。
少年 7月くらいにありましたよね。ああいうのって、みんなどこかわくわくしてるというか。
──不謹慎だけど、なんとなく終わりを望む感じもあって。
少年 そうなんです。終わったらラクなのにとか。この曲は、その思いが異星人に届いて襲来しに来るという曲なんですけど、これ、歌詞だから何を言ってもいいっていう、そういう歌です(笑)。
──《※当作品はフィクションです》って入っていますしね(笑)。
ファイヤー・バード すごく終活クラブらしい曲なんだけど、歌詞だけじゃなくて演奏もやりたいことやる感じなんですよね。ドラムでいったらサビ前に急にテンポ感が落ちるっていう、ちょっと新しいことやってる。
──さらにここから続く“エキチカダンスフロア”は、打ち込みの完全なる新機軸ですよね。
少年 そうですね。僕、クラブとか行ったことないし、人を殴ったこともないんですけど(笑)、そういう日陰者が「でも、好きな人がいるならクラブも行くよ」っていう曲。すごい華やかな、クラブで鳴っていそうなEDMの中で情けないことをずっと言い続けるということに、この曲の美しさがあると思っています。
──これは最初から打ち込みでやろうと?
少年 バンドサウンドで表現したいなと思ったんですけど、生ドラムの音を基準に作ろうと思うとクラブっぽさみたいなものが出せなくて。であれば、EDMを作っている方にトラックはお願いしたほうがいいなと。
──今回、アルバムの曲順がすごく考えられていますよね。
少年 そうですね。今回はもうバチコンとはまった感じがあります。すごくきれいにクロスフェードしていく感じが出せたなと。
──“○○○○”から“ビトビト”の流れもすごくクリティカルで、少年さんの言いたいことがストレートに書かれていて。
少年 “○○○○”は初めてスタッフに「歌詞、修正しようか」と言われました。初めて歌詞を直した曲なので、それはそれで思い出深い曲になりましたね(笑)。
──それでタイトルも伏せ字に(笑)。なんとなく想像はつきますが。
少年 だいぶギリギリですよね。“ビトビト”も、終活的にはだいぶ新しい感じの曲になったかなと思います。
──少年さんがこの2曲を書くというのは、やはり世の中の歪さから目が逸らせないから?
少年 “もうすぐゆうれい”もそうなんですけど、たとえば歌舞伎町で座り込んでいる人とかを見て、みんな今どんなことを考えてるんだろうと思うところから書き始めて。“地球破壊のマーチ”と近い時期に書いたものなんですけど、きっと「世界なんか早く終われ」って思ってるんじゃないかなって。妄想でしかないですけど、そこから好き勝手書いてしまったという感じですね。
──今作は、そうした時代の歪みから目を逸らさずに書いた曲が多い中で、1曲目の“劇伴”は、そんな時代に生きる人に向けて、終活クラブが伝えたいことが集約されているような気がしました。
少年 自分は音楽を作って、結局何が言いたいんだろうなって考えていたんですよ。その中でふと、自分の好きな漫画ってすぐ打ち切りになるよなあって思ったんです。『ジャンプラ』(『少年ジャンプ+』)とかで好きになった漫画が来週もう最終回なのかと思った時、でもそれは作品が終わるだけで、続きを読者が見ることはできなくなっても、登場人物たちの日常は続いていくはずで。それって、終活クラブを好きだったけど嫌いになったとか、何か理由があってライブハウスに来れなくなったとか、そういう人たちとも同じだなって。もう会えなくても、自分が曲の中で伝えたいのは「ずっと味方でいるよ」っていう、ただそれだけだなっていうところに辿り着いたんです。これは絶対に最初に伝えたかったことなので、『メジャーな音楽』の1曲目に入れました。
今まで以上に自分を曝け出したアルバムで、“無名芸術”も“メジャーな音楽”も“劇伴”も、ライブで目の前にいるお客さんの表情をイメージして書いた(少年)
──タイトル曲の“メジャーな音楽”にもつながる曲ですよね。“メジャーな音楽”は曲作りに向き合う時の葛藤が、《君だけを救うんだ 音楽で》という思考に着地します。
少年 ライブをやっていていつも思うんですけど、目の前にいる人たちと一緒にライブを作っているという感覚がすごくあって。それと同じように、僕たちの音楽を待ってくれてる人たちと共鳴して一緒に曲を書いていくような感覚で作りたいなって思ったんですよね。なので最後は《君と書くメジャーな音楽を》っていう歌詞で締めくくって。そこに辿り着くまでに右往左往する様を描いた曲です。
──悩んで悩んで、最後に辿り着くのは終活クラブの音楽を聴いてくれている人たちのことで。この曲が“無名芸術”に続くのが、このアルバムの要なんだなと思いました。
少年 そう思っています。
──石栗さんは、この最後の流れをどう捉えましたか?
石栗 1年間、メジャーというフィールドでバンドのギタリストとしてやってきて、じゃあメジャーなギタリストってなんなのかって、わかんないままなんですよ。ただ、自分がかっこいいなって思う音楽とかギタリストって、その音を聴いただけで、この人だとわかるんですよね。僕はそれがかっこいいと思うので、“メジャーな音楽”って大袈裟なタイトルだけど、ただ、自分が思っているかっこいいギターをとにかく弾こうという気持ちでアレンジしました。“無名芸術”もそうで、最初に自分がこう弾きたいと思ったものをとにかく大事にしようと。アルバムの流れとして、いちばん最後にシンプルなギターソロを入れました。僕の得意なフレージングとかタッピングとか、少し捻った自分の好きな音作りではなくて、結局シンプルなものがいちばんかっこいいのかなっていう葛藤で終わるみたいな。僕が思い描くミュージシャン像みたいなものがうまく表現できたかなって思います。
──ライブでこの“無名芸術”がどう鳴るのか、想像して聴いていました。
少年 僕も想像しています。
──このアルバムはあらためて終活クラブのアイデンティティを示した作品になりましたよね。
少年 そうですね。とても素直な作品になっていると思っています。今まで以上に自分を曝け出したアルバムで、“無名芸術”も“メジャーな音楽”も“劇伴”も、ライブで目の前にいるお客さんの表情をイメージして書いたところがあるんですよね。
──アルバムリリース後には、いよいよ、前から目標に掲げていた東名阪のクアトロワンマンツアーも始まりますね。
羽茂 ありのままの自分たちがいままでライブハウスで積み重ねてきたものを、うまく表現できたらいいなって思います。その先にもいろんな予定が決まっているので、そこにつなげられるワンマンにしたいと思っています。
ファイヤー・バード 今の自分たちの力を出し切った、攻めた音源でクアトロに臨むっていうのは緊張もあるけど楽しみでもあり、お客さんに、今回のアルバムがいちばんよかったなとか、ライブにも来てよかったなって思ってもらえる、そんなツアーになったらいいなって思います。
石栗 クアトロツアーは今の自分たちにとっては最大の挑戦だし、ライブの見せ方、音、パフォーマンスもすべて、今までの枠を飛び出して考えないといけないなと思っているところです。このアルバムの曲はそういうポテンシャルを秘めたものばかりなので、それを自分たちの武器として、自信を持ってクアトロに挑めるかなと思っています。
少年 そもそもなぜ僕らがクアトロワンマンを目標にしていたかというと、巷の噂で「クアトロのワンマンツアーをいい感じに埋められるとバンドでメシ食えるようになるらしいよ」って聞いていたので(笑)。やっぱりこの終活クラブというバンドを自分たちの人生にしたいし、そのために必死でもがき続けるのが終活クラブだと思うんですよね。だからこのクアトロは、成功するかしないかよりも、成功させるために必死になるということが大事だと思っています。なんにしても最高のライブになることは確実なので、いっぱい来てほしいです。
──ほんと、終活クラブは自分の人生をちゃんと見せてくれるバンドですよね。
少年 そうですね。やっぱり漫画を読むみたいにバンドを応援してもらいたいなっていう思いがずっとあるので。巻数を増すごとに、成長したり強くなったり、新しい必殺技を覚えたり。あとはやっぱり気合いと根性(笑)。
──ジャンプのスピリットにも通ずる(笑)。
石栗 友情・努力・勝利(笑)。
少年 メンバーの人間性自体はなんも変わってないし、これからも変わりようがないと思います。