【インタビュー】ひとひらは単なるシューゲイザーバンドではない。人間の「生」の循環を描ききった深遠なる最新作『円』について

【インタビュー】ひとひらは単なるシューゲイザーバンドではない。人間の「生」の循環を描ききった深遠なる最新作『円』について

「円」というテーマでアルバムを作るにあたり、どうしても「親子」という関係性は無視できないもので。今までの自分だったらこんな歌詞は絶対に書かなかったと思う

──特に“その景色”という曲にはそのテーマが色濃く映し出されていると思います。中国でのライブ経験がこの曲を書くきっかけになったとのことですが、そのライブでどんなことを感じたんでしょう。

中国のライブで演奏をした時、言語がまったく違うはずなのに、自分が日本語で作った歌を、日本語のままみんなが歌ってくれてるのを見て、これはすごいことだなって思って。自分が楽しむためだけに始めたバンドなのに、それが海を超えた先の、名前も知らない、国籍の違う人たちにまで届いていたんだなと。バンドを続けていなかったら、それは見ることはなかった景色ですよね。中国での体験だけじゃなく、この曲で言っている「景色」というのは、すべて自分がこれまでに採ってきた「選択」の結果であるということで、そういう景色はすごく大事にしたいなと思ったんですよね。

──歌唱も、これまでの作品とは少し違うニュアンスですよね。

ボイトレに通い出したんですよ。今はちょっと休止中なんですけど(笑)。もともと歌は全然好きじゃなかったんです。でも、最近は楽しいかもって思えるようになってきて。なので歌と向き合って作った楽曲が多いというのも、前作との違いかもしれないです。

──ライブを重ねていくごとに歌が楽しくなってきた?

ライブもそうですし、ボイトレの練習も楽しいなと思えて。就職して仕事を始めたので、仕事終わりにそのままボイトレに行くという感じだったんですが、シンプルに歌うことがストレス解消になっていたのかも(笑)。大学生時代に比べてストレスを感じることも多くなったぶん、より音楽というものが自分にとっての娯楽になっていて。その中で歌うことの楽しさみたいなものに気づいたんだと思います。

──それはギターを弾き倒すのとはまた違った解放感?

そうですね。ひとひらの良さとして、このギターサウンドがあったうえで自分のポップな歌が乗るというのが強みだと言ってもらうことが多かったので、じゃあ歌をさらに伸ばしたほうがバンド的にもいいよねという意識からボイトレを始めたんです。そしたら楽しくなっちゃって(笑)。

──そしてもう1曲、“小さな亡霊”という曲は、山北さんの幼少期の記憶がもとになっている曲だと思うのですが、これは今回の『円』というテーマを最も具体的に感じられる曲だと思うんです。もしかしたら、この曲に描かれている景色って、今回の『円』という作品制作に最も大きな影響を及ぼしているんじゃないかなと思って。

ほんとにその通りです。「円」というテーマでアルバムを作るにあたり、どうしても「親子」という関係性は無視できないもので。今までの自分だったらこんな歌詞は絶対に書かなかったと思うんですけど、年齢的にも親という存在のありがたさを感じるようになってきて。幼い頃に、祖父母の家の前で父親とキャッチボールをしたときの記憶がずっと残っていたんですよ。その当時は正直めんどくさいなあって思いながら、そういう時間を過ごしていたように思います。でも、そんなふうに一緒に遊んでくれたりして、近かった距離感が、思春期が訪れて会話も減って、最近ではひとり暮らしを始めて実家を離れたこともあって、余計に離れてしまった。でもどんどん、自分の年齢は当時の親の年齢に近づいていて、あのときの親の気持ちがわかるようになってきて。ふと、あのキャッチボールしたりした時間は、すごく大事な時間だったんだと気づいたんですね。そうして一周回って自分の目線が親の目線に重なっていくというのが、今回の「円」というテーマにすごくマッチしていて、今回、絶対書いてみたいと思ったのがこの曲でした。この親子の関係性も「円」というか「循環」なんですよね。今作の中で最もパーソナルな曲です。

人生は有限ではあるけれども、歌が聴き継がれていくことで、その有限を否定できるかもしれないということを今作では表現したかった

──“小さな亡霊”があることで、今回のテーマの解像度がグッと上がった気がしました。そして先行リリースされた“夏至”。これは別れの歌ですね。美しくて激しいギターの音色も耳に残ります。

自分でもなんでこんな歌詞が書けたんだろうって思うんですけど、「卒業」というのはひとつ大きなきっかけとしてあったと思います。卒業は人との別れでもあり、学生時代の自分自身との別れでもある。楽しかった時間に別れを告げなければいけないというのがあって、当然そのタイミングで関わりを持たなくなっていく人がいますよね。具体的な話でいえば、自分は大学時代の4年間、塾講師のバイトをずっとしていたんですけど、4年間ずっと見ていた生徒でも、バイトを辞めれば確実に会うことはなくなるわけで。そうやって一瞬だけ交わる時期があり、また離れていく。そしてその過去にはもう戻れない。「今」だったものもすぐに過去になってしまう。人生はその繰り返しでしかないのだなと。過去と言われるものが連なって「今」に至っているという思いが強く湧き上がってきたんです。終わりでありながら、そこから始まるものがあるということを考えていました。

──この曲は轟音ギターの背後で、遠くに悲痛とも思える叫びが聞こえてきます。あれは何を表現しているのでしょう。

もともとはあのシャウトのパートはなかったんです。アレンジも全然違うアレンジだったし。あそこの歌詞は公開するつもりはないんですけど、いちばん言いたいことが実はあのシャウトパートに詰まっていて。ざっくり説明すると……いや、言わないほうがいいか(笑)。少しだけ言うと、あそこは「今」を肯定したいという気持ちが込められていて。加筆して、そこで初めて“夏至”という曲が完成したと思います

──それがこのアルバムのエンディングにまで繋がっていくような気がします。最後は“円”というタイトル曲で、まさに「今」にフォーカスした曲で終わる。「今」を大切にしていくことで続いていく「円」があると。その重要な結論に辿り着きます。

そうですね。最後の《私のいつかの姿が「無意味」としても/今日あなたと明日を繋ぐよ》という歌詞の通りなんですが、いずれ死んでいくという結末が決まっているうえで、ではなんのために人生があるのかと考えたとき、生きていてよかったなと思う一瞬一瞬の連続があるからこそ、次に繋げていけるのだなと。本当に、自分が何かを歌った瞬間も過去になっていく。そこに意味なんてないんですよ。でも一日一日、一瞬一瞬に、すごく充実した瞬間があればこそ、それ自体は無意味なのかもしれないけど、それがその先に意味をなしていくこともある。そんなことを思いながら、最後の一節の歌詞を書きました。

──それがさっき山北さんの言っていた音楽の「継承」というテーマとも繋がるわけで。シューゲイザーのサウンドには、その「今」の儚さと尊さが映し出されているのかもしれないですね。

“円”にはすごく長いアウトロがあって、ずっと続いていくんじゃないかと思うような長さであっても、それがいつしか消えて、こと切れるような終わりなんですね。いずれ終わりが来る、そういう肉体的な終わりをここで表現しています。

──人間の生の有限というか、ひとつの終わりがここで描かれて、でも同時に無限でもあるということを描いたこのアルバムは、ここからまた1曲目へと円環で繋がりますよね。

ほんとにその通りで。自分が死んでしまったとしても、たとえば今回この『円』というアルバムを出した以上は、この音楽はどこかにずっと残るはずで。それがほんとに美しいことだなあと思うんです。ひとひらが終わったとしても、ひとひらに影響を受けたバンドがいる限り、ひとひらという炎は燃え続けるのではないかと思っていて。人生は有限ではあるけれども、歌が聴き継がれていくことで、その有限を否定できるかもしれないということを今作では表現したかったのだと思います。それが今作の結論だと思います。

──ひとひらというバンドは、今後どのような存在でありたいですか?

このバンドのいちばんの目的は、今の4人で末長くやりたい音楽をやり続けるということ。もちろんいろんな人が聴いてくれたら嬉しいし、そこは大事にしたいんですけど、なぜこのバンドを始めたかと言えば、自分たちがやりたい音楽を大きい音で鳴らしたいというだけだったので。それをずっと続けられたらいいのかなと思っています。なのでいちばんの目標は「おじさんになってもやりたい音楽を鳴らし続けること」です(笑)。

──それでいくとやはり「今」なんですよね。「今」の音を刻み続けていくという。

そうなんです。やはり続けていくこと。続けていけば、それを受け取ってくれる人が必ず出てくる。自分たちが続けていくということが、結果的に楽曲が残り続ける、広がり続けることになるんだと思っています。

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