plenty@渋谷公会堂

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「バンドになって良かった…!」江沼郁弥(Vo・G)が両手を挙げて噛み締めるように放ったその言葉が全てを物語っていた。――正式メンバーとして中村一太(Dr)が加入し、plentyがスリーピースバンドとして始動してから初のリリースとなったミニアルバム『空から降る一億の星』を引っ提げてのワンマンツアー「plenty 2014年 冬 ワンマンツアー」のツアーファイナルが渋谷公会堂で行われた。今まで観てきたplentyのライヴの中で、彼らがこんなにも素直に喜びを表現したアクトはあっただろうか? そう思わせるほど、この日のアクトは一点の曇りも無く晴れやかで、まるで本当に一億の星が降る夜空のように澄み切った音を鳴らしていた。

霧が立ち込めているかのような濃いスモークがかかった会場に、SEのヴァイオリンの音色が鳴り渡る。そんな幻想的なステージに江沼、新田紀彰(B)、中村の3人が静かに現れると、会場は彼らを温かい拍手で迎えた。そして楽器を手に取った3人が目を合わせて互いにうなずき、中村がゆっくりとスティックでカウントをとると切ないバラード“手紙”が会場いっぱいに響く。今作『空から降る一億の星』の1曲目を飾るこの曲は、歌詞こそ切なくはあるが、そこに弱さは感じられない。自分の抱く感情を真っ向から受け止め、そこに《理由はいらない そうだろ》と自分自身を信じる強さを歌う。自分がしていることを自分で肯定することは意外と難しい。他者に認められなければ、自分が間違っているのではないかと一瞬でも疑ってしまうのが大抵だ。しかし、江沼はそうは歌わなかった。自分の意志で歩き続ける、そんなplentyの確固たる決意を冒頭からひしと感じた。そして続く“幼き光”を終えると、江沼の「こんばんは、plentyです! 新しいドラマーが入りました、中村一太です。中村一太でございます」との紹介を受け、中村が「宜しくお願いします、宜しくお願いします」と丁寧に挨拶。さらに「ベースのにっちです。今日もクールですね」との江沼のコメントを、紹介通りクールに目線で返す新田。そんなやりとりから、互いが気負わずに自分らしく居られるというバンドの心地良さが垣間見えた。

そこから“理由”“普通の生活”と続き、無常を悟ったかのような“からっぽ”を淡々と歌い上げる。江沼のひんやりとした歌声に聴き入る会場は、曲が終わって彼がエフェクターのスイッチを踏む音がはっきりと聞こえるほどに静かだった。そんな凛とした空気を和ませたのは、中村と新田の絶妙に緩いやりとりだ。渋谷公会堂でのライヴが1年振りという話から「一太が入って初めてか…どうですか?(新田)」「楽しいです(中村)」「俺もでーす(新田)」と淡々と話すふたりの様子が、会場の温かな笑いを誘った。そんなふたりを江沼が「お行儀が宜しくて」とまとめ、そのまま“まだみぬ君”のミディアムポップなメロディーへと導いた。と思いきや、続く“或る話”で真っ赤な照明が攻撃的に会場を染め上げ、雰囲気はダークな世界に一変。新田が弾く柔らかくも芯のあるベースと、江沼が掻き鳴らす鋭利なギターフレーズのコントラストが冴え渡った。さらに“ボクのために歌う吟”“その叙情に”と初期の楽曲を連打、ヒリつくような衝動を歌い上げる。続く“枠”では目も眩むほどの強烈なストロボの光と弾丸のような中村のドラミングに終始圧倒された。そんななか江沼が「楽しんでますか?」と問いかけると、大歓声と拍手による返事が返ってくる。そして青赤緑の光の三原色で彩られたステージでソリッドに奏でられた“おりこうさん”、静かな楽曲=plentyという印象を豪快に覆す“パンク”のハイスピードな楽曲に自然と身体が揺れる。すっかり温まった会場に向かって、ここで中村がこの日に至るまでの思いを語った。「ここ数年、たくさんの人を振り回して、たくさんの人に支えられて、毎日がもの凄く目まぐるしく変わっていったんですけど。でも、江沼と新田と出会って、いま自信を持って音楽をできることへの喜びを先ほど感じておりました」と話す中村に、会場からは大きな拍手が贈られた。そして江沼、中村、新田の順にスポットライトが当たり、伸びやかに刹那を歌う“プレイヤー”、そして“あいという”の寂しくも温かいメロディーが聴く者の心にゆったりと沁み込んでいく。

美しい余韻に浸る会場に「日々是好日、という言葉がありまして」と江沼がおもむろに話しだした。「この言葉を、毎日が良い日でありますようにという意味だと思っている人が割と多いらしくてですね。でも本当は、晴れの日だったり雨の日だったり、楽しいことがあった日や哀しいことがあった日、そういうのを全部ひっくるめて幸せなんじゃないかっていう意味なんだって」と説明し、それに感銘を受けた矢先、岡本太郎の「幸せを感じるのは鈍感な奴だけだ」という言葉に面を食らったというエピソードを踏まえて「そんな時に作りました」と演奏されたのは“見知らぬ朝”。淡い色の照明に照らされて、どこか諦めたように《幸せからは学べない》と歌う江沼は、続く“東京”を悲しみを滲ませた声で丁寧に歌った。

plenty@渋谷公会堂
前ドラマー・吉岡の脱退で一度はふたりになった江沼と新田。その不安や悲しみは、推し量ることはできない。でも、ふたりが「いつかまた必ずバンドになりたい」という気持ちを抱き続けた結果、運命か必然か中村が正式に仲間となり、バンドとしてplentyが活動できることとなった。そんな思いを、ツアー中に頻繁にしたケンカの話になぞらえて語った。「すごい憎たらしいんだよ!(笑)。でも俺は、そういう憎たらしい相手がいるってことすら楽しくて、いま毎日が楽しい。ケンカができるってすごくいいよね。思ったことに対して反応が返ってくるってすごくいい。だから、怒ってくれる相手は、本当に、大事にした方がいいですよ…うん、大事にしていこうと僕は思いました!」と、たどたどしく話す江沼は心から嬉しそうだった。そんな3人を祝福するかのように、今日一番の拍手が会場を温かく包み込んだ。

そして「ありがとうございました!」との江沼の合図で、公演も終盤へ。plenty史上最速のBPMで目まぐるしく展開する“先生のススメ”、さらに“待ち合わせの途中”と続くと、突如ステージ中央にテントを模した大きな布が降りてきた。布には“イキルサイノウ”のミュージックビデオが映し出され、映像と生演奏のダイナミックな演出がなされた。さらにラストの“空から降る一億の星”では、ステージに無数に吊るされた電飾が星のように輝き、まるで宇宙空間に投げ込まれたような壮大でドラマティックな楽曲の世界観を、会場を天井まで大きく使って見事に再現していた。

感動しきりの本編が終わるや否や、早々に求められたアンコールに呼ばれて再度ステージに戻った3人は、“人との距離のはかりかた”“最近どうなの?”、さらにこの日2回目となる“枠”を堂々と演奏! 「バンドになって良かった!」と、江沼が冒頭の言葉を放つと「これからも我々のわがままに付き合ってください! さようなら!」と、ラストの“蒼き日々”を奏で上げる。曲が進むにつれ会場の照明が明るくなり、最後には客電まで全てが点いた。《朝が来るまでは僕だけが正義。》という歌詞のように、まるで夜を越えて朝がやってきたかのようなその演出は、3人になったplentyの未来を明るく照らすかのようだった。(峯岸利恵)

■セットリスト

01.手紙
02.幼き光
03.理由
04.普通の生活 
05.からっぽ
06.まだみぬ君
07.或る話
08.ボクのために歌う吟
09.その叙情に
10.枠
11.おりこうさん
12.パンク
13.プレイヤー
14.あいという
15.見知らぬ朝
16.東京
17.先生のススメ
18.待ち合わせの途中
19.イキルサイノウ
20.空から降る一億の星

(encore)
21.人との距離のはかりかた
22.最近どうなの?
23.枠
24.蒼き日々
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