アース・ウインド&ファイアー @ 新木場スタジオコースト

掛け値なしにめちゃくちゃ楽しいライヴだった。もちろん、モーリス・ホワイトはいない。全盛期のメンバーで残っているのはフィリップ・ベイリーを始めとする3人だけである。だがそれでも彼らは紛れもなく、私たちが愛し、そして期待した、あのアース・ウィンド&ファイアだったのである。

ホーンを含む総勢12名の大所帯。4人のメンバーがヴォーカルとコーラスを兼任する。全員かなりの腕達者だ。のっけから”Power””Africano”とメドレーで畳み込まれ、血が逆流する。かの全盛期の名作ライブ・アルバム『灼熱の狂宴』(1975)の冒頭と同じ2曲ではないか(曲順は違うが)。そのまま”Faces”へと続き、切れ目なく”Boogie Wonderland”が鳴らされると、会場は一気に沸騰する。近頃見たことないぐらいの、客席の盛り上がりだ。”Boogie Wonderland”といえば、当時はディスコブームに媚びてコマーシャリズムに身を売った陳腐なヒット狙いと思えて、大嫌いだった。でもカラダは動き、歌詞は全編勝手に口をついて出てくる。なんだ、結局オレはこの曲が大好きだったのか。間奏ではラテン・ハウスみたいな今風のビートになって、1979年のディスコとテン年代のクラブが接続する。めっちゃ楽しい。

こんな具合に実況中継していくとキリがないが、観客が望み、聴きたいと思った曲はほぼやったのではないか。アンコールも含め全23曲。全曲知っているばかりか歌えるようなキラーチューンばかりだった。だから1時間半のショウは一切飽きるということがなかった。それは僕が特別なマニアだからではなく、誰もが知っているような曲しかやらなかったからだ。それもほとんどが1979年以前の曲ばかり。1980年代以降の楽曲は結局”Faces”(1980)と”Let's Groove“(1981)しかやらなかった。自分たちの楽曲で一番観客に親しまれ、浸透しているのは1970年代の楽曲。だから当時の楽曲しかやらない。おまけに背後のスクリーンにはモーリス・ホワイト時代の70年代のライヴ映像が流される。潔いばかりの割り切りではあるが、プロフェッショナルなエンタテイナーとしては圧倒的に正しい。ノスタルジックな懐メロショウという批判はあるだろうが、彼らにアーティストとしてのやりがいだのモチベーションなどを問うても無意味だ。ヒット曲をやらず、誰も知らないし誰も望んでいない新曲を空気を読まず延々と垂れ流すようなハンパなアーティスト気取りと、お客様を喜ばせることに命を賭けるEW&Fのようなプロのエンタテイナーでは、性根の座り方が違うのである。

それはフロントマンでありメイン・ソングライターでありプロデューサーであり、つまりは絶対的中心人物であるモーリス・ホワイトがいなくなってもEW&Fが続いている理由でもある。トム・ヨークがいないレディオヘッドが、アンソニー・キーディスがいないレッチリが成り立つかと言えば、成り立つ成り立たない以前に客が絶対に許さないだろう。だがEW&Fは、極端に言えばメンバーが誰であろうが、皆が望む楽曲をいいコンディションで演奏してくれれば、それでいい。なぜなら観客が愛しているのはメンバーのキャラクターというより楽曲や音楽だからだ。それに応えるように、中心となったメンバーがいなくなってもEW&Fの看板は残り、当時のままの新鮮な喜びに満ちた楽曲を演奏し続ける。まるで、代替わりしても伝統の味を守り続けている老舗の和菓子店のようではないか。それを好み支える少なくない数のお客がいるのは、この日の観客の幸福そうな表情を見れば、一目瞭然だった。もちろんモーリス時代のEW&Fはアーティスティックなこだわりや野心があったに違いないが、今の彼らは違う道を歩んでいる。それでいいではないか。(小野島大)

〈SETLIST〉
01. Power, Africano, Faces
02. Boogie Wonderland
03. Jupiter
04. Yearnin' Learnin'
05. Sing a Song
06. Shining Star
07. Saturday Nite
08. Serpentine Fire
09. Sun Goddess
10. Kalimba Story
11. That's the Way of the World
12. After the Love Has Gone
13. Reasons
14. September
15. Let's Groove

En1. Fantasy
En2. In the Stone
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