昨年の冬に行われたロッキング・オン主催のアマチュア・アーティスト・コンテスト「RO69JACK 2015 for COUNTDOWN JAPAN」の優勝バンド、ゴードマウンテン。大阪を拠点に活動する彼らの3rdミニアルバム『過ぎ来し方へ』のレコ発イベントの東京編が渋谷Milkywayで行われた。仲間の記念すべき日を祝おうと集まったのは、金曜渋谷の賑わう街にも負けない盛り上がりを確約する若手バンド5組。若者ならではの不安定さや未熟さを内包した歌声で観客の共感を捕らえた赤丸。登場からエンターテインメント性を発揮し、ダンスチューンを武器にしてフロアとの距離を一気に縮めたFREE SQUARES。ゴードマウンテンと同じくRO69JACK 2015 for COUNTDOWN JAPANで優勝したGrandStandは、バラエティに富んだ楽曲と観客全員を巻き込んだ振り付けで会場の空気を掌握。名古屋のThree Outは、他の追随を許さぬ極上の重低音と洗練されたメロディとのバランスが抜群に映えていた。そしてトリ前を託されたスリーピースバンド・安頭は、独特の空気感で異彩を放ちながらもゴードマウンテンとの友情を熱く語り、本気でバカをするという突き抜けたモットーを観る者全員の胸に叩き込んで、トリへのバトンをしっかり繋げた。
そして5組の仲間が託した想いを一身に背負い、本日の主役であるゴードマウンテンがステージに登場。あっきゅん(Gt・Vo.)、安村 航(Gt)、たか(Ba)、でーもんほった(Dr)が静かにセットすると、あっきゅんが「ありがとう、ありがとう」と噛み締めるように漏らし、「最後、ここで全てを終わらせましょう」と“過ぎ来し方へ”を歌い出す。その一瞬で、喉の辺りをきゅっと絞められたような緊張感に襲われた。それは「真剣に受け止めなければ、飲み込まれてしまうぞ」という身体からの警告のようなもので、案の定次曲“モルヒネ”では一切の遠慮のない音圧と言葉の絶唱に全感覚を掌握されてしまった。そしてそのエネルギーは、若さなどの純真無垢な感情から生まれるものではなく、どこか達観したような、潜在的な物悲しさから搾り出したようなものだった。続けてプレイされた“ユートピア”なんてまさに真骨頂のような曲で、息吐く隙や涙を拭う動作さえも阻まれるほどの気迫に圧迫感すら覚えた。そして同時に、彼らはそんなにも必死になって、一体何を掴もうとしているのだろう?という疑問が脳裏を過った。
あっきゅんはMCで、高校生の時にバンドを始めたきっかけは自分が当時好きだった先輩の「バンドってかっこいいよね」という一言だったと話し、今はそれさえも大事な想い出に変わり、メンバーやファンと築いてきたものを守るために歌い続けているのだと語った。そして「俺たちが何と戦っているか?対バンの皆や売れている人をやっつけたいと思ってる。でもその前に、自分に勝てる自分になりたい。そして、そういう人間をあなたたちに見せたい」と語り、「そんなあなたたちに言えるのは、1個だけ。大丈夫だよって言ってあげます」と最後に“人の痛みに触れた時に”を届けた。その絞り出すような歌声とそれを支えるシンプルながらも力強いサウンドを聴いて、彼らがどうにかして掴みたいものは、自分たちの音楽に救いを求める人の手なのだと分かった。たったひとりのたった一言から始まったバンドが、次は誰かを救うためのバンドになろうとしている。≪そんな頼りない僕だけど/その痛みを分けておくれ≫―――そんな真摯な歌詞と姿勢に最後まで胸を打たれ続けた、迫真のアクトだった。
そしてアンコールでは一転、「楽しんで帰ろうぜ!」とアッパーチューン“空虚な感覚”を投下! たかとでーもんほったのリズム隊が繰り出すダンスビートに合わせてクラップが沸き起こり、安村のギターが鋭くも気持ちよく冴え渡った。人間が持つ感情の明暗のコントラストを短い時間にも関わらず色濃く表現した、素晴らしいライブだった。(峯岸利恵)
ゴードマウンテン/渋谷Milkyway
2016.10.14