とにかくオープニングの“Homesick”からラストの“Tyrants”に至るまで倍々ゲームで積み重ねられていくエモーションに対し、ほとんどクールダウンする瞬間がなかったのが凄い。2年前の代官山UNITでの初来日公演ではそれが抑揚のなさや一本調子にも感じられたのだが、抑揚なんて挟んでる暇はないと言わんばかりの力技で捩じ伏せていった今回は全編クライマックス状態で、ショウはガシガシ爆走を続けていく。「これ大丈夫なの? 息切れしない?」なんて心配しつつ観ていた筆者だったが、3曲目にしてこの夜初めて披露された『ザ・ライド』からのナンバー“Soundcheck”の、タイトに引き締まりまくったリズムと確信の塊のように振り下ろされるギター・ストロークを目の当たりにして、このアドレナリン過多のアンストッパブルな状態こそが、現在の彼らにとって最もヘルシーな心身の在り方なのだと理解できた。
そう、そういう堅実なバンド・アンサンブルが背景にあるからこそ、ヴァンの弾けっぷりが成立しているわけで、キャットフィッシュの激情型ライブはけっしてポップ・ソングの美観をぶち壊しにするものではないし、右へ左へと走り回っているヴァンもけっしてはちゃめちゃに破滅主義のロックンローラーというわけではない。倒れそうでなかなか倒れない彼のマイクスタンドの扱いには笑ってしまったが、ギリギリのところでステージ全体を見渡す客観性だったり、もっとミクロな視点ではメンバー同士の気遣いだったりがそこにちゃんと息づいているあたりが、このバンドの絶妙なバランス感覚だと思うのだ。
それにしても、フットスピーカーに足をかけてシャウトするギター・バンドのフロントマンなんて、2010年代の今そうそういないと思うし、「トキオ!カモン!」と30回くらい叫びつつ客席に手を伸ばし、オーディエンスを自分たちのテンションに引きずり込もうとするマナーといい、このオールドファッションなロックンロールの定型を照れることなく全力でやりきる様は最早あっぱれ!の域。本国UKではキャットフィッシュのファンは圧倒的に若く、10代の少年少女たちが彼らのこのライブに熱狂しているのだから、オールドスクール云々とシニカルに構えて見ること自体が中年の証拠なのかもしれない。時代は既に何周もしているっていうことなのだろう。ジュリアン・カサブランカスとリアム・ギャラガーを足して2で割ったようなヴァンの声と歌唱も、アリーナ・サイズに思いっきり鍛え上げられていて、2年前にはUNITの狭いステージ上でぎくしゃくプレイしていたのが本当に嘘のような成長だ。
英国の少年少女たちを熱狂させているものがキャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメンのこの脇目も振らぬギター・ロックへの情熱であり、オールドファッションもベタも引き受けた確信であり、何周も、何十周もして再びロックンロール・バンドを夢見る感覚が見直され始めているのだとしたら、それはこれからのギター・ロックバンドにとっても大きな希望になるんじゃないだろうか。(粉川しの)