歴史を変える一作になるか

キャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメン『ザ・バランス』
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ALBUM
キャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメン ザ・バランス

2017年1月来日時の本誌インタビューでキャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメンのヴァン・マッキャンは「次のアルバムの曲は既に準備できていて、ツアーが終わったらすぐにスタジオに入り、さっさとアルバムを完成させてまたライブに戻りたい」と語り、「子供の頃、好きなバンドのアルバムを3年も4年も待つのはイヤだった。だから次のアルバムは早く出したい」というようなことを言っている。すぐにでも次作が出そうな口ぶりだったが、結局それから2年以上、前作からほぼ3年というタームでの3枚目のリリースとなった。

前作がUKチャート1位、USでは28位まで上昇し、今作はアメリカでの成功を見据えた勝負作となる。プロデュースにはU2キラーズトゥー・ドア・シネマ・クラブスノウ・パトロールなどを手がけたジャックナイフ・リーが起用されている。レコーディングはアイルランドのスタジオで泊まり込みで行われたようだ。メンバーとプロデューサーが寝食を共にして一日中音楽のことだけ考えているような環境で行われ、ヴァンは「これまでで一番面白いレコーディング・セッションだった」と語っている。

といって本作で彼らがとりわけ目新しいことや変わったことをやっているわけではない。一言で言ってしまえば、これまでの彼らが積み重ねてきたサウンドをさらにパワーアップして磨き上げ、正常進化させた作品と言える。エモーショナルなギター・サウンド、色気と繊細さを併せ持ったボーカルは、まさしく真正面から射抜くような力強さと美しさを兼ね備えている。もちろん多くの人たちは彼らの新作がそんなものになることを予期していたはずだ。ストレートとわかっていても打てない。ど真ん中に来ることがわかっていても空振りする。彼らが目指しているのはそんな全盛期の藤川球児みたいな境地である。だがただ力任せに速いタマを投げようとするだけではそんな境地には到達しないこともまた確かである。

前述のインタビューで、彼らはレコーディングに時間をかけるよりもとにかくライブをやりたいと語り、ライブでの客の反応が見たいからレコードを作るんだとまで言っている。これはつまり、ただいい楽曲を作り、歌い演奏するだけでなく、それを入念に仕上げ、音源として完成度の高いものにするという意欲、工夫がその頃の彼らにはまだ希薄だったことを示している。そしてそれが、前述の合宿レコーディングで、百戦錬磨のベテラン、ジャックナイフ・リーと共に学んだ、最大のポイントだったのではないか。本作で一番変わったのは彼らの音楽性ではなく、彼らの音源制作に向かう意識だったのだ。それは2010年代のロック・バンドとしては当然のことなのだが、そんな些末なことなどどうでもいい、オレたちが最高の曲を作って最高の演奏をすれば、最高のレコードができるはずだろ、と言わんばかりの素朴でイノセンスで強い思いこそが、キャットフィッシュを現代に於いて特別なバンドとしてきたのも確かだ。だがそれだけではいずれ必ず頭打ちになる、全米で成功を収めることができないとわかっていたからこそ、周りのスタッフは前作から一呼吸を置き、レコーディングに臨む意識も含め、彼らの進化と成長を促そうとしたのだろう。

前作に比べてはるかに生々しくささくれだった、切り立った絶壁のような骨太で中低域の厚い音像、無駄なく整理されたアレンジ、そしてそこに鮮やかに刻みつけられたバンド・サウンドのグルーヴとエネルギー、研ぎ澄まされた楽曲。いずれも前作とは似て非なる境地に達している。これは単なるライブの予習用のテキストではなく、鑑賞の対象として十分にレベルの高い作品であり、しかも生粋のライブ・アクトである彼らのバンド・サウンドのダイナミズムをも完璧に表現している。だから聴き終わったあとの手応え、充実度は、これまでの作品とははっきりと違う。ヴァンのボーカルもいっそう艶めかしい色気を振りまいている。ヒップホップやR&Bやエレクトロニカをつまみ食いするような小細工を弄さない、真っ向からの正常進化は、バンドがどんどん大きくなっている証拠である。

2019年に於けるロック・ミュージックの現状と未来は、なんてテーマを今更論じようとは思わないが、キャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメンぐらい地肩の強い、スケールの大きな才能を持った連中なら、あるいは何かとてつもなく大きな仕事をやってのけるかもしれない。おそらく本作をもって、The 1975と並びキャットフィッシュがUKロックの顔となる。そんな期待を抱かせる、見事な一作である。サマーソニックが本当に楽しみになってきた。 (小野島大)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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