ジェイムス・ブラント @ NHKホール

2006年4月に行われたツアー以来、2年ぶり2度目となるジェイムス・ブラントの日本ツアー。前回全公演のチケットを完売させたが、ドラマのタイアップと相まって日本で“ユア・ビューティフル”旋風が巻き起こったときには、ツアー・チケットはすでに超プレミア化しており、実に限られた一部のファンしかそのライブを観ることができなかったのだ。

なので今回の日本ツアーは、昨年秋に発売された2ndアルバム『オール・ザ・ロスト・ソウルズ』を引っさげてのツアーであると同時に、あの旋風をきっかけとして彼を知ったファンにとっては、初めてそのパフォーマンスを目にする機会でもある。

会場のNHKホールは3階席までほぼ満員。女性率若干高めで、華やいだ雰囲気が場内を覆っている。ホールでの着席公演ということもあり、そのグッド・メロディと歌声を椅子に掛けながらしっとりと聴き入る展開になるかと思いきや、さっくり予想を裏切る、胸のすく痛快なライヴ・パフォーマンスで場内を熱狂させた。

日本ツアーは明日からも続くので詳細は控えるが、ブラントは、ドラム、ギター、ベース、ピアノのバック・バンドを従えての登場。オープニングの“ギヴ・ミー・サム・ラヴ”からして、ステージの幕を効果的に使用したしかけがあって、観客をあっといわせてくれる。曲ごとにその世界観を引き立てる映像がステージ後方のスクリーンに映し出される。NHKホールのステージは天井が高いので、スクリーンも実にダイナミック。スポット・ライトやカラフルなライティングも趣向が凝らされており、曲が進むにつれ、演出が練られたショウであることが明らかになっていく。当初着席して、そのパフォーマンスに聴き入っていた場内だったが、中盤の“コズ・アイ・ラヴ・ユー”(スレイドのカヴァー)で、なんとステージから飛び降りて客席中を走りまわったブラントのエモーションが場内中に飛び火、ラストまで1階席総立ちで手拍子し、ともに歌い場内一体となって楽しむライブとなった。

あの歌声もすごいが、実は、パフォーマンスありきのアーティストなのである。元軍人という経歴が関係しているのかもしれないが、ブラントは自身のエモーションを抑圧させているかのようなところをステージ上のしぐさやたたずまいの端々から感じさせる人である。しかし、歌うことで大事な感情を心の奥底から掬い上げている。歌い上げることでしか、人に伝えられないかもしれない、という切迫感すらも感じさせる。そんなどこか不器用ともいえるパフォーマンスは、普段知らず知らずのうちに何かとセーブをかけがちな私達の心も解きほぐしてくれるようだった。(森田美喜子)
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