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    Creepy Nuts/新木場STUDIO COAST

    Creepy Nuts/新木場STUDIO COAST

    ※以下のテキストでは、演奏曲のタイトルを表記しています。ご了承の上、お読みください。

    Creepy Nutsが12月6日に新木場STUDIO COAST公演を行った。

    同公演は9月から開幕した「Creepy Nuts ワンマンツアー 2019 『よふかしのうた』」の一環で、元々は12月13日(金)の沖縄公演がファイナルの予定だったが、来年1月16日(木)にZepp DiverCity(TOKYO)ので追加公演も決定している。彼らにとって2019年は、ますます活躍の場を広げた1年だった。「オードリーのオールナイトニッポン10周年全国ツアー」のテーマソング制作やドラマタイアップ、ヒプノシスマイクへの楽曲提供といった音楽的な広がりだけではなく、テレビ番組で彼らの姿や名前を目にする機会もぐんと増えた。さらにR-指定はテレビ朝日『フリースタイルダンジョン』の2代目ラスボスに就任、DJ松永は「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIP 2019」のバトル部門でチャンピオンに輝くなど、それぞれラッパー・DJとしてもしっかりランクアップしている。

    そんな今年のCreepy Nutsの絶好調ぶりを象徴するように、爆発的な盛り上がりを見せた新木場公演の模様をレポートしていきたい。

    開演前、場内整理の声がひっきりなしに響く満員の会場は、外の寒さを忘れさせるほどの熱気に包まれていた。辺りを見渡してみると、ヘッズだけではなく男女ともに様々な層のお客さんがいる。そして、Creepy Nutsと言えばラジオも大人気ということで、ニッポン放送『オールナイトニッポン』のロゴが入ったTシャツを着ている人の姿も見かけた。ステージ中央の大きなモニターにDJ松永の姿が映し出されると大歓声が沸き起こり、その中には「世界一!」、「おめでとう!」とDMC制覇を祝福する声も混ざっていた。この日のステージはR-指定いわく「お金をかけた」とのことで、以前はステージにターンテーブルセットのみだったが、今回はモニターの上にDJブースが設置されている。上空からのカメラでターンテーブルの手元が大画面に映し出され、さっそくDJ松永がボディートリックを入れた超絶プレイをお見舞いし、会場のボルテージはみるみるうちに急上昇。そしてステージに現れたR-指定が「ノリは良いのか!? 新木場!!」と勢いよく煽ると、オーディエンスの腕が一斉に上がり、最高のオープニングでライブがスタートした。

    Creepy Nuts/新木場STUDIO COAST

    この日のセットリストは8月にリリースされたミニアルバム『よふかしのうた』の収録曲はもちろん、“助演男優賞”や“合法的トビ方ノススメ”といったインディーズ時代からの人気ナンバーも惜しみなく披露された。思わず見惚れてしまうほど華麗なDJ松永の指さばきと、生で体感すると迫力が倍増するR-指定のスキルフルなラップが、観る者を一瞬たりとも我に返らせない。オーディエンスは時に激しく跳ねたり、大きな手拍子やシンガロングを起こしたりとまさに狂騒状態。そしてもちろん、この日も「聖徳太子スタイル」が炸裂した。まずはお題を募集すると会場の至る所で手が上がり、カメラとモニターをうまく使って客席の一番後ろの方まで指名していく。お客さんとの一対一の会話も交えつつ、まるでトークライブのような笑いが絶えない楽しい時間を経て、そろったお題は「かあちゃん」、「さきちゃん」、「若林さん」、「琵琶湖」、「バスケがしたいです」、「マグマファッカー」、「無職」、「大学中退」、「かぼちゃ」という『ANN』ネタも含めた9つ。パッと見は何の脈絡もないこれらの言葉を、R-指定は見事にひとつも零さずフリースタイルで繋ぎ合わせた。ただお題を入れていくだけじゃなく、しっかり心を揺さぶるフレーズを残していくのが素晴らしい。

    曲間のMCでは、この会場への特別な想いが語られた。というのも新木場STUDIO COASTは『フリースタイルダンジョン』の収録場所でもある。「フリースタイルバトル以外のバトル」をいくつも経て、ふたりだけで会場をソールドアウトさせたことは、当然彼らにとってはひときわ感慨深い。その流れでR-指定は力強くこう宣言した。「俺たちが今日見せるのは、何より伝えたいのは、ヒップホップという音楽が、日本語ラップという音楽が、DJという演奏技術が、めちゃくちゃ面白いというのをみなさんにお見せしたいです」――きっと、Creepy Nutsが活動の幅やジャンルを広げている動機はそこにある。この日も披露された“みんなちがって、みんないい。”という曲には、いろんなラッパーのフロウやリリックの特徴が取り入れられている。それぞれモデルにしている人物はいるものの、この曲は特定の誰かをdisる作品ではない。確かに最初に聴いた時は、バトルでのR-指定の印象も強かったため「尖った曲」にも聴こえた。でもCreepy Nutsのライブを観ると、この曲に込められた本意と熱意がビシビシ伝わってくる。

    Creepy Nuts/新木場STUDIO COAST

    R-指定には特徴的なフロウがあるが、曲によっては結構変えていて、中には誰に影響を受けているのかわかりやすい曲もある。ライブ中にこぼした「他のラッパーのライブも観に行ってほしい」という言葉からもわかるように、彼の自由自在なスタイルが示すのは「ヒップホップ愛」だ。つまりCreepy Nutsが広いところで勝負しているのは、何も新しいシーンの先駆者になりたいわけではなく、自分たちが愛し続けているヒップホップをジャンルも飛び越えて届けていきたいという気持ちがあるから。しかし単なる愛情や、手広い活動だけではそれは叶わない。Creepy Nutsがすでにいろんな層にヒップホップの面白さを届けられているのは、ふたりに「日本一三連覇」と「世界一」という確かなスキルと称号があるからこそだと思う。

    彼らが音楽に心を奪われた思春期の頃は、まさしくヒップホップ冬の時代。筆者もふたりと同世代であるから「ラッパー=チェケラ」と茶化されていたのは実感として残っている。だからR-指定は「MCバトル」というニッチだったはずの文化がお茶の間まで広がったことに、最初戸惑いがあったのだろう。いつまたラップブームが収束してもおかしくない、そんな恐れへの予防線として作られた曲が“未来予想図”だ。そしてこの時の卑屈やマイナス思考は、ツアーでいろんな場所を巡る今のふたりを描いた“グレートジャーニー”という曲の自然なボースティングに繋がっている。そんな流れがあるからこそ、新木場STUDIO COASTで聴いたこの2曲は特別にグッときたし、「何があってもヒップホップを続けていく」というふたりの前向きな覚悟を感じた。

    ライブ本編が終わってもすぐにアンコールを求める手拍子が鳴り、ふたりがステージに再登場。「今日は貴重な時間とお金を使って、俺らのラップとDJを生で観に来てくれてありがとうございました。俺らが本当に信用しているのはネットでもテレビでもなく、生で俺らの音楽をぶつけて、そして返ってきた今日のこの反応、こいつが本当の俺らのラップに対する評価だと思ってこの先もぶちかましていきます」R-指定がそう丁寧に挨拶し、ラストナンバーではこの日一番キレキレな姿を見せつけた。彼らの生き様が現れた渾身のパフォーマンスに割れんばかりの大歓声と感動の拍手が送られ、新木場公演は大盛況のうちに幕を閉じた。(渡邉満理奈)

    Creepy Nuts/新木場STUDIO COAST


    ●セットリスト
    1.DJ松永ルーティーン”1”
    2.板の上の魔物
    3.助演男優賞
    4.手練手管
    5.紙様
    6.よふかしのうた
    7.中学12年生
    8.どっち
    9.犬も食わない
    10.みんなちがって、みんないい。
    11.メジャーデビュー指南
    12.合法的トビ方ノススメ
    13.阿婆擦れ
    14トレンチコートマフィア
    15.未来予想図
    16.朝焼け
    17.だがそれでいい
    18.月に遠吠え
    19.グレートジャーニー
    (アンコール)
    EN1.DJ松永ルーティーン”2”
    EN2.スポットライト
    EN3.生業


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