King Gnu/配信ライブ「King Gnu Streaming Live」

King Gnu/配信ライブ「King Gnu Streaming Live」 - All photo by Kosuke ItoAll photo by Kosuke Ito

●セットリスト
1. Flash!!!
2. Sorrows
3. Vinyl
4. 傘
5. It's a small world
6. Overflow
7. ⽩⽇
8. Prayer X
9. Hitman
10. The hole
11. Slumberland
12. ⾶⾏艇
13. どろん
14. Teenager Forever

King Gnu/配信ライブ「King Gnu Streaming Live」

今年のKing Gnuは、本来であればアルバム『CEREMONY』を引っさげてアリーナクラスの会場を含む最大規模のツアーを開催、この夏には各地のフェスで主役級の活躍を見せていたはずだ。しかし新型コロナウィルスの影響で、そのすべてが白紙となってしまった。そんななか開催されたオンラインライブ「King Gnu Streaming Live」。ライブ中も、そして終演後のコメンタリー配信でも、井口理(Vo・Key)はじめメンバーは実際にやる中で感じる緊張感や、いつものライブとはまったく違うやりづらさを口にしていたが、そういう特殊な状況で行われたアルバムリリース後初のワンマンは、まさにそのヒリヒリした緊張感によって、かえってKing Gnuというバンドの今の姿、スケールアップした破格の「等身大」を見せつけるものになった。

King Gnu/配信ライブ「King Gnu Streaming Live」
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金属の骨組みが四方を囲うフロアに、4人のメンバーが十字状にポジションを取る。常田大希(G・Vo)と井口、新井和輝(B)と勢喜遊(Dr・Sampler)がそれぞれ向かい合う形だ。そして1曲目に鳴らされたのは“Flash!!!”。いきなりトップギアで発進するようなパワフルなスタート。タイトなリズムがのっけから興奮を助長する真ん中で常田が拡声器に向かって声を張り上げ、井口のボーカルがその熱に拍車をかけていく。そのままアルバム『Sympa』の曲順どおり“Sorrows”へ。新井のベースと勢喜のドラムが織りなす滑るようなグルーヴがぐんぐんテンションを高めていく。アグレッシブな攻撃性とどっしりとした重さ、相反するふたつの要素がせめぎ合い、とぐろを巻くように盛り上がっていく様子を、バキバキの照明のもと、クールなカメラワークが切り取っていく。詰め込まれた情報量と崖っぷちを全力疾走するようなスリルに思わず息を呑む序盤の展開だ。

King Gnu/配信ライブ「King Gnu Streaming Live」
King Gnuといえばライブでも、たとえばテレビの歌番組でも、およそ緊張とは程遠い大胆不敵さを感じさせるバンドである。そのバンドが、観客のいない形での久しぶりのワンマンライブという場の空気に緊張している。その緊張は、画面に映し出されるメンバーの表情にも、そして硬い石をぶつけ合うようなアンサンブルにも現れていた。その緊張感が、観ているこちら側にもピリピリと伝わってくるのだ。いきなりの真剣勝負は、続く“Vinyl”でも続く。ゆったりとしたリズムが妖しげな雰囲気を描き出し、その気だるいグルーヴが勢喜のスネア連打を合図に一気に爆発する。そして常田によるギターソロへ。一瞬たりとも目を離せない空気が、メンバーのいるフロアを覆っているのが目に見えるようだ。そんなムードのなか曲を演奏し終えると、思わずメンバーからは笑い声が漏れた。そしてここで雰囲気が一転、“傘”が投入される。軽やかな楽曲だが、クリアに届けられるサウンドが、音の構造と配置の緻密さを浮き彫りにする。ギターの弦の1本、ハイハットの1ショットに至るまで、ライブ以上の生々しさでもって両耳に伝わってくる。そして井口の透明な歌声が切なげに、エモーショナルに響く。続く“It's a small world”でも、隙間の多いメロウなアレンジが、かえってKing Gnuの楽曲に込められた気の遠くなりそうな構築美と、それを完璧に表現するバンドのミュージシャンシップを物語る。

King Gnu/配信ライブ「King Gnu Streaming Live」
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勢喜のドラムソロにベースとギターが加わる形で始まった『CEREMONY』からの“Overflow”は、個人的にライブで観るのをとりわけ楽しみにしていた楽曲だ。抑制されたリズムとアンサンブルが、サビで一気に解放され、エモーショナルな風景を描き出す。音源以上のスリリングさで走り抜けたあと、一瞬の静寂を経て披露された“白日”は、前の曲とのコントラストも相まってひときわ美しく響いた。この曲をこのバンドが演奏するのを観るのはそれこそ昨年大晦日の『第70回NHK紅白歌合戦』以来だが、ピンと張り詰めた空気はその時の比ではない。ど真ん中にいる井口の歌のすばらしさもさることながら、それを徹底的に支えるアレンジのすべてが、歌詞に歌われている身を切るような切なさを加速させていく。King Gnuの大ブレイクの契機となった普遍的なバラードだが、ライブで聴くとそこに貫かれたバンドの意思、とにかく歌を真正面から受け止めてブーストしていくという信念が見える。

King Gnu/配信ライブ「King Gnu Streaming Live」
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「ヤバイ緊張感だね。めちゃめちゃ大変だね。こんなことやってたんだ、俺たち」。“白日”を終えて一息ついた井口がそう言って笑顔を見せる。「大希と向かい合わせが気まずい、久しぶりすぎて」という彼の言葉に常田も、ふと緊張から解き放たれたように笑みを浮かべている。その後1曲をはさんでのMCでも、井口が自粛期間中何をしていたかという話題についてユルいトークを展開する4人。何をしていたかというと『新世紀エヴァンゲリオン』を観返していたそうなのだが、14歳のころは綾波レイが好きだった彼も、今改めて観ると赤木リツコのことが好きになった――ということである。「『歳取ったロリ顔が好き』って言ってたもんな」と常田。「やめとけ!」と井口が突っ込む。そんな会話の流れから「そこで1曲聴いてください」と披露されるのが“Hitman”だったりするのだからこちらとしてはどうしたらいいかわからなくなる。だが、そんな乱暴な流れのなかでも、楽曲がひとたび鳴らされれば、その圧倒的世界観に直前の話の内容がどうでもよくなるのだ。

King Gnu/配信ライブ「King Gnu Streaming Live」
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珠玉のバラード“The hole”を歌い終え、ほっとしたようにつぶやかれた井口の「ありがとう」と言う言葉を境に、ここからライブはいよいよ怒涛の勢いでクライマックスに突入していく。目の周りを真っ黒に塗った常田が拡声器でシャウトする“Slumberland”で一気にエンジンの回転数を上げると、ステージを満たしたスモークがオレンジ色の光を反射するなか“飛行艇”へ。勢喜の鳴らすビッグなリズムが、この黒く閉鎖された空間の天井をぶち抜いてスタジアム級のスケール感を体現してみせる。暴れまわるギターとベースに乗せて歌われる《命揺らせ》の名フレーズ。常田と井口が視線を交わしながら声を重ね、そこに音が重なり、巨大なロックエクスタシーを描き出していた。

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ドラムのカウントからパンキッシュに突入した“どろん”でバンドの攻撃性をますますむき出しにすると、ラストチューンは“Teenager Forever”。ここまでとは打って変わって、メンバーの顔にはリラックスした表情が浮かぶ。ようやく走りきれるという安堵なのか、それともこの楽曲自体のキャラクターか。井口はマイクをカメラに向けてシンガロングを誘い、常田も笑顔を見せている。《等身大のままで/生きていこうぜ》というこの曲のメッセージが、今こうしてよりタフなバンドとして無観客ライブをやり遂げた彼ら自身の実感として伝わってくる。最後には花火の特効まで投入されてド派手にフィニッシュ。終わった瞬間、井口はちょっと気の抜けたような声で「どうも、ありがとうございました。終わりです」と言うと、「寂しっ」と付け加えた。それは他のメンバーも同様だったのだろう。三々五々引き上げていく4人の顔には、「ようやく終わった」と「もっとやりてえ」のふたつの気持ちが見て取れた。

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彼らが信じて生み出してきた音楽そのもののタフさが、いつもとは違うライブであることであからさまになったこの配信ライブ。であればなおさら、今のKing Gnuがデカい会場で音を鳴らしたときに何が起きるのかを観てみたい。1日でも早くその日が来ることを、今はただ願っている。(小川智宏)

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