激動の今をロマンチックに照らす名曲“雨燦々”で描き出されたKing Gnuの新境地

King Gnu『雨燦々』
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King Gnu 雨燦々
“カメレオン”以来4ヶ月半ぶりとなるKing Gnuの新曲“雨燦々”が7月15日、配信リリースされた。常田大希をはじめメンバーとも親交の深い綾野剛が主演を務めるTBS系ドラマ『オールドルーキー』の主題歌である。すでに読者のみなさんも聴いているだろうが、これまでのKing Gnuのどの曲とも異なる手触りをもった、とても魅力的で愛おしい楽曲だ。メロディがもつ大らかさ、バイオリン(常田俊太郎が弾いている)やチェロ、オルガンや女性コーラスの音色がノイジーなギターサウンドを包み込むように配された、柔らかなアレンジ。それこそ“カメレオン”のもつ切実さとも、“一途”の鋭さとも、あるいは“BOY”のもつ朗らかさとも違う、リスナーを包み込むような感覚は、King Gnuにとっての新境地といってもいい。いつもより少し低めのキーから始まっていく井口理のボーカルも、タイトながらも優しいタッチでビートを刻む勢喜遊のドラムも、感情の起伏をダイナミックな動きで表現する新井和輝のベースも、とても豊かで人間臭い。

King Gnuが、というより常田が、ということかもしれないが、ドラマや映画、アニメなどの「物語」とコラボレーションした時にとんでもなく素晴らしい曲が生まれるというのはファンならずとも認識していることだと思う。“白日”しかり、“三文小説”しかり、もちろん“一途”と“逆夢”しかり。millennium paradeの“FAMILIA”や“U”もそうだ。タイアップ先におもねるのでも、自分のエゴを貫くのでもなく、そこにある「物語」に徹底的に感情移入して自身を重ね、自身に託されたものを熟考し、今伝えるべきことをまっすぐにアウトプットしていく、彼らのクリエイターとしての強靭さと柔軟さ。だからこそ、それらの楽曲は、King Gnuというロックバンドの歩みにおいても常に重要なポジションを担っていくことになる。“一途”が『呪術廻戦』の物語であると同時にKing Gnuの物語であったように、“カメレオン”が『ミステリと言う勿れ』の物語であると同時にKing Gnuの物語であったように、King Gnuというドラマは運命的なタイアップによって更新されてきたのだといえる。

そして、それはもちろん今回の“雨燦々”もそうだ。引退して第二の人生を歩み始める元サッカー日本代表を主人公にした『オールドルーキー』という作品がもつテーマや物語性に徹底的に寄り添いながら、いや、徹底的に寄り添うからこそ、そこにはKing Gnuとして今立っている場所やそこから見える景色が浮かび上がる。ではその景色とはどういうものか。そう考えた時に思い浮かぶのは“雨燦々”という不思議な曲名のことである。本来「燦々」と降り注ぐのは明るい太陽の光であり、冷たい雨ではない。だが、悩ましい雨すらも「燦々」と降り注ぐように感じる心持ちもあるんだということを、このタイトルは物語っている。

King Gnuと雨、ということで思い出すのはいうまでもなく“傘”である。そこで常田は《さよなら/ハイになったふりをしたって/心模様は土砂降りだよ》と書いていた。そこに歌い込まれていたのは希望というよりは絶望、期待というよりも諦念だった。《土砂降り》の雨は、そうした心情のメタファーだったのだ。だが“雨燦々”は違う。《どうやらこれから土砂降りの雨が降るらしい/傘を忘れた溜め息は/夕立ちが連れてきた夏の匂いに解けてゆく》という、まるで“傘”の歌詞を踏まえたようなフレーズにはどこかポジティブなムードが漂ってはいないだろうか。

そしてこの曲はこうも歌っている。《線路沿い風を切り 一直線に君へと向かうのさ  雨に濡れながら帰ろう》。この部分にもまた、《ガラス片を避けながら/直行直帰 寝落ちる毎日さ》という“傘”の歌詞との対比を感じることができる。《雨に濡れながら》帰った先に《君》がいる。逆にいえば《君》がいるからこそ、今体を濡らしている《雨》は「燦々」と降り注ぐものになる。それこそがこの楽曲でKing Gnuが描き出している風景である。一言でいうならば、眼前に広がる果てしない未来のようなもの。《未来を謳う言葉だけが 風となり森を吹き抜ける》ともこの曲は歌っているが、まさにその《未来》が、今、King Gnuの眼前には広がっているのだ。

そういう楽曲になったのには、もちろん『オールドルーキー』という作品の内容が大きく影響している。『オールドルーキー』は綾野演じる新町亮太郎が絶望から立ち上がり、愛する家族のために奮闘する物語だからだ。だがそれと同時に、たとえば《選べよ 変わりゆく時代を 割り切れなくとも/この瞬間この舞台を 生き抜くから/青き春の瞬きから 何度醒めようとも》というサビのフレーズには、ロックバンドとして最前線で戦い続けるKing Gnu自身の決然とした意志も確かに息づいているように思える。そう考えると、この大サビで一気に感情を溢れさせるように鳴り響くギターのサウンドもいっそう感動的に聞こえてくるのだ。(小川智宏)

(『ROCKIN'ON JAPAN』2022年9月号より)

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