●セットリスト
1. 大バカ者
2. 手紙
3. 始発列車
4. 境界線
5. いつか
6. 雨と泪
7. 連呼
8. 傍観者
9. 気になる木
10. ジャニス
11. 夏色
12. ユーモラス
13. 公私混同
ゆずが9月27日から10月25日(日)まで、5週連続で毎週日曜夜にライブ映像を配信する「YUZU ONLINE TOUR 2020 AGAIN」。「出発点」「思春期」「新天地」「青写真」「未来図」と各日に公演テーマを掲げたこの初のオンラインツアーは、8月に横浜エリアの4駅5ヶ所に突如として掲出されたポスターによって開催告知された。“夏色”以外すべての曲が入れ替わるセットリスト、新型コロナウイルス感染対策の観点からゆず2人きりのライブを横浜エリアの会場で事前収録し、配信するという内容だ。そのDAY1「出発点」の模様を、振り返ってみたい。
配信当日に明らかになった今回の会場は、横浜市中区の通称「横浜文体」こと横浜文化体育館。ポスターには「はじまりの日は、とっておきの場所で。」というキャッチコピーでこの会場が仄めかされていたわけだが、なるほど、ゆずにとっては体育館ツアーなどでも縁深い場所だ。岩沢厚治がアコギを携え、北川悠仁が「文化体育館と言えばこの曲!」と告げて切り出されるのは、メジャーデビューイヤーの体育館ツアー「幸(せ)拍(手)歌合戦」の同会場でもトップに披露された“大バカ者”である。体育館のフロアで2人きり、字余り歌唱ごと勢いよく転がってゆく。
今回のオンラインツアーは、9月16日にリリースされたライブ映像ベスト『YUZU ALL TIME BEST LIVE AGAIN 1997-2007』、『YUZU ALL TIME BEST LIVE AGAIN 2008-2020』と連動したものだ。デビュー20周年アニバーサリーのとき、ゆずは盛大に祝い、またファンに感謝の思いを届けていたが、間髪入れずに次のアクションを起こしたので、じっくりとこれまでのライブキャリアを振り返ることはなかった。リアルライブの開催が思うように出来ない今だからこそ、そんな機会を設けようとしたのかも知れない。
岩沢がアコギの流麗なアルペジオを奏でてブルースハープを吹き、北川が鍵盤ハーモニカを奏でる“手紙”は、2人きりでありながらも際限なくリッチで温かみに満ちたパフォーマンスとなり、手紙の朗読パートではオンラインツアーの意図を語りながら「どこに居たって、誰と居たって、僕らの歌がみんなの心に届きますように。そして、楽しんで貰えるように、心を込めて歌います」と告げられる。
デビュー直後の時期の曲が並ぶセットリストになることは想像できたけれども、シングルのカップリング曲やアルバム曲が次々に飛び出すディープカットが最高だ。北川は、歓声や手拍子などのサンプリングをもたらす「歓声くん1号」を駆使し、自らライブの盛り上がりを演出してくれるさまが楽しい。何よりも、あれから20年以上のキャリアを経てきた2人は、味わい深い歌の節回しから演奏のタッチに至るまで、培われた表現力をフルに活かして楽曲の魅力を引き出してゆくのである。スローなテンポでじっくりと披露される“いつか”では、暗転した背景に樹木のシルエットが浮かび、雪の降りしきるAR(拡張現実)演出が持ち込まれて美しい。
館内を移動しながら、この9月に60年近くの歴史に幕を下ろすことになった横浜文化体育館の思い出話に花を咲かせる2人。観客席で“雨と泪”をプレイした後には、「幸(せ)拍(手)歌合戦」でオーディエンスを二分し歌声を競ってもらったことを振り返りつつ、フロアを挟んで遠く対面の観客席で向き合った2人がばっちりハーモニーを重ねる“連呼”だ。カズーのユーモラスな音色が鳴り響き、視聴者にシンガロングを呼びかけつつ、演奏をフィニッシュすると北川は「どうもありがとうー! みんなに会いたいよーっ!!」と思いを溢れ出させるのだった。
フロアに戻ってからは、ロックなアタック感の“傍観者”からフォーキーなアルペジオに乗せて歌う“気になる木”へ。じわりとエモーションを立ち上らせる“ジャニス”では、かつてこの曲が披露されたライブの名場面を回想するコメント(2000年「野球場ツアー」の阪急西宮スタジアムや、大雨に見舞われた2015年横浜スタジアム「二人参客 in 横浜スタジアム」など)がチャット欄に溢れ返る。個人的には、同曲がカップリングとして収録されたシングル『心のままに/くず星』のリリース当時にCDを聴きながら横浜の日ノ出町あたりをトボトボ歩いていたときのことを鮮明に思い出して、頭がクラクラした。
そして、オンラインツアーの全日程で唯一披露されることが予告されていた“夏色”では、アプリ「ピグパーティ」との連動企画で募集していた参加者のピグがAR空間内に登場。曲に合わせて飛び跳ねたりする様子がかわいい。ライブのクライマックスは、ピグたちや村上隆デザインによる「アゲ花」も賑々しく盛り上げる“ユーモラス”からの、歌詞入りのカラフルなCGアニメーションに彩られた最新曲“公私混同”である。《ピンチをチャンスに履き違えて今日も行く/これでいいのだ》という、理不尽な運命に立ち向かうための肯定が、未来を照らし出していた。
動画配信でありながらすこぶるインタラクティブ性が高く、思い出を共有しながら未来を向く、素晴らしいライブだった。この「DAY1 出発点」は10月7日(水)23:59までアーカイブ配信が行われている(チケット購入は10月6日[火]まで)。今後のオンラインツアー日程も、ぜひ楽しみにしていて欲しい。(小池宏和)