●セットリスト
01.獣
02.桜の木の下には
03.5月の呪い
04.look at the sea
05.caramel city
06.泡と魔女
07.命日
08.シュガーサーフ
09.透明造花
10.色水
11.epilogue
12.走馬灯
13.candle tower
14.水葬
15.亡き王女のための水域
16.架空船
17.紫陽花
18.dry flower
19.斜陽
(アンコール)
EN1.水仙
2021年1月からスタートしたおいしくるメロンパンの「theoryレコ発ワンマンツアー2021 ときめき★セロリアル〜育ってきた環境が違えども〜」が、先日Zepp DiverCity(TOKYO)で無事にファイナルを迎えた。この日のライブは、過去のツアーのライブと比べても、バンドサウンドが描く風景、そのテーマが格別に鮮やかに提示されたライブだったと言える。それは、最新アルバム『theory』の完成がもたらしたものであることは間違いないだろう。『theory』が内包する「季節の循環」や「生命の巡り」といったテーマを、過去曲も同列に配しながら、さらに大きなスケールで描きだそうという試みだったように思う。『theory』によって、過去の楽曲も実は同様のテーマや思考を孕むものであったことに気づかされ、すべてがつながり、これまでずっとおいしくるメロンパンが表現してきたもの、そこに通底する主題が、美しい抽象画の中でそこかしこに浮かび上がって見えてくる。そんな感覚だった。
本人たちにそうした意図が強くあったのかどうかは、機会があればまた聞いてみたいところだが、とにかくこの日のライブ演奏は、アレンジも含めて躍動感に満ちていた。
おなじみのSEが響いて、いつものように原駿太郎(Dr)、峯岸翔雪(B)、ナカシマ(Vo・G)の順に、ゆっくりとステージに現れる。『theory』の1曲目に収録されている“獣”でライブがスタート。繊細さというよりも骨太な力強さで鳴るギターアルペジオの音、イントロのその音の響きからして、「生命」の蠢き、「季節」の始まりを予感させる。“桜の木の下には”、“5月の呪い”という流れの序盤は、季節が春から初夏へと移っていく景色を感じさせ、アンサンブルのよさが光る。音は時に轟音のように放たれるが、むしろそれを心地好いと感じる。アップテンポで駆け抜けるような楽曲も、その速さにリスナーが置いていかれることはない。“look at the sea”のライブアレンジは、それ1曲でおいしくるメロンパンの進化を感じさせる、緩急に満ちたスリリングなものだった。演奏後の拍手がいつにも増して長い。
“caramel city”でゆるやかなグルーヴを生み出し、“泡と魔女”ではエモーショナルな歌声に客席で多くの腕が上がる。そのままシームレスにアップテンポの“命日”へ、さらに“シュガーサーフ”へと続く流れは圧巻だった。特にこの日の“シュガーサーフ”のアレンジと演奏は、波のようにうねりをあげながら足元からリスナーをさらっていくようなスリルに満ちていた。原のドラムソロに導かれるようにアンサンブルはさらにエキセントリックにのぼりつめ、ベースソロ、ギターソロをはさみながらアウトロのバンドサウンドの完璧なエンディング。素晴らしかった。
中盤はまた、新たな季節の巡りを体現していく。“透明造花”とともにスクリーンには「夏」を感じさせるノスタルジックな映像が映し出され、“色水”ではさらに速く、エモーショナルに、容赦なく過ぎていく季節の忙しなさを表す。続く“epilogue”が夏の終わりの景色を連れてくる。夏の湿度を感じさせる音。けれどどこか渇いている。すべての感情を飲み込むような、洪水のようなアンサンブルが心地好い。その余韻からナチュラルに転調するように始まった“走馬灯”もまた、夏の景色を想起させる楽曲だが、記憶がすべて渦を巻いて溶けていくような不穏な感覚はおいしくるメロンパンならでは。スクリーンには水色のマーブリングが広がって、ファンタジックでダークな感覚を増幅させる。その色が赤へと変化していく過程と深く潜るようなサウンドが、季節の変化を明確に表現していた。
原が叩き出すスネアの音が会場に響き渡る。真っ赤な照明に照らし出されて始まったのは“candle tower”。ポリリズミックなアンサンブル、弾けるようなギターソロ、ラスサビで切り裂くように響いたハイトーンの歌声。引き込まれて聴き入るよりほかないオーディエンス。さらに“水葬”が、水底へと引き摺り込むようなダークな音像を映し出す。ゆったりと沈んでいくような歌と、後半露わになるエモーションに心が締めつけられるよう。そしてボレロのリズムでスネアが鳴り始めて“亡き王女のための水域”へと続く。季節を辿る物語は、ここでぐっと俯瞰の海の景色へと切り替わる。潮の満ち引きのような、美しく悲しい響きを持つスローバラード。アウトロで再び鳴り響くスネアのリズムが永遠に続くように深遠に響く中、突然挿し込まれたナカシマのスポークンワード。「さようなら水平線に沈む一隻の船」という言葉とともにアップテンポのバンドサウンドが展開されて、“架空船”へ。ギターのハーモニクス、性急にループするリズムは押し寄せては返す波のように響いて、季節は曇天の冬へ、そして抗いようなく訪れる生命の終わりを表していく。ただそれは決して悲観的なだけのものではなく、ひたすらひとつの現実としてそこにある、というような響きを持って。
ナカシマは「僕たちはこれからもずっと、やりたいことばっかりをやっていくし、それが、みんなが望むおいしくるメロンパンのあり方だと思うから、世の中がどうなっても僕らはずっと、かっこいいおいしくるメロンパンであり続けるので、安心してこれからも聴き続けてほしいと思っています」と語った。ずっとやりたいことをやり続けているからこそ、この日のように、過去曲も最新曲も混ぜ合わせながら、強いテーマを、確信を持って描き出すライブができるのだと思う。
ライブの終盤は、思い切りオルタナティブなアレンジで魅了した“紫陽花”、歌声がしっかりと耳に焼きつくような“dry flower”、そしてラストの“斜陽”へ。冬の景色を描く“斜陽”だが、軽快なバンドサウンドは、むしろあたたかくポジティブに次の季節の訪れを予感させ、ここで見事に季節の循環を描き切ったのだった。アンコールで1曲だけ演奏された“水仙”は、この日、そんなライブのテーマをまとめあげるような楽曲として響いた。《あの日失くした 友達 恋人/春になればまた思い出すかな/僕の知る筈もない空の下で/大人になってしまっても/どうか青いままで》。濃密なライブはこうして終演を迎えた。
おいしくるメロンパンの楽曲に色濃く漂うのは、「生」と「死」の物語だ。限られた「生」の中で刻みつける景色、そして移ろう季節の儚い追憶。活動開始から今日まで、楽曲それぞれに様々な物語を落とし込んできたおいしくるメロンパンだが、それぞれの楽曲が、ピースがピタッとはまっていくように、大きな一枚絵を完成させて見せたのがこの日のライブ、今回のツアーだった。そういえば『theory』リリース時のインタビューでナカシマは、“亡き王女のための水域”と“架空船”は、同じ物語を違う場所から見ているような曲だと語っていた。いわく「“架空船”は海から、“〜水域”は浜辺から」。それは極端な例かもしれないが、そう思えば“紫陽花”と“dry flower”、“命日”と“シュガーサーフ”、“candle tower”と“水葬”など、それぞれがまるで違う楽曲でも、ひとつの物語の別視点での描写だったり、もしくは、すれ違うようにシンクロする一瞬がそこに描かれているように思えてくる。この日のセットリストがそう感じさせるだけかもしれないが、これまでどちらかというとその抽象的世界を主に楽しんできた楽曲たちが、突然「そういうことだったのか」と、すべて大きな物語として回収されていくような、そんなダイナミズムを感じた夜だった(だからこそ今、彼らがこれまでリリースした楽曲の歌詞を1冊にまとめた歌詞集を作ったということにも妙に合点がいってしまった)。バンドは次にまたどんな景色を見せてくれるのだろう。おいしくるメロンパンの行く先がさらに楽しみになった。(杉浦美恵)
●主なラインナップ
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