開演時刻になると、まずsuzumoku突然の失踪・療養に関する謝罪の言葉がスクリーンに映し出された。生の言葉で話せないほどまだ事態は深刻なのか?と一瞬不安が頭をよぎる。が、次の瞬間にはいきなりOhyama“B.M.W.”Wataruが上半身裸でスクリーン上に登場してオーディエンスの爆笑を誘う。メンバーそれぞれがpe'zmoku結成のいきさつや失踪事件の顛末などをドキュメンタリー・タッチで10分ほど語る映像なのだが……どうもノリが軽い。「おめー、suzumokuのこと、俺のせいだと思ってんだべ?」「いやいや」「思ってんだべ!?」「んん……ちょっと」とか。なにやってんだ。あ、suzumokuも登場した。穏やかな表情で事の経緯を説明している。よかった。フロアには温かい拍手が巻き起こっていた。さあ、いよいよライブのスタートだ。
赤い三角トンガリ帽子とマスク。久々の6人が、暗転したステージ上で音を鳴らし始めた。オープニングはsuzumoku療養中の5月にリリースされたシングル曲“アノ風ニノッテ”だが、なにしろsuzumokuの繰り出すボーカルのグッド・メロディが健やかで、力強い。《今もう一度飛んでみるよ あの風にのって》という伸びやかなラスト・センテンスが、まるであつらえたように復活のステージにフィットする。最高だ。「ご心配をお掛けしましたが、このたび元気になって戻って参りました! 最後まで楽しんでいってください!」と笑顔で両拳を高く掲げるsuzumokuであった。オーディエンスも彼のそんな姿と声に、一気に吹っ切れたように盛り上がりを見せる。「頼んだぞー!」と景気のいい声も飛んだ。
正直な感想を言ってしまえば、ここからは「復活」やら「活動休止」やらといった一種の感慨や感傷を差し置いての、「ただ単に素晴らしいpe'zmokuのライブ・パフォーマンス」であった。賑々しく展開するエバーグリーン・メロディ“第三の男”ではOhyamaのトランペット・ソロに沸き、アッパーにスウィングしながらヒイズミ→suzumokuとボーカルをリレーする“ペズモク大作戦”ではバンドがものすごく楽しそうにプレイしているのがよくわかった。ダークでジャジーな“密室”では、suzumokuの卓越したギター・プレイも映える。オープニング映像から、目の前のsuzumokuの元気っぷりに至るまで、心配やら感傷やらといったものを吹き飛ばしてしまう条件が出揃っている。そしてまったく別の感慨が沸き上がってきた。それは、「pe'zmokuって、本当にいいバンドだなあ」という、活動休止に入るグループを目の当たりにするには余りにも間抜けな気持ちだ。「PE'Zにギター/ボーカルが入った」のでも「suzumokuに固定バック・バンドがついた」のでもない、「pe'zmokuというバンド」の大きな存在感を感じさせるパフォーマンスなのである。PE'Zはもともとやたらに歌心を感じさせるインスト・バンドだったが、そしてsuzumokuはシンガーとしてもギター奏者としてもソングライターとしても優れた資質を持ったミュージシャンだが、こういう楽曲群はそれぞれ単独の活動の中では生まれなかった気がするし、しかもアルバム収録曲含めて名曲連発なのである。suzumoku復帰後にレコーディングされた、ラジオ番組のリスナー達の声と一緒に作ったというアルバムのラスト・ナンバー“ボクラノコラト”などは、もう何十年も人々の間で歌われてきたようなクラシックな美曲である。さらに続けてsuzumokuが両親に宛てたメッセージ“手紙”で《僕はこの場所で 頑張れてるから/何も心配ないよ たくさんの仲間達も いるから》と歌うものだから、この辺りはかなりグッときてしまった。仕方のないことだけど、それでもやはりもっと多くの人にアルバム・ツアーを観て欲しかった。それぐらい素晴らしいパフォーマンスなのだ。
ヒイズミによるメンバー紹介に応じて、一人一人が挨拶する。Nirehara Masahiro(Wb)は、「1年半ぐらいpe'zmokuをやってきまして、いつも僕の目の前でsuzumokuくんの引き締まったオシリがこう、ぷりっ、と。皆さんからは見えないと思うんですけど。これ、僕の役得だから」と自慢している。suzumokuが「今日は最後までシッソウしたいと思います!」と高らかに宣言するものだから、思わず、いやまたシッソウしちゃダメだろ!と突っ込みそうになった。ああ、「疾走」ね。びっくりした。そして終盤戦はまさにsuzumokuの言葉どおり、爆発的なテンションの“酒気帯び散歩”、照明が流れ星を描くように煌めいてスタートしたサンバ・ビートのブラジリアン・ジャズ“流星群”、そしてロッキンな“蒼白い街”と怒濤の盛り上がりを見せた。アンコールも2曲で、最後は“ギャロップ”へ。pe'zmokuがリリースしたCDの収録曲は、すべてプレイされた。6人のトガリアンズは一列に並び、ペコリと頭を下げて大歓声の中に去っていったのだった。
無理してライブを強行するのでもなく、また余計な気負いもなく、ガッチリとメンバー自らもオーディエンスも楽しめた、そういうステージであった。活動休止に関しては、ずいぶん悩んで、話し合って、出した結論なのだろう。何より心身の健康が関わる問題でもある。その上での話だが、やはりpe'zmokuというバンドが失われるのは余りにも惜しい。PE'Zがsuzumokuを選びsuzumokuがPE'Zを選んだ理由が、改めてステージ上のパフォーマンスで明らかにされるような内容であった。終演後の楽屋挨拶では「おつかれさまでした」ではなく「素晴らしかったです。活動休止を感じさせない、どっしりした手応えのライブでした」という言葉が口をついてしまった。いつでもいい。でも、いつかきっと帰ってきて欲しいのだ。pe'zmokuには。(小池宏和)
1. アノ風ニノッテ
2. 第三の男
3. ペズモク大作戦
4. ファイナルラップ
5. 密室
6. 帰り道
7. ちょっと
8. テイルライト
9. 盲者の旅路
10. ボクラトコラト
11. 手紙
12. ハルカゼ
13. アンダンテ
14. それでもそれでもそれでも
15. 酒気帯び散歩
16. P.M.トガリアンズ
17. 流星群
18. 蒼白い街
アンコール
19. Nicas Dream~Drum Thunder
20. ギャロップ