シェリル・クロウ/ジャクソン・ブラウン @ 東京国際フォーラム

ウドー音楽事務所による、スーパースターたちの夢の共演シリーズ。今回はシェリル・クロウとジャクソン・ブラウン、米国きってのシンガー・ソングライター両名によるステージである。以前はクラプトンとジェフ・ベック、或いはライ・クーダー&ニック・ロウといった、それぞれ古くから交流のあるロック・レジェンドたちの共演が目立っていたが、今回は世代的に少々離れた、後のシェリルのMCを拝借するならば「ジャクソン・ブラウンは、最初の音楽教師のような存在」といった具合の、これはこれで興味深いジョイント・ライブである。

意外や意外、先攻するのは何とジャクソン・ブラウン教諭。ほとんど普段着のようなジーンズにシャツ、サングラス姿で「コニチハー」と登場するのだが……とにかく若い。体型もスマートなの
で、普通にジーンズ姿でもカッコイイのである。だいたい、2008年作『時の征者』のジャケット・アートワークで見せていた、あのたっぷりの白髭はどこへ行ったんだ。スッキリとした笑顔を見せながら一曲一曲の頭でギターやピアノの出音を確認し、女性2人のコーラス隊を含むバンドと共にマイペースのステージを展開してゆく。それまで静かに聴き入っていた客席から最初に歓声が沸き上がったのは、“悲しみの泉”のイントロが鳴り響いたときであった。

1970年代の米ウエスト・コースト・サウンドというのは、ロック・ミュージックの歴史におけるそれまで右肩上がりの進化の、ひとつの頂点であった。リズム&ブルースが、フォークが、カントリーやジャズが、そして各地の様々な音楽様式が「ロック」という記号のもとに集約されて、歴史の浅いアメリカ文化の象徴となった瞬間である。ブラウンはそのシーンの一角を担う表現者だ。彼には荒ぶる爆音は無いし、怒号もない。しかしまるで空間に浮かび上がって形を成すような、強いメロディと言葉があった。ブラウンの歌にはリバーブも無くていい。今回のステージは『時の征者』の楽曲を含めた現役感溢れるステージで、それまでゆったりとドラマティックな楽曲の数々を披露していたバンドが最後に“孤独なランナー”で疾走し始めると、まるでロックンロールが今まさに新しく生まれ落ちたというような、そういう感覚に陥った。

そして後攻はシェリル・クロウ。意図的なことではないのだろうけれども、バック・バンドの編成がブラウンとほぼ同じなのが面白い。こちらはもはや彼女のベスト・オブ・ベストと言うべき選曲の、ほとんどロックンロール・パーティと化すような突き抜けたパフォーマンスとなった。DNAレベルで、あの豊かなウェイビー・ヘアの先端にまでロックが予め刷り込まれているような、自然体なのにブルース・フィーリングが強いボーカルの節回しが冴える。ブラウンとは好対照だ。例えば名曲“イフ・イット・メイクス・ユー・ハッピー”の、メロディアス なコーラス部に至る前に歌われるブルージーなパート。そこにこそ彼女の本領はあるのだろう。

その才能はむしろ、彼女のデビューが遅咲きだったことの理由のひとつとなっていたのかも知れない。しかし、煙の立ち上るような野太いロック・サウンドの中で力強くブルージーに歌いながら、どこかフェミニンでエレガントなムードをも振りまくシェリルの佇まいというのは、幾つもの大きなステージ・パフォーマンスの中で更に磨き抜かれ、唯一無二のものであり続けている。この十数年で発表されてきた彼女のヒット・ ナンバーの数々を楽しむということだけではなくて、存在感そのものとしてある現在のシェリルを受け止めるというような、そういうステージになった。本編終盤、打ち込みの同期サウンドを絡めたダンス・チューンの連打では、22時をまわった座席制の東京国際フォーラムで、オーディエンスを踊らせるほどのパフォーマンスを見せてくれた。

アンコールは多くの人が期待していたとおり、という展開なのだが、まだ国内各地を回って再び東京に戻ってくる、というツアーの初日なので、お楽しみの内容についてはぜひご自身で目撃して頂きたい。演奏曲のタイトル表記も「それはやるだろ」というものだけに留めた。が、とりわけジャクソン・ブラウンは、これでもかというぐらい名曲まみれの人なので、もしかすると公演によってはセット・リストが大きく変わったりするのかもしれない。気になる。(小池宏和)
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