ゼム・クルックド・ヴァルチャーズ (O.A. MGMT)@ SHIBUYA-AX

ゼム・クルックド・ヴァルチャーズ (O.A. MGMT)@ SHIBUYA-AX - pic by TEPPEIpic by TEPPEI
近年、バンドの枠を超えた交流がより具体的になり結成されたいわゆる「スーパー・グループ」が数多く出現するようになってきた。レディオヘッドのトム・ヨークがレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーと結成したアトムス・フォー・ピースしかり、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのザック・デ・ラ・ロッチャが元マーズ・ヴォルタのジョン・セオドアと結成したワン・デイ・アズ・ア・ライオンしかり。そしてそんな最新スーパー・グループの中でも代表格と呼べそうなバンドが、このゼム・クルックド・ヴァルチャーズ(以下TCV)である。言わずと知れたレッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズと、これまた言わずと知れたニルヴァーナ~フー・ファイターズのデイヴ・グロール、そしてクイーンズ・オブ・ストーン・エイジのジョシュ・オムによって結成されたTCVは、前後左右に一切死角なしのスーパー・プレイヤーがスーパー・トライアングルを形成する、とんでもないスーパー・ライブ・バンドでもある。

ちなみにTCVは前述のアトム・フォー・ピースやワン・デイ・アズ・ア・ライオンと共にこの週末のフジ・ロックへの出演が決まっている。そう、今年のフジは何気にスーパー・グループ勢揃いのフェスなのである。そしてこの日のライブはそんなフジのウォーミング・アップ……と肩慣らし的に呼ぶにはあまりにも濃厚な体験となった。渋谷AXのチケットはもちろん発売早々に即完。当然だろう。ジョン・ポールにせよデイヴにせよ、そもそもがこんな(彼らにとって)スモール・キャパで観ることが適う人たちではないのである。

オープニング・アクトを務めたのはこれまたフジでホワイト・ステージのヘッドライナーを務めるMGMTだ。なんて豪華な2本立て!バンドの音楽性といい思想性といいあらゆる意味で真逆と言っていい両バンドだが、TCV目当ての30代を主体とする客層も若い彼らが体現する「2010年の音」を前のめり気味で見守っている。

前回来日時には大学の音楽サークルノリなアンドリューとベン、そんな彼らを技術的に支えるスタジオ・ミュージシャン風味のサポート・メンバーにぱっきり分かれていた印象だったが、今回の彼らは見事に「バンド」になっていた。彼らがバンドになった理由は何よりも『コングラチュレイションズ』という新譜が握っている。新旧ナンバー織り交ぜてのショート・セットだったが、“Kids”も(“It’s Working”のセットアップが出来なかったから)惜しみなくてらいなく披露。この後に控えるTCVのド迫力なロック・ショウの前哨戦としてはあまりにも異質な、異質すぎて面白くなってくるような軽さとイノセンスとヴィヴィッドな世代感に満ちたショウだった。

そして、TCVの登場だ。時計の針が20時を回った直後に始まり、終わったのは22時。つまり賞味2時間のショウである。ただしこの2時間の持つ意味は、普通のロック・バンドのそれとはあまりにもかけ離れたものだったと言わざるを得ない。無理やり例えるならば、通常1週間分のロック摂取量をこの2時間で補って余りあるような、ギターの、ベースの、そしてドラムスの快感フレーズがみちみちに詰め込まれた濃密な体験だったのだ。

そんな各メンバーの個人技の応酬にいちいち口あんぐりで引き込まれつつも、もちろん何よりとんでもないのはそれらが混然一体となった時に生じる磁場だ。ジョン・ポールのベースとデイヴのドラムの吸いつくような応酬で聞かせる“Scumbag Blues”や、トラディショナルなハード・ロックをこの3人で鳴らすことによって教本的でありつつ同時にすさまじくオリジナルに翻訳し直してしまう“Elephants”、そしてよりプログレ的な技が高次で有機的な繋がりを見せる“Elephant1”と、この夜の前半戦はTCVという得難いフォーミュラの謎が次々と証明されていくプロセスそのものだった。名プレイヤーがたまたま3人揃ったから凄いバンドなのではなく、互いの力を何倍にも増幅させうる3人のフォーミュラこそがこのバンドの奇跡なのである。

これだけの名プレイヤーが揃いつつも、「フロントマン」的に機能しているメンバーが実は存在しないというのもTCVの面白いところだ。演奏の軸を担っているのはデイヴのドラムだし、ジョシュはもちろんメイン・ボーカルだし、精神的支柱はジョン・ポールで間違いないが、彼らが織りなすトライアングルは意外なほどに超正三角形だった。誰かが誰かに遠慮していると言うよりも、自分たちの本拠地では得られない未知を探求し、互いに対するリスペクトがその探求の道しるべとなった結果、TCVという「人格」が最優先されるバンドとなったからだろう。個々人の個性を凌駕するバンドの個性が生まれるなんてことは、彼らほどのキャリアを持つプレイヤーが集まる場においては本当にレアで幸福なことだと思う。

“Highway1”が終わったところでジョシュがマイクを持ってのメンバー紹介。各メンバーに割れんばかりの拍手喝さいが送られるが、中でもジョン・ポールに対するそれは凄かった。スタンディング・オベーション……ってスタンディングの会場なのだから当然だけれども、本当にその光景はレジェンドを讃えるオベーションに他ならなかった。それでなくともこの日のAX、ここまで野太い歓声が大音量で絶え間なく続くショウは久々に観た気がする。

サポート・ギタリスト、アラン・ジョハネスのソロ・セッションを挟んで始まった後半戦、特に3人の掛け合いボーカルによるTCVのナンバー中でも最もポップな“Mind Eraser”をブチかました後は最早全てがリミットレス、よりアヴァンギャルドかつジャム・セッション的な楽曲が続いていく。前半が3人のトライアングルの中心に向かって演奏を集約していくタイプのパフォーマンスだったとしたら、後半はトライアングル自体を拡大させていくような意思を感じさせる、ある意味予測不能なプレイが続く。

ジョン・ポールはショルダー・キーボードから電子ピアノまで弾きまくり、ある時はヴァイオリンを奏で、しかもそれがブルーズとミックスされる(“Can’t Possibly”)という、果てしなき実験場だ。ハード・ロックの黄金律を外れていくその果敢な流れを掌握していたのは恐らくジョン・ポールで、かつてTCVについてのインタビューでベーシスト以外の自身のプレイヤヴィリティに対しての自負を強く語っていた御大の言葉を裏付ける内容だ。ツェッペリンのあの一夜限りの再結成がジョン・ポールに与えた力と光は本当に大きかったのだろう。ジョシュとデイヴもそんなジョン・ポールに嬉々としてつき従っている。ラストの“Warsaw”に至っては10分超えの果てしないジャム的グルーヴが延々とかたちを変えて波状攻撃されていった。

アルバムでは到底計り知れない「生」の威力をここまで感じさせられたライブは久々だった。世代を越えて繋がった3人によってそれが成し遂げられた様を目の当たりにして、ロックの歴史を改めて確認し、誇らしくすら思える一夜だった。(粉川しの)
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