HiGE @ Zepp Tokyo

右手の人差し指を高々と掲げて仁王立ちする斉藤(G・Piano)をはじめ、須藤(Vo・G)、宮川(B)、フィリポ(Dr・Perc)、アイゴンこと會田茂一(G)……ステージ上の照明に浮かび上がる5人の姿。5人? そう、今まさに1曲目“3.2.1.0”に突入するというのに、ステージにコテイスイ(Perc・Dr)がいない。そこへ、メガホン越しに響くコテイスイのアジテーション・ボイス! 彼を照らすべくスポットライトが当たったその場所は、ステージを大きく外れた下手袖の2階席! 堰を切ったようにZepp Tokyo中にあふれ出す、怒濤の大歓声! “3.2.1.0”の間中、コテイスイはステージに戻ったと思ったら2階席上手側に移動し、フロア柵前で熱狂しまくりのトップ・オーディエンスを煽り倒し、と自由自在に動き回る……HiGEのアルバム『サンシャイン』リリース後の全国ツアー21本のファイナル=Zepp Tokyo公演は、そんな幕開けの場面から最後の一瞬まで、最高にハッピーな空気に満ちたものだった。

「ツアーファイナルってことで、今日はお台場でみんなと会えてとても嬉しいです!」と須藤。「何万人ぐらい集まってんのかな? 見た感じ、2万人ぐらい集まってくれてありがとう!(笑)」とフィリポ。かつてのプロデューサーにして辣腕ギタリスト=アイゴンの加入によって、トリプル・ギター&ツイン・ドラムという超音圧系フォーメーションを手に入れたHiGE。須藤/斉藤/アイゴンの3つのコードが重なり合った威力が、“ブラッディ・マリー、気をつけろ!”“ペインキラー(for Pain)”といった楽曲では須藤のハスキーな絶唱と相俟ってダイナミックに炸裂していた……が、それはあくまで今のHiGEの「フォーメーションA」にすぎない。

“三日月”では須藤がアコギを、アイゴンがペダル・スチール・ギターを奏でたかと思えば、“髭よさらば”ではフィリポがドラム・セットから飛び出してプリティなアジテーターとしてステージ狭しと駆け回り長髪ヘッドバンギングをかまし、アルバム『サンシャイン』でもフィリポ&コテイスイがツイン・ボーカル(!)を務めていた“オニオン・ソング”ではあの名ギタリスト・アイゴンにドラムを叩かせる大胆不敵さ。その直後に名バラード“青空”へ流れ込んで、曲の後半に広がるサイケデリックなギター・オーケストレーションがオーディエンスの脳内を真っ白に染め上げる。曲によっては須藤がギターを置いてハンドマイクで叫び上げたり、ついにはアイゴンまで曲中にギターを置いてステージを愉快そうにのし歩いたり、この日のステージは終始「何が飛び出すかわからないカオティックな縦横無尽さ」のオンパレードだった。そして同時に、この日のHiGEのアクトはかつてないほどにストレートで、ダイレクトで、開放的だった。

そもそもHiGEは、須藤はじめメンバーが日常世界で抱える鈍色の違和感を、グランジmeetsザ・ドアーズ的なロック・サウンドに結晶させたところから出発したバンドだったし、『LOVE LOVE LOVE』など初期の彼らの作品では常にシニカルなエッジ感とコミカルな毒気がこんがらがって存在していた。が、彼らはそのこんがらがったエッジ感と毒気を、6人編成のカオティックなバンド・フォーマットーーいや、「バンド」と呼ぶのも相応しいかどうかわからないほどの「集合体」の中で鳴らすことで、こんがらがった自らの衝動そのものをシンプルに、わかりやすく音像化することに成功したのである。この日のHiGEの音は、「フロアに挑みかかる」とか「死に物狂いでアゲまくる」といったモードは皆無だったし、そんな6人の変幻自在なフォーメーションから繰り出されるヴァイブに呼応するように、満員のオーディエンスも面白いように踊り、歌い、跳びまくっている。ステージもフロアも至って自然体のままでっかいスケールでイカレているプレシャスなこの光景は、他のどのロック・バンドのアクトともまったく違うし、大昔のヒッピー・ムーブメント的なハッパ臭いトリップ感とも異質なものだ。僕らはこの日常にいながらにしてハッピーになれるーーそれを証明するように、この日のHiGEの音は爽快に鳴り響いていた。

“サンシャイン”ではPV同様に全員が花輪の髪飾りをつけて(「俺PV出てないけど、作ってもらったから!」と言ってアイゴンもつけていた)ピースフルに歌ったり、花輪つけたキュートな佇まいのまま“B級プロパガンダ”“ロックンロールと五人の囚人”などクライマックスへ雪崩れ込んだり、“下衆爆弾”で勢い余ってマイクに顔をぶつけて口から流血した須藤が「マイクにぶつけて熱い血が流れてきたよ! 僕は熱い血が流れてる下衆野郎みたいです!」と高らかにシャウトしてひときわ大きな歓声をさらったり……というタガの外れまくった凸凹狂騒感と、「今日はみんなに会えてほんとよかったよ! 僕の財産だね!」という須藤の、ウィットも皮肉もない純粋な感謝の言葉。それらが矛盾なく存在しているのが今のHiGEである。“虹”の銀色に輝くギター・アンサンブルを残して、本編終了。

アンコールでは、さっきの“オニオン・ソング”のフィリポの歌いっぷりを「イギー・ポップみたいだったよ!」といじる須藤。「太ってるところは似てないけど(笑)」(須藤) 「太ってまーせーんー!」(フィリポ) という小学生並みの他愛のない応酬でも、会場の空気はさらに熱を帯びていく。「ツアーでは1回も演奏しなかったんだけど……」とスウィートな名曲“せってん”を披露し、“Are youハッピー??”で「お前の悲しかったこと、俺が全部笑い飛ばしてやるよ! なんたって下衆野郎だからさ!」と叫び上げ、「みんなのあったかい笑顔に包まれて、最高です!」「“ハートのキング”……お前らのことだよ!」と、Wアンコールで感極まったようにフロアにでっかい声で呼びかける須藤。正真正銘ラスト・ナンバー“ハートのキング”の痺れるような快感が、最後の音が止んだ後もしばらく消えることはなかった。(高橋智樹)


[SET LIST]

01.3.2.1.0
02.ブラッディ・マリー、気をつけろ!
03.ペインキラー(for Pain)
04.三日月
05.髭よさらば
06.ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク
07.D.I.Y.H.i.G.E.
08.オニオン・ソング
09.青空
10.ACOUSTIC
11.ドーナツに死す
12.溺れる猿が藁をもつかむ
13.サンシャイン
14.B級プロパガンダ
15.ロックンロールと五人の囚人
16.テキーラ!テキーラ!
17.下衆爆弾
18.虹

EC1-1.せってん
EC1-2.Are youハッピー??
EC1-3.ギルティーは罪な奴

EC2-1.ハートのキング
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