De La FANTASIA 2010 @ 新木場スタジオコースト

この『De La FANTASIA』は、公式サイトによると、「ジャンルや地域、有名無名を問わず、独自の個性をもった新しいサウンドを創り続けるアーティストたちをクローズアップするイベント」という趣旨で、去年の「De La FANTASIA Volume Zero」に続き、これが2回目の開催でした。去年は恵比寿リキッドルームで、10月30日・31日・11月1日の3日間の開催(そのうち31日は、通常公演プラスオールナイトのイベントもあり)で、細野晴臣、サケロックオールスターズ、高橋幸宏+ゲストで小山田圭吾、クラムボンの原田郁子、EGO-WRAPPIN’の中納良恵などなどが出演。
で、今年は11月20日の1日開催、場所は新木場スタジオコースト。通常のステージと、ロビーの「COAST LOUNGE」という小さなステージのふたつ。で、それが交互に演奏されていくタイムテーブル。ラインナップはこうでした。出演順に書きます。

メインステージ:
高木正勝
トクマルシューゴ
TYTYT(高橋幸宏+宮内優里+高野寛+権藤知彦)
細野晴臣
クレア・アンド・ザ・リーズンズ
ヴァン・ダイク・パークス

COAST LOUNGE:
Ngatari
small color
Predawn

という、全9アクトが出演。どうでしょう。「ジャンルや地域を問わず」というのと「独自の個性をもった」というに関しては異論ありませんが、「有名無名を問わず」というところには、「有名じゃないか!」とか「贅沢じゃないか!」とか言いたくなります。まったくもって文句をつけるべきことではないが。

というわけで。存分に満喫させていただきました。で。昨日、自分のブログにもちょっと書いたが、この場に慣れているとなんとも思わないんだけど、途中で「よく考えると結構不思議なイベントなんだ、これ」と気づいたこと。
メインのステージの方、オーソドックスに「この人ギター、この人ベースで、この人がキーボード」みたいに、役割分担がはっきりしているバンド、いない。そういう編成、細野晴臣バンドだけでした。高木正勝は、基本ソロだし音楽ジャンル的にある意味はっきりしているので(テクノというかアンビエントというか)、まだそのへんわかりやすいが、続くトクマルシューゴ、役割がクリアなの、歌&ギターの本人とドラマーだけ。あとの3人は、木琴のような鉄琴のようなシンセのようなベースのようなパーカッションのような、ピアニカのような(しかも3人とも口んとこに持っていくチューブみたいなのを付けている)、そんな「何屋さん?」みたいなことになっていて、1曲ごとにどんどん役割が変わる。いや、下手すると、1曲の中でも変わったりする。
って、トクマルシューゴのライブ、初めて観たわけじゃないので、そういうものだと知っていました。いましたが、それ以降、アクトがどんどん進んでいくうちに、「そうか。今日は、このトクマルシューゴみたいな方が普通なんだ」ということに気づいたわけです。

特に、そのトクマルシューゴの次、COAST LOUNGEのSmall Colorをはさんで登場した、TYTYT。高橋幸宏を中心に、宮内優里・高野寛・権藤知彦からなる4人編成のユニットなんだけど、役割が比較的はっきりしているの、ギターと歌の高野寛だけでした。あとは、ステージに横一列に置かれたライザー(あの台みたいなやつね、ドラムとかキーボードとかのっけて転換しやすくする)の上で、イスに座って、なんか機材をいじってみたり、弦楽器をつま弾いてみたり、管楽器を吹いてみたり、何かを叩いてみたり。で、曲は、インストだったり、高橋幸宏が歌ったり、高野寛が歌ったり、ゲストの女性ボーカル(原田夏実)が登場して朗々と声を響かせたり。というライブでした。
音も歌も、大変に気持ちよかったけど、なんて形容したらいいのかわかりません、これ。そんな、ひたすらライター泣かせな音楽でした。
なお、MCによると、これが初ライブだそうです。このイベントに出るために作ったユニットなのかな、と、ちょっと思いました。でも、気心知れた、付き合いの長いメンツだから、普通にやってもちょっとあれなので、こういう楽器(だけじゃないが)編成にしたのかな、とも思いました。

ちなみに。ひとつ前のトクマルシューゴ、歌も演奏もすばらしかったけど、MCはだいぶテンパってました。「カバーをやります。ほんとは自分の曲もいっぱいやりたいんですけど……ああ、MC、やり直したい。思ってたのと違う」とか言いながら披露したのは、バグルスの「ラジオ・スターの悲劇」でした、なんでそんなにテンパっていたのかは、後述。

そして、メインステージ、TYTYTの次は、唯一のバンドっぽいアクト=細野晴臣バンド。歌とアコギ:細野晴臣、ギター:鈴木茂(!)の「2分の1はっぴいえんどコンビ」に加え、ベース:伊賀航、ペダルスチールなど:高田漣、ドラム:SAKEROCK伊藤大地、というメンバー。細野さんの「あのテンションのあの声」が、淡々と響き渡るさま、もう圧巻。
今、アルバムのレコーディング中で、締め切り間近で、毎日ひきこもり状態で作業中で、ほんとはこうして人前に出てくるような状態じゃない。ってなことをぼやきながら、その、ニュー・アルバムに入る新曲をどんどんやってくれて、うれしい限りでした。途中、そのアルバムに入る1曲を一緒に書いたという、細野さんのテレビブロス誌の連載の相棒:星野源が登場、その曲にコーラスで参加。「ギター持たずにコーラスだけする、もう見るからに手持ちぶさたそうな星野源」という、貴重なものを観ることができました。

続いて、ニューヨークから来たクレア&ザ・リーズンズ。写真を見ると、いつもクレア(ボーカルとアコギ)と男性メンバーひとりの2ショットですが、ライブは4人編成。やはりこの人たちも、クレア以外は曲によってギターだのベースだのパーカッションだのを激しく持ち替えるので、パート、よくわからず。まあ、ドラムレスでアコースティックな歌もの、簡単にいうとそんな感じです。
ただし。えっれえよかった。音も歌も、とにかくもう、豊か。何にも珍しいポイントなし、ちょっとどうかと思うほどオーソドックスなんだけど、なんでしょう、「ヘンな個性なんかいりません」「普通にやれば圧勝です」ということを体現するようなライブ。家に帰って調べたら、今年の8月に3日間、東京・丸の内のライブレストラン、COTTON CLUBで来日ライブをやっていたことがわかりました。そうか、そういうバンドか。でも確かにそういう感じだ。今度来たら行こうかな、座って飲みながら観たら、すごい気持ちよさそうだし。

そのクレア&ザ・リーズンズが30分ほどやったあと、幕が閉まって転換。ふたたび幕が開くと、そこにはバック・バンドとして上手にザ・リーズンズの3人を従え、グランドピアノに向かい、にこやかに微笑むヴァン・ダイク・パークス、御歳67歳が。おお。本物だあ。
って、すみません、正直、私、彼に思い入れのあるわけではありません。ただ、知識として知っている、くらいの薄い者なんですが、でも、そんな薄い奴が観ても、すごかった。いや。「すごい」という言い方がしっくりこない、でもすごい、そんなライブだった。ニコニコと、ゆったりと、楽しく1曲ずつ進んでいくんだけど、それがいちいち「おおお……」と絶句したくなるようなメロディだったり、声だったり、コードだったり、音だったりする。そんな感じでした。圧倒的。失礼しました。過去の作品、ちゃんと聴かなきゃ。という気持ちになりました。

そういえばトクマルシューゴ、MCで「今日がくるのが怖かった」とか「演奏したくない」とか「でもやらないと……お金もらえない」とか「自分の時間、早く終わればいい」などと口走っていた。で、「光栄です」とも。つまり、「一緒にやるなんて畏れ多い」みたいなことです。細野さんに対しても幸宏さんに対してもそうだったろうけど、特に、ヴァン・ダイク・パークスに対してですね、おそらく。

もうひとつ、そういえば。細野さん、ヴァン・ダイク・パークスに会ったの、38年ぶりだったそうです。だから、本来ライブをやるような時期じゃないのに、このオファーを受けたのかな。とも、ちょっと思いました。(兵庫慎司)
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