SAKEROCK @ SHIBUYA-AX

SAKEROCK @ SHIBUYA-AX
「ようこそおいで下さいましたあー! でかいねえ。後ろの方、大丈夫? なんだったらこう、前の方に詰めて貰って……すみませんねえ。まあ分かってると思うけど、でかくてもこのテンションで行くからね。のんびり楽しんでって下さい!」という星野源の挨拶でゆるく幕を開けた、SAKEROCKの『MUDA』レコ発ツアー・ファイナル。「せーの、SAKEROCKです!」というメンバーの声を合図に、まさにのんびりとスタートした“進化”の伊藤大地によるリズムが徐々にマーチング・ビートに移行して、ずるずると満場のオーディエンスを引き摺り込みながら熱を帯びて揺らしてゆく。

2月に始まったこの『MUDA』のツアーは、全国各地で盛況のうちに進められながら3/12の札幌と3/21の東京ファイナルを残して、震災後の状況により延期の決断が下された。というか災害発生時、SAKEROCKの機材車を乗せたフェリーは北海道へと向かう航路の海上にあって、その安否自体が問われるという事態であった。その後スケジュールは仕切り直され、この5月に札幌と東京の振替公演が行われることになったのである。何よりも、この日を迎えられたことが嬉しい。

SAKEROCKのロック性がかつてなく発揮された『MUDA』の作風がそのまま過去の楽曲にも影響を及ぼしているというふうに、落ち着いてスウィングしたり牧歌的にフォーキーだったりする楽曲が、一転してスリリングかつエキサイティングな表情を見せてゆく。源くんのギターや大地くんのドラムがそういうムードを牽引してゆくという場面が多い。ところが、SAKEROCKの音楽の表情に、トボケたり熱くなったりという最終決定を下しているのは、ハマケンのトロンボーンのメロディなのだということが、今回のステージで改めてよく分かった。

そもそも、今回のステージには源くんによるマリンバが無いし、ゲストのキーボード奏者もいない。4ピースのロック・バンドSAKEROCKが全開になる条件が予め用意されていて、メロディはハマケン一人の負う部分が大きいわけだ。でも他の3人がどれだけ激しくプレイしても、ハマケンのトロンボーンがトボケた音色のメロディを吹いていると、どこか力が抜けてしまう。彼がブライトで力強いフレーズを放つときにようやく、SAKEROCKのかつてないロック性が遺憾なく発揮されるのである。この瞬間に突入したときの熱狂は凄い。トロンボーンではなくボーカルが入ったバンドならどうだろう。少なくとも「すっとぼける」という性能において、ハマケンのトロンボーンは歌よりも遥かに雄弁である。しかし例えば“穴を掘る”や“老夫婦”といった、源くんがソロで歌詞を吹き込んだ楽曲は、それによって物語や情景がよりクリアにされたからか、ハマケンが吹くメロディの音色もクリアになっている印象で面白い。

「暑いね。SAKEROCKのライブは意外と、失神する人が多いんですよ。ヤバくなったら遠慮なく挙手して下さいね。演奏中だったらスタッフらしき人に。角張さん(渉=所属レーベル・カクバリズムCEO)とかが《大丈夫ぅ~!?》って来るよ」とモノマネをする源くん。「なんで失神する人、多いのかな? 演奏が盛り上がるから? 血圧低そうな人が多いから? 両方か。ハマケン、シャツの顔色悪いよ」と、今度はグリーンのドット柄のシャツをネタにいじり始める。オーディエンスからの不評の声も飛んでハマケン、「ビームスの人が似合うって言ってたんだよ!」とふてくされるのであった。

そしてMCを振られたベーシスト・田中馨は「あの……青森県の大間ってところで原発を建設中なの知ってますか? 僕、親が函館にいて、僕も昔住んでいて、大間と函館って近くて、何かあったら余裕で被害を受けてしまうんですね。で、建設反対の署名運動をやってて……もし協力して頂ける人がいたら、あとで僕、物販の隣でやらせてもらうんで、よろしくお願いします……ご清聴ありがとうございました!」といつになく熱く語り、フロアには拍手が巻き起こる。

そしてこの後は“ホニャララ”から、いよいよ新作『MUDA』の楽曲群が披露されてゆく。源くんのソリッドなギター・リフがかっこいい“Green Mocks”、ゆったりとしたブルース・ファンク風ナンバーだがどこかエモーショナルな“Goodbye My Sun”、そしてユーモラスなアンサンブルの“Hello-Po”。単にインスト・セッションとして優れているだけではない、ロック的なソング・ライティングとして秀逸な“FUNK”は、ジェフ・ベックやジャック・ホワイトとすらも比肩するようなレベルではないかと思えた。ここではハマケンが、得意のJB風節回しによるファンキーなマイク・パフォーマンスも披露する。マイケルのようなポージングを決めてウケたと見れば、すぐに調子に乗ってしまうのがタマに傷だ。

どこかサウダーヂというよりも風流なブラジリアン・ファンク“URAWA-City”と、源くんのギターに軸足を置いたまま他の3人が崩壊スレスレまでフリーク・アウトする展開がスリリングな“WONDER MOON”を経て、情感一杯に眩しいバックライトの中メンバーがシルエットを浮かび上がらせながらフィニッシュした“KAGAYAKI”は感動的であった。人気者のレーベルCEO、角張渉氏が呼び込まれて物販の宣伝も行われ、ハマケンがTシャツ姿になってモデルみたいに歩き回るところに角張氏のトークとBGMのギターが加えられてゆくというアドリブも爆笑モノであった。

“モー”をプレイしようとするとき、ドット柄シャツを牛みたいと評していた源くんが「そのシャツみたいに曲紹介して」とハマケンに告げたのだが、これを無茶振りと勘違いしたのかハマケン、ドット柄シャツを抽象的に表現しようとして意味不明の身振りと発声を披露。すみません、これ、文章で伝えるのは難しいですが、勘違いっぷりと強引な表現がメチャクチャ面白かったのです。源くんウケ過ぎて曲が始まらないし。“生活”の後には恒例、ハマケンのフリースタイル・スキャットを大地くんがドラムで再現するバトルが行われる。いつしか大地くんのドラム・スキルを試すというよりハマケンが試されるコーナーになっている気がするが、大変なのは分かるけど「走る走る、俺たち!」とか「くり返される諸行無常!」はアウトだろう。同業者として。

源くん:「最後の曲になりました。AXの割に《えー!?》が小さくない? 《ああ》のニュアンスが含まれてるよね」
ハマケン:「頭いいんじゃない? どうせ次あるんだろ、みたいな。キッズじゃないんだよ」
源くん:「SAKEROCKはキッズな部分がないかも知れないけど、角張さんはあるよ? で、『MUDA』っていうタイトルは、たいして意味がないんだけど、僕は無駄なものはないと思っていて、最近いろいろあるけど。やっぱり《無駄なものはない》って思いたいんです! 僕の中のキッズな部分が!」

そして磬くんはウッドベースからエレクトリック・ベースにスイッチし、ユニゾンのコーラスを全員で歌いながら『MUDA』の最終トラック“GUNPEI”が披露されるのであった。アンコールを待つ間、今回のツアーのオフショット映像が映し出され、これはSAKEROCKよりも《インディーの神に愛された男》角張渉(32)社長業にスポットライトを当てたものであった。公演延期の間にこんなものを仕込んでいたのか。各地の公演で吉川晃司をベースに、オザケンや少女時代といった合わせ技のモノマネを披露する氏の姿。「あなたにとってプロフェッショナルとは?」という問いには「素人とは圧倒的な差のある熱意だな」とどや顔を見せる。いや、なんか笑ってしまうけど、偉大である。カクバリズムは。

さすがに角張氏のモノマネを見ないことには収まりがつかないアンコール。今回は吉川晃司×KARA×大黒摩季という合わせ技からのシンバル・キックで、アンコール曲“MUDA”開始の合図を鳴らしてみせた。バンドのバックには「MUDA」と煌めく巨大なネオンが降下してくる。おおー、かっこいい。鳴り止まないダブル・アンコールの催促に、用意された演奏曲が尽きてしまった4人は、既にRO69のニュースでも報じられている通りの日比谷野音公演開催を告知。そして手を繋いで深く頭を下げ、去っていった。全24曲、約2時間半。最高のステージであった。(小池宏和)
SAKEROCK @ SHIBUYA-AX

[セットリスト]
1. 進化
2. 電車
3. 穴を掘る
4. 老夫婦
5. ちかく
6. 選手
7. 今の私
8. 七七日
9. ホニャララ
10. Green Mockus
11. Good Bye My Son
12. HIROSHIMA NO YANKEE
13. Hello Po
14. FUNK
15. Wonder Moon             
16. Oyabun 
17. URAWA-City
18. KAGAYAKI           
19. モー             
20. 菌               
21. 慰安旅行 
22. 生活             
23. GUNPEI

アンコール
1. MUDA
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