このツアーから、10年連れ添った大所帯バカテクファンク・バンド=ファミリー・シュガーと離れ、ギター/ベース/ドラム/鍵盤とスガのシンプルな5人編成でのライヴ。ツアー前半の、Zepp Tokyoを観た時も思ったけど、もう掛け値なしに最高のライヴだった。
勢いと衝動に満ちている、ファンクなのにファンク魂以上にロック・マインドがばりばり出ている、バラード方面じゃなくダンス方面に振り切れた選曲がすばらしい("午後のパレード"のアレンジってハウス・ミュージックのマナーにのっとってるんですね。今日初めて気づきました)、等々、最高なポイントはほんとにいくつもあるが(詳しくは明後日10月31日発売のbridgeのインタヴューでも語られているのでそちらをぜひ)、何がいいって、お客さんも、バンドも、そして誰よりもスガ本人が楽しそうなこと。だからこっちも楽しくなること。
あたりまえじゃん。ライヴって楽しいもんじゃん。って言われそうだけど、スガシカオの場合、ライヴ以前に音楽そのものを、楽しいもの、あるいは自分が楽しくなるためのものとして位置づけていないフシが、デビューの頃からあった。自分を追いつめるためのものとか、見るとつらいから普段見ないようにしている自分の暗部を暴いたり、そしてあえてそこを見つめたりするためのもの、として、音楽を作っていたところがあった。
「あった」というか、今でもあるんだけど、であるがゆえに楽しさと同時にシビアさや冷静さが漂うのが、スガのライヴだった。だから「音に酔う」以上に「音によって何かを考えさせられる」側面が強かったのだが、このツアーはおそらく初めて、「音に酔う」ことや「音で楽しく気持ちよくなる」感じの方が、前に出ていたのです。って、「初めて」は言いすぎかもしれないけど、異様にグルーヴに満ちたバンドの音と、いきいきとまっすぐに伸びていくスガの声に触れていて、そう感じたのでした。
ミュージシャンもスポーツ選手も俳優もタレントも、何かっつうとすぐ「楽しみたいと思います」とか「楽しくやれました」とか「楽しいです」などと、まるで義務みたいにもしくは宗教みたいに「楽しむ」という言葉を口にする、ここ数年の風潮が僕は好きじゃないんだけど、スガシカオにはその言葉を言う権利がある。と思った。(兵庫慎司)