クリープハイプ@渋谷クラブクアトロ

クリープハイプ@渋谷クラブクアトロ
クリープハイプ@渋谷クラブクアトロ - pics by ハブ(夜色きかんしゃ)pics by ハブ(夜色きかんしゃ)
実際、様々な紆余曲折を経てきたバンドだと思う。結成は2001年。始めはスリーピースで活動していたが、2008年に尾崎世界観(Vo/G)以外のメンバーが脱退。その後はしばらく尾崎のソロ・ユニットとして続いていき、小川幸慈(G)、長谷川カオナシ(B)、小泉拓(Dr)が加入して現在の4人編成になったのは2年前の2009年11月。そこからさらに2年が経過し(その間、フルアルバムを1枚リリース)、ここに至るまで4者4様のキャリアを重ねて来た彼らの音がいよいよひとつの「クリープハイプの音」として結実し、音源化されたのが、今年7月にリリースされたミニアルバム『待ちくたびれて朝がくる』だった。この日は、そのレコ発全国ツアー「待ちくたびれてクリープハイプがくる」のファイナル。会場となった渋谷クラブクアトロは大入り満員で、開演前のざわついたフロアに漂うえも言われぬ飢餓感が、今まさに飛躍の時を迎えんとする現在の彼らの勢いを象徴しているように思えた。

開演予定時刻となって、SE無しでステージに4人が現れると、フロアから歓声が上がる。まずは尾崎が念入りにギターをチェックしてから、「結局ここに帰ってきましたよろしくお願いします!」とオープニング・ナンバー“あの嫌いのうた”を発射。脳の裏側にこびりつくような小川の高音ギターが牽引するアグレッシブなバンド・サウンドにのせて、約4分の尺の中で55回も繰り返される《キライ》という言葉。それが、繊細さと危うさを同時に宿した少年のような尾崎のハイトーン・ボーカルで次々とフロアに放たれていく度に、「好き」と「嫌い」を全速力で行き来する、過剰なまでに引き裂かれたクリープハイプの世界が渋谷クアトロに広がっていく。それにすっかり魅せられてしまったオーディエンスは、拳を目一杯振り上げて歓声を送る。そしてそのままノンストップで“リグレット”を投下。続いて、うねりまくる長谷川のベースがフロアにハンドクラップを誘発させたエロティックな“SHE IS FINE”。この日最初のMCでは、「すごいいっぱい集まってるけど、バンド間違ってない?(笑)緊張する…」(尾崎)なんておどけてみせていたものの、その直後に尾崎のキレのあるギター・ストロークで幕を開けた“左耳”で満場のクアトロを熱狂へと導いていく彼らの顔つきは、実に堂々としているように見えた。

4畳半フォークを倍速回転させたような“君の部屋”の後には、《死ぬまで一生愛されてると思ってたよ》と尾崎が吐き捨てるように歌う、疾走感溢れる新曲“1+1−1”を披露。そして小泉の刻むレイドバック気味のビートがフロアにメロウなムードをもたらした“最夜”から、“バブル、弾ける”“ごめんなさい”“風にふかれて”とミディアム・ナンバーを繋いでいき、「いっぱい新しい曲ができたんで、ツアー中とかはあんまりできなかったんだけど、今日はやります」(尾崎)と新曲を立て続けに2曲。片方が小川のギターが暴れ回るファストなナンバーで、もう片方が小泉の4つ打ちドラムにのせて尾崎がリズミカルな歌メロを響かせる叙情的なナンバーだった。

後半戦に差しかかる前に、「えー、マサルという父親がいまして…」という尾崎の語りから彼の父親についてのMC。少し恥ずかしい話なので、本人の名誉のために詳しい内容はここでは避けておくが(あと、マサルさん、毎日Twitterで「クリープハイプ」と検索しているそうなので)、この話によるとなかなかファンキーそうな方で、しきりにフロアの笑いを誘っていました。そして「じゃあ後半戦」と尾崎が“欠伸”でハイテンションなボーカルを叩き付け、オーディエンスの手を高く屹立させたところで、再びライヴはヒートアップ。「僕とあなた」のディスコミュニケーションを絡まるコードに例えた“愛は”、長谷川のグルーヴィーなベースが生み出す心地良い酩酊感にフロアがゆらゆら揺れた“グレーマンのせいにする”、小川が高精彩なギターソロを弾き倒した“蜂蜜と風呂場”と連打して、徐々に高まっていくフロアのヴォルテージが最高付近に達した頃に、ミラーボールが大回転! そのままダンサブルな“NE-TAXI”へ突入し、場内の熱狂はクライマックスに向けて、美しい上昇軌道を描いていくのであった。
クリープハイプ@渋谷クラブクアトロ
クリープハイプ@渋谷クラブクアトロ
終盤には、「イライラすることがあって、なんか久しぶりに色々気持ちをぶちまけられる曲ができたので、それを聴いてもらえたらと思います」と、この日4曲目となる新曲を披露。この曲は、レイジアゲインストザマシーン・ミーツ・クリープハイプというか、クリープハイプ版“ガストロンジャー”というか、とにかく途方もない怒りとフラストレーションが120%の熱量で逆噴射しているような凄まじい楽曲だった。しかも、その矛先が《バイト先のクソが》と、具体的かつ極々個人的なベクトルに向けられているのも、なんだか彼ららしくて良かった。そしてクライマックスは“ウワノソラ”から激烈ナンバー“HE IS MINE”に雪崩れ込み、「ギネス記録に挑戦しませんか!?」という尾崎のアジテーションから、フロアを巻き込んだ「セックスしよう!」の大合唱が盛大に響き渡ったところで、ひとまず本編はフィニッシュ。

《右手には左手を/左手には右手を》という“あの嫌いのうた”のシンガロングに迎えられ、「なんでBメロだけ!?」(尾崎)と言って再登場したアンコールでは、まずは“色んな意味で優しく包んでくれますか?”、そしていつになく真っ直ぐで、ポジティヴなエネルギーが健全に炸裂している5曲目の新曲を披露。ダブルアンコールでは、フロアから飛ぶ声に尾崎がひとつひとつ答えてから、「僕ら4人にとっては、今日のライヴはすごく大事なライヴでした。その間にも面白いテレビ観たり、面白い映画観たり、面白い小説読んだり、可愛い大島優子ちゃんの写真を見たり――色んな楽しいことがあって。そういうものに支えられて、今日を迎えることができました。このライヴも今日来てくれた人にとって、そうなれば良いと思います」と語り、“イノチミジカシコイセヨオトメ”を全身全霊でプレイ。去り際にフロアから送られた割れんばかりの拍手は、彼らの前途を明るく照らし出すように、クアトロの天井に高らかに染み込んでいった。

ちなみに1回目のアンコールの際に、尾崎が「その日、色々なものをひっくり返すので、ぜひ観にきてください」と、12月に恵比寿リキッドルームでツーマンライブを行うことを発表(対バン相手は後日発表。尾崎曰く、「3、4年ずっと対バンしたかったバンド」とのこと)。長らく雌伏の日々を過ごしてきたクリープハイプの大進撃が、今、ここから始まろうとしている。(前島耕)
クリープハイプ@渋谷クラブクアトロ

セットリスト

1. あの嫌いのうた
2. リグレット
3. SHE IS FINE
4. 左耳
5. 君の部屋
6. 1+1−1 (新曲)
7. 最夜
8. バブル、弾ける
9. ごめんなさい
10. 風にふかれて
11. 新曲
12. 新曲
13. 欠伸
14. 愛は
15. グレーマンのせいにする
16. 蜂蜜と風呂場
17. NE-TAXI
18. 新曲
19. ウワノソラ
20. HE IS MINE

アンコール
1. 色んな意味で優しく包んでくれますか?
2. 新曲

ダブルアンコール
1. イノチミジカシコイセヨオトメ
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