リンキン・パーク @ ハウス・オブ・ブルース

「これで、この曲はヴァージンじゃなくなったね」。新作『リヴィング・シングス』からのファースト・シングル、"バーン・イット・ダウン"を初めて披露した後、チェスターはこう言ってはにかんだ笑顔を見せた。この夜、この新曲はアンコールの一曲目で遂にプレイされたのだが、軽快なイントロが鳴り始めた瞬間、板張りの狭いフロアを埋め尽くした観客は爆発的な盛り上がりを見せた。チェスターの手拍子に合わせて、誰もが両手を高く挙げて手を叩き、それから飛び跳ね、サビでは大合唱が巻き起こった。そこにマイクのラップが切り込んで、その熱狂を更に煽る。リンキン・パークとファンとの新たな一体感を創出する曲が、ライヴで新たな命を吹き込まれた瞬間だった。

『リヴィング・シングス』完成後、初のライヴとなった今回のショウは、キャパシティ1400人、普段彼らがショウをやるアリーナの1/10の規模のスタンディングの会場で行われた。これはリンキン・パークのファンクラブ、LPUndergroundの会員のみにチケットを限定発売した特別公演で、彼ら主宰のチャリティ団体、ミュージック・フォー・リリーフの「POWER THE WORLD」というキャンペーンを支援するためのショウにもなっていた。それゆえチケットは100ドルと、この会場にしては高めの設定だったが、当然の如く即完売となった。チケットの値段も関係しているのか、観客の大半はバンドと同世代、30代の男女だ。

ショウは新作に収録されているインスト曲、"ティンフォイル"のイントロで幕を開け、"フェイント"に雪崩れ込んだ。頭からもの凄い勢いで全力疾走する彼らに、観客達も熱い熱狂で応じる。続いて"ペーパーカット"、"ウィズ・ユー"、"ラナウェイ"と、『ハイブリッド・セオリー』から三連発。これには驚かされた。"ウィズ・ユー"も"ラナウェイ"も、2作目の『メテオラ』のツアー以来、ライヴで聞いたことがない。一瞬、昔にトリップしたような錯覚を覚えたが、すぐ目の前の6人は明らかに成長していて、当時と同様に全身全霊をかけているパフォーマンスにも、肩の力が抜けた余裕と貫禄が感じられる。特にこの夜のチェスターは要所要所で華のあるアクションを見せてくれて、いつも以上に眩しかった。前半はアグレッシヴな曲で攻めた後、前作『ア・サウザンド・サンズ』から"ブラックアウト"を挟んで、"サムホエァ・アイ・ビロング"、"ニュー・ディヴァイド"と、メロディアスな曲にシフトしていき、大合唱と共に場内の一体感がますます高まって行く。その後は"リーヴ・アウト・オール・ザ・レスト/シャドウ・オブ・ザ・グレイ/イリディセント" と、3曲を見事に流れるように繋げたメドレーに"カタリスト"が続き、そして最後は"ホワット・アイヴ・ダン"、"クローリング"、"ワン・ステップ・クローサー"と、完璧とも言えるセットリストを経て一旦終了した。

そして「リンキン・パーク!」コールがしばらく続いた後でメンバーが再登場、先述の新曲へと繋がったのである。だがハイライトはこれだけではなかった。"イン・ジ・エンド"、"ナム"と続けて最後の盛り上がりも最高潮に達した所で始まった"ブリード・イット・アウト"。観客が一斉に飛び跳ねる中、間奏の部分で突然耳に覚えのあるギターのリフが刻まれた。ビースティ・ボーイズの"サボタージュ"! そう気づいた時には既にフロアが沸騰したように沸き上がっていて、チェスターが鬼気迫る勢いでラップを始め、場内の熱気と興奮を激しく揺さぶった。そして大歓声と大合唱の後は流れるように"ブリード・イット・アウト"に戻り、ショウは幕を閉じた。最高のトリビュート、そして最高のラストだった。最後に一列に並んで挨拶をした6人の顔は、本当に満足そうに輝いていた。ファンも誰もが興奮を隠しきれない様子で、彼らが去った後もしばらくステージを見ながら余韻に浸っていた。新作『リヴィング・シングス』を完成させ、再び新しいツアーに乗り出す直前の今だからこそ、こんなにも新鮮で圧倒的なエネルギーを放出するパフォーマンスを見せてくれたのかもしれない。だが現在のリンキンパークは、デビュー12年目にしてなお瑞々しさを感じるほどの強烈なエネルギーに溢れているのを肌で感じた。そして『リヴィング・シングス』は、まさにそのエネルギーを封じ込めた作品になっている。この新作のサイクルで、リンキンパークは更なる飛躍を遂げることだろう。(鈴木美穂)
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