彼らの印象はもちろん、彼らの音楽によって変化したものだ。「サーフィンに行こう!」をスローガンに当時のネオ・サーフ・ムーヴメント、ドリーム・ポップ・ムーヴメントの先頭を突っ走っていたのが、デビュー・アルバム『ザ・ドラムス』時代の彼らだった。対してドラムスのセカンド・アルバム『ポルタメント』とは、新進気鋭のバンドが2作目で往々にして突き当たることになる命題――つまり夢と現実のギャップがヴィヴィッドに反映された転機作だった。曲調は自ずとダークになり、現実逃避ともとれたドラムスの浮遊感マックスのドリーム・ポップはリアルな肌触りと重みを増していった。今回の来日はまさにそんな『ポルタメント』を経た今の彼らが克明に刻まれた内容だったと思う。
『ポルタメント』収録のナンバーの中でも軽妙な部類に入る“ホワット・ユー・ワー”、そこから『ザ・ドラムス』からの鉄板オープニング・ナンバー“ベスト・フレンド”へと繋がれたスターター、驚くのはバンドのグルーヴが楕円形になっていたことだ。『ザ・ドラムス』期の彼らのライヴはフェミニンなアルバムの印象と裏腹にパンキッシュな縦ノリが印象的なものだったが、今回のそれは明らかに横。寄せては返す波のような緩いグルーヴが徐々に場内を温めていく。
中盤のハイライトとなったのは“ハウ・イット・エンデッド”。ジョナサンは反復横とび、はたまた振り子のように横揺れしながら軽快なステップを刻み、軽妙からヘヴィへの転調を見事にきめるバンドの基礎体力といい、昂揚と憂鬱が絶妙にブレンドされた絶妙の表現力といい、ドラムスが『ポルタメント』で手に入れたもの、夢から醒めたドラムスの逞しさを象徴するかのナンバーだ。そこに『ポルタメント』の先行シングル“マネー”が畳みかけるように続き、フロアには瞬く間にポゴ・ダンスが巻き起こる。「カモン・ジャパン!」とオーディエンスを煽るジョナサンもずいぶん逞しくなっている(かつて壊れたテープみたいにひたすら「ありがとごじゃーます!」を繰り返していた人です)。
「サンキュー、サンキュー、サンキュー、サンキュー、本当にどうもありがとう。今日でぼくらのすごく長かったツアーが終わるんだよ。最後のステージをここ東京で迎えられたことが本当に嬉しいんだ。いつ来たって君たちは最高のオーディエンスだからさ」。そんなジョナサンの挨拶を境にして、ショウは一気に佳境に突入していく。じゃきじゃきとポスト・パンキッシュなアレンジが施され猛烈クールに進化していた“フォーエヴァー・アンド・エヴァー・アーメン”、団子状態で連打される内に大きなひとつのグルーヴを形成していく新曲群、そして本編ラストはもちろん“ザ・フューチャー”だ。かつての“ザ・フューチャー”は余韻を残して終わる、むしろ余韻が永遠に続くような切れ味の悪さこそが醍醐味だったし、それはなにひとつ保証されない「未来」のメタファーでもあった。しかし、今回の“ザ・フューチャー”はすぱっと終わった。完全燃焼した、と感じさせるエンディングだった。ふと我に返れば会場内は異様な熱気、異様な湿度。あちこちで汗をぬぐうファンの姿が見受けられる。
アンコールでは“レッツ・ゴー・サーフィン”もキメ、熱気と湿度がさらにヤバイことになったけれど、この日のショウを最も端的に象徴していたナンバーはやはり“ザ・フューチャー”だったと思う。「未来」について歌い、夢でなく現実の未来へとつなぐために、きっちりピリオドを打ってから前に進もうとする勇気、そんなドラムスのアティチュードを何より強く感じた一夜だった。(粉川しの)
2. What You Were
3. Best Friend
4. Me And The Moon
5. If He Like It Let Him Do It
6. Book Of Stories
7. How It Ended
8. Money
9. I Need Fun In My Life
10. I Need A Doctor
11. Forever And Ever Amen
12. Days
13. The Future
(encore)
14. Baby, That’s Not The Point
15. Let’s Go Surfing
16. Down By The Water