『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場

『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場
2008年より高橋幸宏がキュレーターを務め(初年度は信藤三雄との共同キュレーション)、今年で5年目の開催を迎えた屋外フェス=WORLD HAPPINESS 2012の模様をレポートしたい。開催直前の会場は雨に見舞われて芝生も湿り気を帯びていたものの、開演時間を迎える頃にはすっかり快晴。以後は終演まで好天に恵まれていた。ライヴ・パフォーマンスはCENTER STAGEとLEFT STAGEの2ステージ制で行われ、隣接した2つのステージが交互に稼働する。オーディエンスは基本的に、入場時に手渡される専用のレジャーシート(約70cm四方)でスペースを確保し、今回で言えば15組ものアクトすべてをのんびりと楽しむことができる。首都圏近郊からのアクセスが比較的容易なことや、1日の開催なので宿泊の心配も不要なこと、そして未就学児や小学生に配慮したチケットの料金体系など、家族連れの参加者が多いことにも頷けるような運営方針はワーハピならではのものと言えるだろう。

さて、今回の出演者15組は、出演順にEGO-WRAPPIN’、さかいゆう、ヒダカトオルとフェッドミュージック、坂本美雨、オリジナル・ラブ、kotringo+AOKI takamasa、THE BEATNIKS(高橋幸宏+鈴木慶一)、きゃりーぱみゅぱみゅ、KREVA、TOKYO No.1 SOUL SET、木村カエラ、Curly Giraffe、岡村靖幸、GRAPEVINE、YELLOW MAGIC ORCHESTRA+小山田圭吾+高田漣+権藤知彦という顔ぶれだ。トリのYMOに関しては、初年度はHASYMO名義とは言え、ワーハピ自体が「YMOを観ることの出来る場」として意識が浸透して来た側面もあるからか比較的長めの持ち時間となっていたが、それ以外の出演者に関してはCENTER STAGEは約30分、LEFT STAGEは約20分という、ややコンパクトな持ち時間の中で見せ場を作ってゆくパフォーマンスが面白かった。

『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場 - EGO-WRAPPINEGO-WRAPPIN
『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場 - さかいゆうさかいゆう
『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場 - ヒダカトオルとフェッドミュージックヒダカトオルとフェッドミュージック
『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場 - 坂本美雨坂本美雨
『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場 - オリジナル・ラブオリジナル・ラブ
EGO-WRAPPIN’がトロピカルなアレンジの“タイトゥン・アップ”孫カヴァーによってYMOをトリビュートしつつ屋外の夏フェス気分を高めてくれると、さかいゆうはバンドのサポート・メンバーよりも奥まったところから鍵盤プレイとソウルフルな歌唱で存在感をアピールする心憎いパフォーマンスを見せてくれる。ヒダカトオルとフェッドミュージックも、“君に、胸キュン。”を爽やかに1コーラスだけカヴァーしながら「AORの布教に失敗しました! 40代の皆さんすみません!」と冗談めかして笑いを誘ってくれていた。胸元に「NO NUKES, MORE LOVE」の文字を書き込んだ坂本美雨の歌は、表現のスタイルはまるで違うけれど、ニコニコと笑みを浮かべながら広大なフィールドに芯のある歌声を届ける姿がお母さん譲りなところがある。そして、照りつける太陽と真っ向勝負するかのように、汗まみれになりながらギターを掻き毟るオリジナル・ラブ/田島貴男の白熱プレイは“接吻”で大歓声を呼ぶのだった。

『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場 - kotringo+AOKI takamasakotringo+AOKI takamasa
『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場 - THE BEATNIKSTHE BEATNIKS
『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場 - きゃりーぱみゅぱみゅ    PHOTO:大木大輔きゃりーぱみゅぱみゅ PHOTO:大木大輔
個人的にこの日のハイライトのひとつだったkotringo+AOKI takamasa。青木の繊細さを併せ持つベース・ミュージック風エレクトロニック・トラックとコトリンゴのピアノ弾き語りのセッションだ。コトリンゴがソロ作品でカヴァーしていたビョーク“ハイパーバラッド”も秀逸な再構築ぶりを見せてくれていた。ぜひこの二人には作品を制作して欲しい。ワーハピ連続出場となったTHE BEATNIKSは、鋭利でガッチリとしたバンド・サウンドとユルユルのMCとの間を難なく行き来してしまう貫禄のプレイで、肩肘張らずに尖った表現を見せつけるオリジネイターの凄味があった。1日のうちで最も暑くなる時間帯が過ぎたところに登場したのはきゃりーぱみゅぱみゅ。このブッキングとタイムテーブルは神懸かり的に素晴らしかった。どちらかというと炎天下にお父さんお母さん世代が盛り上がっていたところ、ダンサーを交えたきゃりー登場&“CANDY CANDY”MVダンス再現パフォーマンスに「かわいー!!」とチビっこたち大喜び。大人たちも大喜び。ちょっと本気で感動する光景だった。

『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場 - KREVAKREVA
『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場 - TOKYO No.1 SOUL SETTOKYO No.1 SOUL SET
『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場 - 木村カエラ木村カエラ
KREVAは、新曲“Na Na Na”でオーディエンスをシンガロングに巻き込み、「いろいろ考えたんだけど、驚いたことに今日やりたい曲は、俺の曲じゃなかったぜ」と坂本美雨の新作で参加したナンバー“I’m yours”で本人を呼び込み共演。なおかつ“C’mon, Let’s go”の2コーラス目をアカペラで叩き付けてヒップホップMCの底意地を見せつけた。なんかこの曲は、MVとか今のライヴ・テイクが完成形みたいになっている。続くTOKYO No.1 SOUL SETも近年のカチ上げナンバーを配した賑々しいダンス・セットで、BIKKEは「みんな、大丈夫かー!?」と叫んでいたが、それはこっちが訊きたい。“マミレル”を皮切りにロックな顔を覗かせていた木村カエラだったが、タイトル未定の新曲とダメ押しの“Butterfly”に美曲サイドが映えるステージングは見事だった。

『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場 - GRAPEVINEGRAPEVINE
涼しくなった時間帯にCurly Giraffeが描き出す、余りにも美しいオルタナ・ポップの領域を経て、やたら人気者のスーパースター・岡村靖幸へ。セット・リストは復活後のフェス仕様濃縮版といったところだが、「あのね、YMOベイベとWORLD HAPPINESSベイベに伝えたいことがあります。えーとね、外だから言いづらいんだけど……Let’s Go!!」とキレッキレのダンスがスパークする岡村ちゃんであった。トリ前に登場したメジャー・デビュー15周年のGRAPEVINEは、短い時間ながら“光について”、“スロウ”、“風待ち”、“真昼の子供たち”と珠玉の美曲連打。ある意味すごい贅沢。演奏も盤石そのものだった。

『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場 - YELLOW MAGIC ORCHESTRA+小山田圭吾+高田漣+権藤知彦    PHOTO:大木大輔YELLOW MAGIC ORCHESTRA+小山田圭吾+高田漣+権藤知彦 PHOTO:大木大輔
というわけで、いよいよトリのYELLOW MAGIC ORCHESTRA+小山田圭吾+高田漣+権藤知彦。今回は事前に演奏予定曲が伝えられるニュースもあったりして、そんなのありかよとびっくりさせられたのだが、それでもきっちりと楽しませるという自信がありありと伝わるパフォーマンスだったのは間違いない。“コンピューター・ゲーム“インベーダーのテーマ””のオープニングSEに、スクリーン上では「Y」型の戦闘機が迫り来る「M」型と「O」型の戦闘機を迎え撃つというCGのゲーム画面が映し出され、「PRESS BUTTON START FIRE CRACKER」の文字が踊る。その通り“ファイアークラッカー”に始まり、“ライディーン”ではステージ上の映像がリアルタイムに3Dポリゴンとしてトレースされてゆく映像効果も加えられていった。

今回のワーハピでは、今年6月に還暦を迎えた高橋幸宏を祝うムードも立ち込めていた(それによってYMOメンバー3人は全員が60歳以上となった)のだが、そのユキヒロさんがソリッドにして正確極まりないドラムを叩きながら歌う“ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー”から沖縄風のフレーズが跳ねる“アブソリュート・エゴ・ダンス”へ。ビニールシートの上で「半畳で踊る」ってやつだ。ミニマルなバンド・サウンドからグルーヴが立ち上がってくる。そしてじっくりとスケール感が広がる、細野晴臣リード・ヴォーカルの“灰色の段階”へ。キャリア初期曲のナンバーが多かった今回のセットの中で、『テクノデリック』以降のナンバーはこの曲のみ。

主旋律が、権藤のユーフォニアムや、まるでシンセ音のように響く小山田のギターの玄妙なボトルネック・スライドに委ねられたりもするアレンジはこの編成ならではのものだが、それでも楽曲はYMOでしかないという、この感触。もったいぶることなくスパッと始まりスパッと鳴り止むクールネスのカッコ良さの中に。全員が涼しい顔をして信じ難い正確さで演奏してゆく説得力の中に。それは受け止められる。“中国女”を経て“コズミック・サーフィン”の鍵盤を奏でる坂本龍一の傍らには、YMOフラッグがはためいていた。華やかなコーラス・ワークが彩る“ナイス・エイジ”は、実に32年ぶりとなる演奏なのだそうだ。そして本編は“東風”で幕となり、ステージの淵からは花火が吹き上がる。

『WORLD HAPPINESS 2012』@夢の島公園陸上競技場
アンコールで披露されるのは、かつて『スネークマンショー』のアルバムに提供された“磁性紀 – 開け心”が、こんなにも力強いドライヴ感を備えたナンバーだったのか、というプレイで響き渡る。そして今回、多くの人が待ち望んでいたはずの、散開コンサート以来の披露となるYMOデビュー・シングル曲“テクノポリス”。他の楽曲がそうであるようにこの曲も、清々しいぐらいに軽やかに、素晴らしいサウンドで届けられ、そしてステージは本当に幕を閉じた。フィールドからは真に盛大な拍手が、贈られていた。

今回のワーハピでは、逆さまの温泉マークをモチーフにしたような細野さんによるロゴ・マークがデザインされていたが、会場で配布されていた団扇には、3人の、浴衣に茶羽織姿のアーティスト写真が使われていて、どこの親分ですかみたいなホソノさんの表情が最高なので、しばらく愛用したいと思う。坂本さん、ユキヒロさん、改めて還暦おめでとうございます。これからも元気に活動を続けてください。(小池宏和)
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