Suck a Stew Dry@新代田FEVER

「ラブレスレターリリースツアー 2012」 ツアーファイナルワンマンライブ [with Love]

Suck a Stew Dry@新代田FEVER - photo by Kazuki Sanophoto by Kazuki Sano
10月にセカンド・ミニ・アルバム『ラブレスレター』をリリースしての、全国8本のツアー・ファイナル公演にして約半年ぶりのワンマンライヴ。しかしながら、この日を以ってベーシストのモウリスグルが脱退することも発表されており、開演前から期待と無念の気持ちが入り混じる独特の雰囲気の場内だった。チケットはソールドアウトを記録しており、開演時刻が近づき人が増えていくにつれ、そのムードも着実に増大していく。ほとんどの人が押し黙っており、静かにそして真摯に今日の彼等の姿を見届けようと全身を耳に目にして待機している…そんな儀式のような一夜だったが、もちろん彼等は彼等らしさを発揮することで、見事にオーディエンスの気持ちに応え倒していた。

インダストリアルなノイズの混じったSEに乗って登場した彼等。5人がバランバランに現れるも、それぞれが深々と客席にお辞儀する様子は、やはり今日のライヴがいかに重大なものかを物語る。何より、オーディエンスの返す声も歓声というよりは激励のシュプレヒコールのようなそれで、惜しみない拍手とともに、このメンバーによる最後の姿を最高のものとし、そして今後の彼等を応援していこうとする意志を見せ付けていく。

そんな中、「Suck a Stew Dry、始めます」というシノヤマコウセイの静かな一言に続いて1曲目に登場したのは、重い3拍子のリズムにのって日常のやるせなさを歌った“二時二分”。登場の瞬間を爆発力で支配するのではなく、まずはじっくりとバンドの何たるかを確認していく楽曲で始めるところはこのバンドの本懐で、シノヤマの声も「アイデンティティの争奪戦 結局誰もがフォロワー」「脱力感 武器にして笑う」など、思いつめたような表情も相俟って、この日は一言一言が生々しすぎるくらいにリアルだった。

しかし、そんな歌詞が決して重いばかりではないメロディやリズムに乗って奏でられるところも、彼等の面白さなわけで、続いて登場した2曲目“ドライフラワー”そして“Payment”といった楽曲では、軽快なリズムでライヴハウスらしい空気感を徐々に作っていく。もっとも、歌のテーマは自己完結であり滞っている支払いであり、どこまでも現実のシビアさに向かい合っていくものなのだが、シノヤマのよく通る声色も含めて聞いていると、それは決して自虐的なものではないことも自然と分かってくる。世の中、わからないことばかりなのが当り前で、だったらわからないなりに自らの力と判断で世界とこんがらがってやろうじゃないか!とする気概がそこかしこに漂っており、掛け声だけのロックや娯楽を拒否する姿勢が強い意志によって貫かれていることは冒頭数曲で痛いくらいに伝わってくる。

演奏する各メンバーも派手なアクションやフレンドリーなMCなどとは基本的に無縁ながら、シノヤマの歌う歪んだ風景や心象を音像化するべく、緩急の効いたサウンドでフォローアップしてくるミュージシャンシップがいい。時にいびつ、しかし時によく調和したアンサンブルで、バンドが一丸となった時の頼もしさを存分に感じさせてくれるのも彼等の持ち味。二人のギタリスト、フセタツアキとハジオキクチはテンションの効いたコードを自由に絡ませることで演奏に奥行きを与え、金髪を振り乱すなどビジュアル的に唯一派手なべーシスト・モウリスグルはステージ奥の立ち位置からグルーヴたっぷりのフレーズを繰り出し、そしてドラマーのイタバシヒロチカは既に中盤くらいでシャツを脱いでしまい、上半身裸で一心不乱にビートを刻み続けるなど、それぞれがそれぞれの方法でシノヤマの作る楽曲に貢献している姿が美しい。

ところどころ入るMCも、シノヤマはチューニングのほうが大事といわんばかりで、ほとんど言葉数も少なく、つぶやくように話すだけなのだが、それだけにオーディエンスも彼の一言一言を聞き逃すまいと、俄然真剣な面持ちになってくるのも彼等ならでは。「前回のツアーで辛い時に書いた曲で…」と簡潔な説明とともに「どうせ叶わないことばかりだ」と歌い出す“Normalism”になだれ込んでいったり、ツイッターでのやりとりに陰鬱になったところで改めて決意表明を思い出した話から「嘘は思ったようには浮かばない」と歌う“毒ガスと花束”へ繋げていくなど、どのMCも簡潔ながら曲へのきちんとした前振りになっていて、こういう律儀さもシノヤマらしいところ。感情に任せて突っ走るのではなく、ライヴをひとつのストーリーと捉えて、あくまでも綺麗なメロディーと声、そしてバンドらしいダイナミズム、そしてメニューにきちんとリンクしたMCで、リスナーの気持ちに寄り添うように一歩一歩彼等の何たるかを浸透させていく巧みさが、考えに考え抜かれていることも充分に伝わってくるライヴだった。

ラストに向かって盛り上がっていく、という定番のライヴ進行ではもちろんなく、そんな流れで最後までバンドもオーディエンスもしっかりと音楽に向かい合う場として機能した約1時間半。そんな充足感に満たされた場内だけに、本編終了後のアンコールを求める拍手は、ライヴ中に張り詰めていた緊張感とは打って変わって盛大なものとなる。すると、まずはシノヤマが一人で生ギターを持って登場し「残念ながらひとりです」と前置きし“ヒーロー”を歌うも、もちろんオーディエンスはさらなるアンコールを求めることに。結局、もう一回全員で登場し、彼等のテーマ曲のひとつである「遺失物取扱所 心はそこにありますか?」と歌う“遺失物取扱所”を披露し、最後はツアーファイナルらしい光景を見せライヴは幕となった。

そういえば、モウリスグルがこの日を以って脱退することに、ステージ上では最後の最後まで言及しなかったところも彼等らしかった。それでも終演間際にシノヤマがステージ奥のモウリの腕を掴んでステージ前方に引きずり出し、それを受けてモウリが一言だけ「ありがとうございます」と告げてすぐにステージを後にしたところも、感情の波に飲まれまいとする彼等らしい流儀だったと思う。バンドは今後も同じ編成で活動を続行することを発表しており、さらなる飛躍を期待して止まない。(小池清彦)

<セットリスト>
1.二時二分
2.ドライフラワー
3.Payment
4.ひとりごと
5.Thursday's youth
6.人間遊び
7.Proletarier
8.Apathy
9.SaSD[eve]
10.Normalism
11.距離感の部屋
12.ないものねだり
13.雨 -Interlude-
14.傘
15.em
16.花 -Introduction-
17.毒ガスと花束

en1
18.ヒーロー (シノヤマコウセイ弾き語り)

en2
19.遺失物取扱所
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