ミューズにとって2010年以来3年ぶりとなった今回の来日公演は、彼らの最新作『ザ・セカンド・ロウ~熱力学第二法則』がダイレクトに伝えたミューズの新章を初めて目の当たりにする機会だった。新章と簡単には言ったものの、そのインパクトは正直生半可なものではなかった。『ザ・セカンド・ロウ』はミューズ史上最多のバラエティを誇るミューズ史上最もアンチ・ギターなアルバムであり、つまりはミューズのシグネチャー・サウンドと呼ぶべきヘヴィ&ドラマティック・ギターの定型を突き崩した問題作とも呼ぶべき傑作だったからだ。エレクトロあり、ディスコ、ファンク、ダブステップありの本作が果たして「ライヴ」というミューズらしさを最もダイレクトに結晶化した場においてどんな化学反応を起こすのか。世界最強のライヴ・バンドと謳われる彼らの真価は、彼らを最強のライヴ・バンドたらしめてきた武器=ギター「以外」でも証明しうるものなのか――その答えを示したのが今回のさいたまスーパーアリーナ公演だったと言っていい。
そんな今回のミューズのさいたま公演のサポート・アクトを務めたのは[Champagne]。アークティック・モンキーズと共振するハード・エッジかつ王道ブリティッシュな香りが立ち上るギター・ロックをやる彼らだが、その端々にまるで初期のアット・ザ・ドライヴ・インを彷彿させる、つまりは王道なギターの中にフリークネスの「予兆」を飼っているかのような不穏が見え隠れするのが面白い。本人達はMCでも今日のステージがアウェイであることを認めた上でなお得難い経験が出来たと感謝を述べていたけれど、たしかに[Champagne]のサウンドはミューズとは全く似ていない。しかし純粋に全く別物として彼らの音楽を発見し、刺激を受けたミューズのファンも多かったんじゃないかと思う。
そして19時ジャストに場内は暗転、大歓声の中で“The Second Law: Unsustainable”の物々しいイントロが轟き、ついに3年ぶりのミューズのステージがスタートする。真っ赤なライトがめまぐるしく交錯するミューズらしい荘厳な幕開けで、徐々に光量が増していくステージにその全貌が浮かび上がる。せり出したセンター・ステージ、そして上手下手にもそれぞれお立ち台のような一段上がったマシューとクリス用のプレイ・エリアがある。ドムの背後には中規模のスクリーンが5枚設置され、そこに様々な種類の映像や色彩が映し出されていくことになる。そしてライトが赤から青へと移り変わったところでこれまた優美に“Supremacy”が始まる。ここまでは緩やかな序章だったが、3曲目の“Map Of The Problematique”で一気に着火し、左右のプレイピットでマシューのギターとクリスのベースがマックスの音圧を弾き出す。場内は大歓声、Oiコールと共にミューズの破天荒なドラマの始まりを迎え撃っていく。
そう、ここまでは私達が今まで何度も体験していきたミューズのライヴ、ミューズの典型的なドラマツルギーだったわけだが、続く“Panic Station”が早くも『ザ・セカンド・ロウ』がもたらした彼らの新章を告げる。天井からは逆ピラミッド形の巨大な照明システムがしずしずと降りてきて度肝を抜かれるが、その巨大逆ピラミッド型照明に猿のような生き物がファンキーなステップを踏んでいる映像が映し出され、さらにびっくりする。それは間違い無くこれまでのミューズのショウでは観たことのないポップなコンセプトであり、鳴っているのも間違いなく今までのミューズのショウでは聴いたことのない弩級のファンクネス、そしてグルーヴだ。しかし一転“Resistance”と“Supermassive Black Hole”はダークで欧州的なメロディ~激音圧のヘヴィ・ロック・チューンと、再びおなじみのミューズ・サウンドがためらい無く炸裂する。
が、そこからまた一転、“Animals”はレディオヘッドもかくやなブレイクビーツ、エレクトロのナンバーで、“Supermassive~”からの落差はとんでもないことになっている。がしかし、またまた後半の転調ではエレクトロの静謐をぶち破ってマシューのギターが炸裂し、その勢いのまま前半のクライマックス・ナンバーたる“Knights Of Cydonia”へ。クリスのブルースハープのイントロ段階からメロディを「ナナナナナ~!」で合唱してしまうオーディエンスの盛り上がりも最高潮、マシューも思わず曲間で「イエェアアアア!!!」と絶叫だ。
ここまでで気づいたのは、ミューズのいわゆるシグネチャー・サウンドと呼ぶべきギター・メインのナンバーと、『セカンド・ロウ』で示されたアンチ・ギターなナンバーが交互に顔を出しているということだった。この「交互」というのがミソで、それは表面的な落差と同時にギターの増減とは別次元でミューズが一貫したドラマツルギーを描き続けていることも証明するものになっていた。手段は違っても答えは同じとでも言うべきか、ミューズのサウンドの本質はギターのヘヴィネスとはイコールではなかったということが、この交互の振り子構造によって明らかになっていった。そう、世界最強のライヴ・バンドと謳われる彼らの真価は、彼らを最強のライヴ・バンドたらしめてきた武器=ギター「以外」でも証明しうるものなのか――そんな冒頭の問いかけの答えは、「YES」に他ならなかったのだ。
“Explorers”、“Exogenesis: Symphony, Part3: Redemption”はマシューがグランドピアノを弾きながら歌う美し過ぎるバラッドナンバーで、“Exogenesis: Symphony, Part3: Redemption”では頭上の巨大逆ピラミッド形照明に例の鉄拳のパラパラ漫画が映し出される。まるで哀しみの涙を誘うサイレント・ムービーを観ているかのような時間だ。 “Time Is Running Out”はもちろんミューズ印のド定番アンセム、マシューはBメロを完全にオーディエンスに投げ出し、オーディエンスも完全な合唱で返す。そして続く“Liquid State”はクリス作クリス・ヴォーカルの意義深いナンバーで、クリスがセンターステージのせり出し部分で熱唱し、その横でマシューがステージに膝をついて楽しそうにギターをメタル弾きを繰り出しているという、極めて珍しい光景が広がる。そしてこの日最も異端なナンバーだったと言っていい“Madness”へ。ネオンカラーのセクシュアルな照明が場内の空気ゆったりと混ぜるのに併せて延々ループする「Madness」のコーラス、そのお経のようなモノトーンの旋律に唐突に差し込まれる間奏のギター、シンプルなマシューのギター・ソロがめちゃくちゃ格好いい!!!! こういう1曲の中での劇的展開はミューズが得意とするところだけど、これまでの展開が右から左への二次元展開だったとしたら、この“Madness”は右奥下から左手前上に広がるかのような三次元展開を見せてくれた。
「ドウモアリガトー! トキオサイコー!」とマシューは感極まった声で叫ぶ。ギターを置きハンドマイクで歌う“Follow Me”、そして“Undisclosed Desires”ではドムもエレクトロパッドを叩き始め、生音はクリスのベースのみという完全にギター・ロックから解脱したフォーマットに到達する。ハンドマイクのマシューは客席に飛び降り、前方ブロックの花道をファンとハイタッチしながらずんずん突き進み、アリーナ中腹の通路まで到達、そして後方ブロック最前のファンとも片っ端からハイタッチしていく。その移動距離はアリーナのほぼ3分の2周程度に匹敵する。いわゆるファンサービス・タイムなわけだけど、恐ろしく過剰なサービスでこれもまたミューズらしいなぁと笑ってしまった。
クライマックスは満を持しての“Plug In Baby”、そして本編ラストの“Stockholm Syndrome”では巨大逆ピラミッド型照明が、今度は巨大ピラミッド型に変形してステージに降りてくる!なんじゃこりゃ!そしてドムとドラムセットはそのピラミッドの中にすっぽり入ってしまう格好になり、本編が終了する。そしてアンコールは全3曲、ピラミッドが再び頭上に上がり、マシュー、クリス、ドムの3人が揃ったところでフィナーレへ。ステージの縁部分から凄まじい蒸気が幾本も立ち上り、もくもくの白煙に包まれてのド派手なラストの光景となった。たしかにミューズのサウンドは変わり、拡大した。しかし、そのサウンドの変化と拡大を飲み込んで余りあるほどに、ミューズとは相変わらず凄まじく破天荒な最強ライヴ・バンドだった。(粉川しの)
The Second Law: Unsustainable
Supremacy
Map Of The Problematique
Panic Station
Resitstance
Supermassive Black Hole
Animals
Knights Of Cydonia
Monty Jam
Explorers
Exogenesis: Symphony, Part3: Redemption
Time Is Running Out
Liquid State
Madness
Follow Me
Undisclosed Desires
Plug In Baby
Stockholm Syndrome
(encore1)
Uprising
(encore2)
Starlight
Survival