ウィルコ @ Zepp DiverCity

ウィルコ @ Zepp DiverCity - pic by KAZUMICHI KOKEIpic by KAZUMICHI KOKEI
圧巻のライヴだった。最高の楽曲と最高の演奏力、そして何よりも音楽の喜びに満ち溢れた、最高の一夜だった。改めて自分のライヴ中のメモを見返しているのだけれど、「最高!」とか「くる!」とか「うわー!」とか「ギター!」とかしか記入されていなくてほとんど役に立たないので、脳内の熱い余韻を掘り起こしながら振り返ってみたいと思う。

まずはざっくりしたショウの構成についてだが、“Less Than You Think”から前半の数曲はエクスペリメンタルな展開の妙で聞かせる攻めの楽曲が並ぶ、言わば「アヴァンギャルド・ウィルコ」のセクションだった。特にエンディングに向かってド前衛なポスト・ロックを繰り広げていく“Art Of Almost”や、ブルーズから始まり緻密プログレッシヴなアンサンブルを構築していく“I Might”といった最新作『ザ・ホール・ラヴ』からのナンバーが素晴らしく、ウィルコの音楽の変わりゆく進化の部分をまずは一気に聞かせていく内容だ。

ウィルコのアヴァンギャルドが素晴らしいのは、アヴァンギャルドであること自体を目的化したものではなく、もともとのアルバム音源をさらに面白く、饒舌に膨らませる調理である点で、楽曲の根っこが揺るぎなくクラシカルだからこそ、彼らのライヴでの大胆なアレンジは生きてくる。アメリカン・ロックの重厚な王道をいく一方でオルタナティヴ・ロックの柔軟な先端をも担っている、そんなウィルコというバンドの2面性を改めて証明するパフォーマンスだ。特に凄かったのがネルス・クラインの変化しまくるギターが楽曲の物語そのものを象った“Impossible Germany”だろうか。

そして再びアコギに持ち替えて始まった“Radio Cure”以降の中盤は、フォーキーでカントリー・ライクな楽曲が並ぶ、言わば「ビューティフル・ウィルコ」のセクションだ。ウィルコの楽曲の根っこの揺るぎなきクラシックを深く掘り下げていく静謐なナンバーが並び、思わずうっとり聴きいってしまう。前半では6人のメンバーが互いの力量を試し合うように火花散らしていたアンサンブルだが、ここではジェフの歌の一点に向かって6人の演奏が収束していく。硬軟緩急自在、本当にすごいバンドだ。“Sky Blue Sky”ではペダル・スティールの幽玄の響きが歌を包んでいく。「古い曲をやるよ!」とジェフが言って始まったのは“Say You Miss Me”、そして“I Must Be High”。ウィルコが「オルタナ・カントリー」と言われていた時代を彷彿させるナンバー達で、クラシック中のクラシック、ショウが始まって1時間強にしてウィルコの原点に近付いた瞬間だった。

あまりにもあっさりと彼らは演奏してしまうから、こちらも思わず当たり前のように享受してしまうけれど、客観的に聴けばジェフ・トゥイーディーの書く楽曲の幅は恐ろしいほど広いし、深いし、複雑だ。そんな彼の楽曲のすべてを余すことなく伝えるこのバンドは、たんなる優秀なプレイヤーの集団ではなく、ジェフに匹敵する表現者の集まりでもある。ひとりの頭脳たるソングライターとその手足ではなく、6人が6人共に音楽を「創る」者であり、ひとつのイデアを共有していること、それがウィルコというバンドの、彼らのライヴの凄さなのだとつくづく思い知らされる。私はアルバムよりもライヴのほうがさらにウィルコの音楽が魅力的だと感じるが、それはジェフ・トゥイーディーという天才の所業としてのアルバムよりもウィルコという天才達のマッチングとしてのライヴのほうが、ウィルこの奇跡をより強く感じることができるからかもしれない。

会場を埋め尽くしたオーディエンスも最高だった。これはウィルコのライヴならではだなぁ……と思ったのは、オーディエンスのどよめきがおきるタイミング、歓声がわき上がるタイミングが所謂ロックのライヴのわかりやすい予定調和とはかけ離れていた点だ。曲間の何気ないアドリヴや、はっとさせられる音の重なりの美しさ、一音一音を聴きのがすまいと前のめりで聴いている人達だからこその気づきの連続が、ショウに豊かな起伏を添えていく。ジェフも「本当に本当にありがとう」を繰り返しながら、「今日のお客さんは最高すぎるね。僕らと一緒にライヴ回ってほしいくらいだよ」と驚いていた。

そしてラスト、“Theologians”以降の後半は言わば「メロディアス・ウィルコ」の傑作が出し惜しみなしでガンガン連打されていく。前半のエッジ、中盤の美しさ、それらをもまるっと内包して跳ね進み、もうここまでくると「幸せ」、その一言につきる。ウィルコが好きでよかった、彼らの音楽が好きでよかったと、何百回目かの噛みしめる瞬間である。ネルスがダブル・ネックの12弦ギターをかき鳴らした“Dawned On Me”、オーディエンスとのコール&レスポンスもばっちりきまった“A Shot In The Arm”、そしてジェフがギターを置き、スタンドマイクで朗々と歌い上げた“Hummingbird”とまさに名曲アンセムぞろいのフィナーレだ。

アンコールまで含めて全22曲。2時間強。それが最高の音楽体験たることを保証します。今日の渋谷AXでの追加公演はまだ若干のチケットがあるようです。ぜひともウィルコと共に最高の週末にしてください。(粉川しの)

4月12日 ZEPP DIVER CITY TOKYO
01 - Less Than You Think
02 - Art of Almost
03 - I Might
04 - One Wing
05 - Sunken Treasure
06 - Spiders (Kidsmoke)
07 - Impossible Germany
08 - Born Alone
09 - Radio Cure
10 - Sky Blue Sky
11 - Say You Miss Me
12 - I Must Be High
13 - Whole Love
14 - Theologians
15 - Heavy Metal Drummer
16 - Dawned On Me
17 - A Shot in the Arm
18 - Hummingbird
Encore:
19 - California Stars
20 - The Late Greats
21 - I'm the Man Who Loves You
22 - Monday
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