椎名林檎 @ Bunkamura オーチャードホール

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夢のような時間でありながら、「やばい、置いていかれる」というようなスリリングな焦燥感を駆り立てられるステージでもあった。11月18日から渋谷のオーチャードホールにて、全5公演が行われてきた『椎名林檎十五周年 党大会 平成二十五年神山町大会』のファイナル。ソロのライヴとしてはデビュー十周年の『(生)林檎博’08』以来実に5年ぶりであり、林檎自身が何度も「皆さんにお会いできて嬉しいです」と言葉にしていたことや、パフォーマンス内容のプレミアム感(特に演奏のクオリティにおいて)が相まって、彼女の存在の大きさを改めて知らしめるステージであった。

椎名林檎 @ Bunkamura オーチャードホール
ステージの幕が開くと同時に、前日に35歳の誕生日を迎えた椎名林檎が、王冠と華やかなドレスを身に纏い、すすっと優雅な足取りでステージ中央に進み出る。ピアノ×アコーディオンという編成の演奏をバックに、歌われるのは“都合のいい身体”だ。余りにも上質で劇的なパフォーマンスが、余りにも唐突にスタートしたので、観ていてちょっと慌ててしまった。そしてステージ下手のピアノの前に腰掛け、振り向きながら右腕を掲げて挨拶する林檎。「皆様、党大会へようこそ! いつもは皆さんにビリビリして頂きたくて、エレキな楽器を使ってきたんですけれど、今日はオーチャードですので、選りすぐりの首席奏者と共に、生楽器で、いつもより深ぁいところでビリビリして頂きたいと思います。どうぞ自由に、座って頂いても結構ですし、自由にお楽しみください……オーチャードって、どういう意味かご存知ですか? あ、良くご存知ですねえ! 学がある。私は昨日、ピアノの方に教えて頂いて初めて知りました(笑)……ピッタリですよね? 〈果樹園〉です。よろしくお願いします」。そう楽しそうに語り、まだ緊張感の残っていたホール内を一気に、親密な空気で満たしてしまった。

椎名林檎 @ Bunkamura オーチャードホール
斎藤ネコらストリングス隊を迎え入れ、林檎自らはピアノを奏でつつ歌う“IT WAS YOU”。その後にはハッとさせられるようなハープの音色が響く英語詞ヴァージョンの“カーネーション”と、高品質ストリングス・アレンジの映えるナンバーが披露されてゆく。このスペシャルなアンプラグド・ライヴの深みへと潜行する“カリソメ乙女”では、原曲のタイムレスな強靭さと、アレンジ/生演奏における一期一会の音楽表現の魅力が同時に溢れ出すようだった。そしてメロウなジャズで繰り出される“MY FOOLISH HEART”で柔らかいタッチのビートを刻むのは、林檎を招く形でオリジナル・ヴァージョンを手掛けたSOIL&”PIMP”SESSIONSからドラマーのみどりんである。更にはウィスパリング・ヴォーカルの《云ったでしょ?「俺を殺して」》が演奏に溶ける“浴室”、このアンプラグド編成でまさかの“熱愛発覚中”と、驚けば良いのか酔いしれれば良いのか、贅沢な悩みに苛まれる時間が続く。

椎名林檎 @ Bunkamura オーチャードホール
背景のスクリーンには、林檎自身を筆頭にカルテという形で出演者が紹介され、それぞれにオーディエンスの拍手が巻き起こる。斎藤ネコ(Violin)、グレート栄田(Violin)、山田雄司(Viola)、藤森亮一(Cello)、佐藤芳明(Accordion/鍵盤ハーモニカ)、みどりん(Drums)、鳥越啓介(Contrabass)、朝川朋之(Harp)、林正樹(Piano)という、マエストロ揃いの顔ぶれだ。林檎作品の数々に携わってきた名前も多く目に付く。そして林檎が一度ステージから捌けている間には、『噂の真相』と題されたラジオ番組風のトーク・コーナーが繰り広げられる。ユーモラスにネタも交えて笑いを誘いながら、「極秘出産説」については女児を授かったことを改めて報告し、「赤ちゃんのリリースとシングルのリリースがバッティングしていたため、新しい命をあたかも宣伝のように使うのは嫌でした。それよりも、皆さんに直接お会いしてお伝えしたかった」という言葉が暖かい拍手を呼ぶ。

椎名林檎 @ Bunkamura オーチャードホール
「人生、辛かったりしょっぱかったり。だからこそ、ときに甘く感じられるのでしょうか? この党大会は、何党大会なのでしょう。『甘党大会』です!」という宣言と共に、純白の愛らしい衣装にお色直しした林檎が姿を見せて“二人ぼっち時間”へと向かっていった。“色恋沙汰”では、夕暮れの都市や大海原を駆け抜ける美しい映像とアップリフティングなスウィング感が手を取り合う。バンドがフル稼働でドラマティックな高揚感を形作る“いろはにほへと”では、ガーリーかつコケティッシュなヴォーカルが映えるなど、何とも華やかな展開だ。栗山千明に提供した“おいしい季節”のセルフ・カヴァーを経ると、静謐なオープニングから壮大に盛り上がってゆく“旬”へ。アダルトな高級感だけではない、人生の深さ広さ、音楽の深さ広さに手を延ばすような、椎名林檎の表現者としてのひたむきさが表れたパフォーマンスだ。

椎名林檎 @ Bunkamura オーチャードホール
“女の子は誰でも”を披露すると再び『噂の真相』コーナーで、会場が大きすぎるとアーティストが豆粒に見え、会場が小さすぎるとチケットが取れない、といった会場手配の苦労が、こちらもユーモラスに伝えられる。アニヴァーサリーの、しかも久々のライヴとなれば、もちろん椎名林檎のロックを思い切りフィジカルに堪能したいという声もあるだろう。思い悩んだ末に、彼女はこのオーチャードホールで、今の表現者としての意欲もたっぷり込めて、この洗練された驚きをもたらすライヴを企画したはずだ。“孤独のあかつき”の後、ヘッドスカーフに大ぶりのサングラス、真っ赤なスカートにハイヒールというレトロな南仏スタイルで、ジプシー・スウィングなアレンジの“都会のマナー”(ともさかりえへの提供曲)をエモーショナルに歌い上げる椎名林檎は、まさに表現意欲の塊のようだった。

椎名林檎 @ Bunkamura オーチャードホール
更には新曲“今 (Present)”から、気怠いジャズ・ボッサ風アレンジの“月夜の肖像”セルフ・カヴァーにかけて、まるで映画の中から抜け出てきたような濃厚なムードを練り上げる。壮麗なバンド・サウンドを強靭な歌メロが牽引するような“罪と罰”は、言葉本来の意味での「リード・ヴォーカル」とはこういうものなのではないか、と思うほどであった。そしてオーディエンスと共にアーティスト・グッズの旗を振りながらの“密偵物語”、アコーディオンの音色が新鮮な情感を持ち込む“殺し屋危機一髪”とクライマックスに向かい、「ご清聴ありがとうございました。お会いできて嬉しかったです。最後の一曲、お聴きください」と、どこまでも味わい深いジャズ・ヴォーカルが余韻を残す“茎 (STEM)”で本編を締め括るのだった。

椎名林檎 @ Bunkamura オーチャードホール
アンコールは、ピアノ、コントラバス、ドラムス、そして鍵盤ハーモニカがあのイントロ・フレーズをたなびかせるという編成で、“丸の内サディスティック”だ。日本語と英語が入り混じった、“EXPO Ver.”に近い歌詞で届けられる。丁寧に頭を下げて挨拶した林檎は、最後の最後に、ピアノの伴奏が寄り添う形で“幸先坂”(真木よう子に提供したナンバー)を歌った。《人はいつも坂の途中期待を抱え上がり下がり/生きている/夜と昼涙に濡れても/今日は何かいいことがありそう》。まさにデビュー十五周年に、ファンと共に、その《今日は何かいいことがありそう》を捕まえにいくためのライヴだったように思える。なお、11/28及び29には、ファンクラブ会員限定ライヴ『椎名林檎十五周年 班大会 平成二十五年浜離宮大会』が行われるが、その29日の模様は、全国80以上の映画館でライブビューイング公開される予定だ。(小池宏和)

セットリスト
01.都合のいい身体
02.IT WAS YOU
03.カーネーション
04.カリソメ乙女
05.MY FOOLISH HEART
06.浴室
07.熱愛発覚中
08.二人ぼっち時間
09.色恋沙汰
10.いろはにほへと
11.おいしい季節
12.旬
13.女の子は誰でも
14.孤独のあかつき
15.都会のマナー
16.今(Present)※新曲
17.月夜の肖像
18.罪と罰
19.密偵物語
20.殺し屋危機一髪
21.茎
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