「今日は『オーケン・エディの楽屋はどっちだ?』っていうことで大変なんですけども。いちばん気になるのは、オーケン・エディはギャラが倍出るのか?っていうことで。エディ、どうだ?」という大槻ケンヂの言葉に、「あのね、2つバンド分出るんだよ。俺は、それじゃなんか悪いなと思って。筋少の時の服を買ったんだけど。リハ・本番分全部使っちゃった!(笑)」と返すエディこと三柴理に、満場の赤坂BLITZがどっと沸き返る——1999年、大槻ケンヂの脱退により筋肉少女帯が活動を凍結。大槻が三柴理、内田雄一郎に加えNARASAKI(COALTAR OF THE DEEPERS)、ARIMATSUとともに特撮をスタートさせる(その後内田は脱退)ものの、2006年の大槻の筋少への復帰とともに今度は特撮が活動休止……といった流れを見てもわかる通り、かつては「二者択一」の形でしか存在していなかった両バンドが、2011年の特撮復活後は両バンド同時進行的に活動を展開、ついにはここに両バンドの「対バン」が実現!ということで、赤坂BLITZを埋め尽くしたオーディエンスの熱気は開演前から異様なまでのテンションの期待感に満ちている。
もっとも、片や大槻&三柴がコアメンバーとして(特撮)、片や大槻はメンバー&三柴はレギュラーサポートとして(筋肉少女帯)連続して2ステージに立つわけで、48歳のエディ&もうすぐ48歳のオーケンはそもそも体力的に大丈夫なのか?というハラハラ感もその会場のテンションの中に混じっていたことは確かだ。が、何よりこの日のステージは、それぞれのバンドのまったくベクトルの異なる爆発力と異形感を存分に見せつけてくれる、珠玉のアクトだった。
■特撮
01.シネマタイズ(映画化)
02.戦え! ヌイグルマー
03.オム・ライズ
04.バーバレラ
05.くちびるはUFO
06.殺神
07.5年後の世界
08.林檎もぎれビーム!
09.綿いっぱいの愛を!
10.じゃあな
先攻の特撮、いきなり響き渡った最新シングル曲“シネマタイズ(映画化)”の、全身痺れるのを通り越して痙攣するぐらいの重轟音ハードコア・パンク・サウンドに、満場のフロアから拳が熱く突き上がる! 地の果てへと突き進むようなソリッドで硬質なサウンドを生み出す、NARASAKIのギター/ARIMATSUのドラム/サポートベース:RIKIJI(OBLIVION DUST)の鉄壁のサウンド。そこに麗しい彩りと妖気を与えていく、ピアノをはじめとする三柴理のキーボード・プレイ。そして、Tシャツ&メガネのシンプルな出で立ちでエネルギッシュに絶唱する大槻ケンヂ。そのまま“戦え! ヌイグルマー”(特撮×中川翔子名義のシングル『ヌイグルマーZ』として『シネマタイズ』と同日リリースされている)へと流れ込んで「N・U・I・G! U・L・U・MAR!」の大合唱を巻き起こし、刻一刻と強く濃い特撮時空を描き出していく。「『オーケン・エディの楽屋はどっちだ?』へようこそ! まずは特撮から! 特撮は、ソリッドでシンプル! ヴォーカルはダラダラしゃべらないことが特徴! ヴォーカルがダラダラしゃべると、ドラムのアーリー(ARIMATSU)が怒ってすぐ曲に行っちゃうから!(笑)」(大槻)とパンキッシュな体で言う割には、途中のMCで「ギャラ2倍出たら、メガネを新しくしてえ! これはひばりが丘のZoffで、9,800円だ!」(大槻)、「なんで最近、滝廉太郎みたいなメガネにしてんの?」(三柴)とARIMATSUを気にしながらもゆったりトークを展開したり、メンバー紹介で話を振られてもしゃべらないNARASAKIに「暑くない?」と呼びかけたり、ところどころに垣間見えるオーケン&エディ特有の磁場が、ステージとフロアのさらに濃密な共犯関係を生んでいく。
復活後の最新アルバム『パナギアの恩恵』の“くちびるはUFO”も織り込みつつ、“オム・ライズ”“バーバレラ”“殺神”などキラーナンバー連射に加えて、大槻ケンヂと絶望少女達名義の“林檎もぎれビーム!”(『懺・さよなら絶望先生』OP曲)までを全10曲の中に盛り込んだ鉄壁のセットリスト。大槻のアングラ・ポップな世界観を、筋少のヘヴィ・メタル/ハード・ロック/プログレ感とはまるで異なるストイックなハードコア・サウンドとして鳴らす特撮の「今」が、約1時間の中に凝縮し尽くされた熱演だった。「特撮、ツアーがあります! 突発的にライブやってますんで。ボヤボヤしてると忘れるぞ!」と勇ましくコールした後、「エディ、次俺たち筋肉少女帯だよ! 何やんのかなあ? “日本の米”とかやんのかなあ」とまたも砕けたトークに流れ込む大槻。「今日さ、楽屋弁当4食食えるんだぜ!」という三柴のMCから、「最近お腹が減らなくなってきちゃって」(大槻)、「しおれたジジイみたいなこと言うなよ!」(三柴)、「僕しおれたジジイなんですよ! 最近、和食しか食べませんよね。僕は、日本の米には納豆がいいと思ってたんだけど、焼きタラコがいいと……」というリラックスしまくったMCを、ARIMATSUの「どうでもいい!」の言葉とNARASAKIのフィードバック・ノイズがかき消したところに響いたスラッシュ・ビートは、『パナギアの恩恵』の“じゃあな”! ハンドウェーブと《ゆあーん ゆあゆよーん》のシンガロングが会場を満たして……特撮のステージは終了。
■筋肉少女帯
01.サンフランシスコ
02.ワインライダー・フォーエバー(筋少Ver.)
03.これでいいのだ
04.日本の米
05.モコモコボンボン
06.トゥルー・ロマンス
07.釈迦
08.心の折れたエンジェル
09.イワンのばか
そして後攻・筋肉少女帯。“サンフランシスコ”のド頭から三柴理のシンセ・ブラスが高らかに響き渡り、マーシャル・アンプ8発組みの前で橘高文彦の流麗なギター・フレーズが炸裂! 先ほどまでの重轟音天国とは一転、橘高&本城聡章のギター・アンサンブル/サポート・長谷川浩二の爆裂ツーバス・ドラム&内田雄一郎のリズム/三柴理の美麗な鍵盤さばきがこの上なく背徳的かつゴージャスなサウンドスケープとなって狂い咲き、「サンフランシスコ!」の雄叫びと拳で埋め尽くされたBLITZの空間を一気に熱狂の彼方へと導いていく。「久しぶりかと問うならば! ついさっき出てきたばかりの2人がいるバンド!」という特攻服姿の大槻のコールにも熱い歓声が湧き上がっていく。「エディ、まさか疲れてるんじゃねえだろうな? 俺はよ、ちっとも疲れてねえんだよ。まるでE-girlsに入ったぐらい、EXILEにいてもいいぐらいの身体のキレ!」の声に、フロアの温度はさらに上がっていく。「……今、たった今、ちょっと疲れがきた! もうダメかもしれないから、あとは長谷川さんよろしく! 何だったら長谷川さんギター・ヴォーカルでやっていただいても……」とボヤきつつも、“ワインライダー・フォーエバー(筋少Ver.)”(大槻ソロユニット=アンダーグラウンド・サーチライ曲のカバー)から“これでいいのだ”へ流れ込んでフロア一面タオル渦巻く風力発電所状態に変えていく。「エディは、両方の楽屋を行ったり来たりして。エディがいなくなるとシーンとなる」(本城聡章)、「僕は特撮のほうにいたから。あの、タバコの問題ね、吸う/吸わないの問題で」(大槻)、「オーケンがいなかったんで、禁煙楽屋でひとり広々としてた。オーケンがいないと部屋が散らかってないよ(笑)といった冒頭の「楽屋はどっちだ?」を巡るMCを経て、大槻から「みんなに嘘を吐いてたんだよ…………疲れちゃった!」のまさかのカミングアウト。息も絶え絶えの三柴とともに、2人揃ってステージを去ってしまう。
「4人しかいないぞ!……じゃあ、疲れてるやつらを元気づけるためにも、『これはやらないだろう』という曲を、僕らで歌ってみないかい?」(内田)という呼びかけとともに鳴り響いたのは“日本の米”! 《知らないのか? 納豆にネギを刻むと美味いんだ》の会場一丸の熱唱が繰り広げられたところで、まずはエディが復帰。ベースパートを三柴に委ね、ベースを置いた内田がスタンドマイクで“モコモコボンボン”を熱く歌い上げ——よいよ大槻が復活! “トゥルー・ロマンス”のでっかいシャッフル・ビートとともに♪ラブ・ゾンビ~の大合唱を巻き起こし、BLITZをさらに熱く揺さぶっていく。ここで大槻から、以前開催された企画ライブ「作曲家別二夜」のPART2が3月29日(土)・30日(日)に開催されると発表され、BLITZが歓喜の声で満たされていく。その高揚感をそのまま“釈迦”のミステリアスな狂騒感へと直結させ、“心の折れたエンジェル”のエイジア的ハード・プログレ・アンサンブルで怒濤のスケールの音風景が描き出される。ラスト・ナンバーは“イワンのばか”! ステージを走って横断する三柴。ドレス姿でフライングVをぶんぶん振り回す橘高。爽快なまでにカオティックなステージングの中、大槻の歌い上げる歌メロがフロア一面のハンドウェーブを呼び起こしていった。最後、特撮のメンバーも呼び込み、両バンドのメンバー9人+オーディエンスの記念撮影で大団円!
特撮のツアー「世界中のロックバンドが今夜もツアー!冬も...」は2月9日:大阪・umeda AKASO、11日:名古屋・池下CLUB UPSET、15日:東京・LIQUIDROOM ebisuにて開催。また、筋肉少女帯の「作曲家別二夜 PART2」は3月29日:橘高文彦+本城聡章+三柴理作曲ナンバー演奏、3月30日:内田雄一郎+大槻ケンヂ+筋少作曲ナンバー演奏の2日間にわたって開催されるほか、4月12日・13日にもTSUTAYA O=EASTでライブが予定されている。特撮と筋肉少女帯がともに「現在進行形」であるというスリリングな関係性が最高に晴れやかな形で結晶した一夜だったし、ぜひまた観たい!と思わせる名演だった。あと、オーケンがライブ中に触れていた「筋肉少女帯×空手バカボン」など別ユニットも巻き込んだ対バン攻勢も、MCネタ止まりではなくぜひ実現してほしい。切に願う。(高橋智樹)
特撮×筋肉少女帯 @ 赤坂BLITZ
2014.02.01