今回公開されたのは“Your Song”のフルバージョン、そして映像作家・林響太朗が監督を務めたドラマ仕立ての2本:“Your Song(Original Story)”と“SINGLES”のショートバージョンだ。
Mr.Children「Your Song」MV
Mr.Children「Your Song(Original Story)」MV
Mr.Children「SINGLES」MV(Short ver.)
中でも、林遣都と村上穂乃佳が「奇跡」をテーマに都会を舞台にしたドラマを演じる“Your Song(Original Story)”は、楽曲に織り込まれたメッセージを映像化することに留まらず、楽曲そのものと共鳴し合うことで鮮烈なイマジネーションを繰り広げる、マジカルな意味性を持った映像作品だ。
「小さな奇跡が日常に溢れていたとしても、それに気づくほどの心の余裕がなかった。いつしか僕は、奇跡を求めることすら止めた」……そんなモノローグとともに、荷物を電車に置き忘れてしまった男性(林遣都)の疲弊した表情が綴られる。
一方、人とは違う能力を備えているがゆえに、周囲からの魔女狩り同然の扱いに苦悩する女性(村上穂乃佳)の姿には、「小さな奇跡を起こすことができても、他人の運命を変えることはできないと知った。そして私は、奇跡を求める人の欲望に押しつぶされた」という独白が重なる。
そして、そんなふたりの在り方を俯瞰するかのように映し出される言葉は――「それでも人は、否応なく、奇跡に出会う」。
《ふとした瞬間に同じこと考えてたりして/また時には同じ歌を口ずさんでたりして/そんな偶然が今日の僕には何よりも大きな意味を持ってる/そう君じゃなきゃ/君じゃなきゃ》
(“Your Song”)
僕らの日々の生活は往々にして、特別な「奇跡」を望みつつ平凡な「日常」を生きるもの、と位置付けられることが多いし、そういう「日常」と「奇跡」の二律背反な価値観は僕らの中に拭い難く染み付いてしまっているところがある。
しかし、「日常」と「奇跡」は決して対立項でも二者択一のものでもなく、僕らの「日常」はいつだって「奇跡」と隣り合わせのものである――。今回の“Your Song(Original Story)”の、ふたりの運命がひとつに重なり合っていく映像は、そんな位相変換を頭と心の中で至って自然に呼び起こしてくれるものだった。
デビュー25周年記念のドーム&スタジアムツアーを経て研ぎ澄まされたロックバンドとしてのタフでタイトな確信が、“Your Song”という雄大な楽曲を生み、映像作品と響き合いながらさらなる広がりを獲得していく――。今のMr.Childrenの全方位的な強さと豊かさを、アルバムとは別の角度から証明するMVであることは間違いない。(高橋智樹)