遂に公開されるHi-STANDARDの映画『SOUNDS LIKE SHIT』を必ず観てほしい理由

遂に公開されるHi-STANDARDの映画『SOUNDS LIKE SHIT』を必ず観てほしい理由 - ©︎SOUNDS LIKE SHIT PROJECT©︎SOUNDS LIKE SHIT PROJECT
私の数少ない誇れることの1つは、Hi-STANDARDの最初のライブの企画者であったことだ。91年、バンドブームはバンド氷河期に移行し、ライブハウスに人がいなくなり始めていたこのころ、私は私なりに何とかしたい一心で、たまにブッキングをやっていた。そして高円寺20000Vでブッチャーズ、ビヨンズ、スキャンプ、ゴッズガッツという面子で組んだちょうどその時に「バンド作ったんですけど出られそうなライブはありませんか?」と、ひょいっと電話してきたのがハイスタで、1番目を誰にするか悩んでいた私は即座に「トップでよければ出る?」と言ったのだ。今改めて思う、人生には縁とタイミングが物を言う瞬間がある。そして軽く即決した当時の自分を褒めたい。なぜなら以降27年にも及ぶハイスタの歴史のほぼ始点から、私は彼らを見ることができたのだから。

映画『SOUNDS LIKE SHIT : the story of Hi-STANDARD』は、そのハイスタの初期から現在までが満遍なく織り込まれた、ハイスタというバンドの物語だ。


例えば、お客さんはサッパリいないが少しもめげず、地道にライブを続ける初々しい時代の彼らがいる。2~3年経ってやっとお客さんが入りだし、遂には1stミニアルバム『LAST OF SUNNY DAY』のレコ発で、彼らを助けた仲間のバンドたちと共に新宿LOFTを超満員にした、まだまだ初々しくも誇らしげな彼らがいる。ちなみに映画では特に言及してなかったが、確かこの時彼らは3人で手分けして1人1000枚ものチラシを撒きまくっていた筈だ。彼らはそうやって動員を伸ばしていったし、彼らはそうやって遂にバンド氷河期を終了させ、新たな波とうねりを作っていったのだ。そして1stフルアルバム『GROWING UP』がリリースされる95年には、その半年前にNOFXとのツアーがあり、ここを起点にハイスタの日本と海外同時進攻状態が始まってゆくわけだが、とにかくファット・マイクとのエピソードも胸を打つ。さらに2nd『ANGRY FIST』、「AIR JAM」1回目、3rd『MAKING THE ROAD』と怒涛の快進撃が続いていく……が、しかしこの辺りから徐々におかしな空気が立ち込め始める。私が最初に変だなと思ったのは、その3rdのリリースタイミングだった。彼らは基本、取材は必ず3人揃って受けていたのだが、この時初めて難波章浩1人の単独取材になったのだ。もちろんその分難波は頑張って話してくれたのだが、ただ、どこか表情が曇って見えたのが気になった。そんな中、「AIR JAM 2000」で日本中を圧倒した直後に、彼らは突如活動を停止する。

この映画には、この当時の経緯が余すところなく全部、本当にもう「そこまで言うのか!」というレベルで語られている。当時断片的に聞いていた私ですら大きなショックを受けるような話だ。しかもここから、映画はショックに次ぐショックの連続となる。いや、基本3人が淡々と話している中に当時のライブや映像が入ってくるだけなのだが、もうその話の内容の全部が全部猛烈に凄まじい上に、差し込まれる当時の映像もその心情を裏付けて余りあるものなのだ。

なぜ難波は突然沖縄に行ったのか。なぜ横山健BBQ CHICKENSを始めたのか。またその時期、様々なバンドで活躍し始めた恒岡章が当時は一番健全に見えたが、実は見えただけだった!ということも含めて衝撃の展開が続く。

3年後、スペースシャワーTVでのハイスタ放送きっかけで難波が久々に東京にきたことをきっかけに徐々に活動を再開させ、05年辺りからなんばあきひろ&宇宙船地球号、TYÜNK、ULTRA BRAiNと猛然と動き出す。だがこの辺りからKen Bandとして活躍し始めていた横山との折り合いがもう、だんだんどんどん悪くなってゆく。そして件の「警告!」。これについても、もう当時の確執、互いが思っていたことを全部、彼らはダイレクトに語るのだ。

というわけで、分かっていたが『SOUNDS LIKE SHIT』は大変ショッキングな内容を持っている。しかし同時に、3人が3人とも、これまでのことを流れも踏まえて冷静に分析していることにも気づかされる。つまり、これはあくまで既に完全に通過した出来事なのだ。2011年の東日本大震災を機に再び一致団結し、「AIR JAM」を復活させた彼ら。この時は急だったこともあり、演奏面でなかなか満足できない側面もあったようだが、そんなことよりも3人が再び揃ったということがどれほど大事でどれほど嬉しかったか、日本中のラウドロックファンが知っている。あと個人的に嬉しかったのは、連続して行われた「AIR JAM 2012」と、前年のDVDリリースに伴い、この時久しぶりに3人揃っての取材ができたことだ。先走る私は「新曲作るよね? アルバムは?」とうるさいおばちゃんと化したが3人は笑いながら「いつと断言できないけど作るよ」と言ってくれて、それがまた嬉しかったです。そして15年には盟友バンドと共に数々のイベントに出演し、16年には事前告知一切無しの突発シングルに「AIR JAM」福岡、17年には待望の待望の待望のフルアルバム&全国ツアー! そして今年は2000年以来18年ぶりにZOZOマリンスタジアムでの「AIR JAM」!! からのこの映画だ!!!

私は思うのです。この映画は、彼らが先へ行くために必要なものなのだと。未来に進むために、過去に縛られず過去を過去として送るものが必要だったのだと。だからこそ全部、余すことなく言っちゃっているのだと。

観た人は驚くでしょう、ショックも受けるでしょうし、泣きもするでしょう。でも、観終わった後にあるのは、まず感動。そして希望です。

顔が完全に子供状態の無邪気なハイスタから、壁を乗り越えたり壁に激突したりしてすっかりいい感じのおっさんになりつつやっぱり子供のような表情を見せるハイスタ。この映画には、時空を超えてあふれ出すハイスタのリアルが全てあります。これまでの青春の全部と、ここから再び始まる青春の予感がこの映画には描かれているのです。心から、皆さんに観て欲しい。(中込智子)

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