OAUによる『きのう何食べた?』主題歌“帰り道”が教えてくれるあまりにも大切なこと

OAUによる『きのう何食べた?』主題歌“帰り道”が教えてくれるあまりにも大切なこと
西島秀俊と内野聖陽のダブル主演、そしてこの2人が男性カップルの役を演じるということで、放送前から話題になっていたドラマ『きのう何食べた?』。毎話、オープニング映像として映し出されるのは、キッチンで夕飯を作るパートナーに、ちょっかいを出してキャッキャと楽しそうに笑い合うゲイカップルの姿。そのバックから流れてくるのは、ゆったりとした曲調で奏でられる、アイリッシュホイッスルとアーシーなケルトサウンドだ。

《先回りして/君を待ってる》、そんな歌詞で始まるこの“帰り道”という曲。君を待たせるのではなく、君がいつ来てもいいように先回りして待っていたい――歌い出しから、作品の主人公たちの想いを見事に汲み取っている。音数もできる限り削ぎ落とし、残されたサウンドを繊細かつ豊かに響かせ、ギターのアルペジオを中心に展開されていく。そのサウンドスケープのなかで、声高に扇動するわけでもなく、静かに歌われるのは、一貫して《思い出してよ/おかえりの/声が聞こえた日のことを》、《思い出してよ/ただいまと/扉の開いた日のことを》という過去の日のことだ。でも、永久にその日々が続いていくように鳴る持続性のある音と、体温が宿った言葉がゼロ距離で寄り添い合っているからか、《思い出してよ》と願うところなんて、何度聴いても胸が詰まる。そして、抱えている本音を隣にいる「君」に話すこと、「ただいま」を言うこと、「おかえり」を言うこと、「君」を待つことができる今日があること、「君」のことを想いながら帰る道があること――この曲で歌われている全部が、どこにでも転がっていそうな日常の出来事だが、実はそれがどんなことよりも尊いものであるのだと、ふと気付かされる。日常を過ごしているなかで感覚が鈍くなってしまった「普通の幸せ」の感じ方を思い出させてくれるところも、ドラマにちゃんとリンクしているように思う。

BRAHMANのメンバー全員が参加している6人組のアコースティックバンド・OAUが、この“帰り道”という曲を『きのう何食べた?』のために世に産み落としたわけだが、ひとつひとつの息遣いから音が消える直前の最後の余韻まで、優しさを散りばめていく彼らの器の大きさには驚かされた。みんながみんな幸せいっぱいになるのは難しいけれど、これからこの曲を聴くたびに、「普通の幸せ」が続くようささやかに祈ってしまうのだろう。きっと、この曲は不幸を遠ざけてくれるはずだ。(林なな)
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