宮本浩次がひとりの歌手として心を突き動かされた「名曲」たち。それが圧倒的な熱量で会場中を満たした夜だった。2022年末から2023年頭にかけて行った最初の「ロマンスの夜」から約1年。宮本が絶大なる信頼を寄せるバンドメンバーたちとともに全身で歌と向き合うスペシャルなコンサートが再び行われた。東京公演は、東京国際フォーラムホールAでの2デイズ。その2日目を観ることができた。
『ROMANCE』『秋の日に』という2枚のカバーアルバムからの楽曲はもちろんのこと、今回はエレファントカシマシの楽曲や提供曲のセルフカバー、さらには新たなる名曲カバーも織り込まれ、歌が人生を彩り、生きる希望となり得ることを強く実感させられるライブとなった。圧巻の歌世界だった。

前回と同じく“ジョニィへの伝言”でスタートした今回の「ロマンスの夜」。ピアノのみの伴奏でスポットライトの下で歌い出す宮本の声。最初の一小節で即座に歌が描く物語に引き込まれる。そしてゆったりとしたバンドサウンドに乗せて、伸びやかな声で1コーラスを歌い上げると大きな拍手が湧き起こり、間奏中に「ようこそ」と客席に向けて静かに挨拶。この1曲で今宵のコンサートの空気は充分に整う。あとはもう我々オーディエンスは宮本が全身で響かせる歌と最上のバンドサウンドに身を預けるだけでいい。続く“赤いスイートピー”ではもどかしい女心を歌いながらも、その歌詞に歌われる素っ気ない「あなた」の横顔も同時に浮かび上がらせるようなニュアンスもあり、改めて宮本のカバーの多重な魅力に気づかされる。メランコリックなシンセのフレーズに客席からハンドクラップが起こって始まった“まちぶせ”もそう。宮本の歌声は名曲が描く物語をより重層的に見せてくれる。（以下、本誌記事に続く）

文＝杉浦美恵　撮影＝岡田貴之
（『ROCKIN'ON JAPAN』2024年2月号より抜粋）

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