荒巻勇仁の世界観――グッドメロディに鋭い歌詞を突きつける若き才能に注目
2023.10.13 18:00
「歌うま高校生」として始まったキャリアではあったが、着目すべきはそこではない。
彼の作品に一度触れれば、その世界観に飲み込まれていくだろう――人生に向き合う現実的な歌詞とは裏腹に、ポップで軽やかなメロディが作り出す空想的な世界観。心地のよいグッドメロディに、平然と鋭い言葉を乗せる器用さやバランス力も荒巻の魅力だ。
昨日ライブを初めて見たが、音源と変わらぬ歌唱力はもちろんのこと、ライブならではの表現力に心を揺さぶられた。荒巻が作り出す透明感高くシームレスな空間に響く歌声は、観客ひとりひとり直接語りかけているようでもあり、荒巻の世界に引きずり込むパワフルな表現でもあった。
「大切な曲」と前置いて歌った“輪郭”では、《ぼやけ、壊れかけた輪郭を描くのに/光はいらないの》と自身の世界観を信じ、貫くことへの自信を歌っていたように感じた。
ライブで感じたその自信は、自らMVやアートワークも手掛け、音楽だけでなく「荒巻勇仁」という世界観を立体的に作り続けてきていることから来ているようにも思う。
着実にアーティストとしてのスケールを拡大している荒巻に、ぜひ注目してほしい。(前田侑希)
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