ニック・ケイヴ、あまりに素晴らしすぎるドキュメンタリー映画のシーンから切り取ったビデオを発表。

ニック・ケイヴ、あまりに素晴らしすぎるドキュメンタリー映画のシーンから切り取ったビデオを発表。

ニック・ケイヴが去年9月に発売した『スケルトン・ツリー』の制作過程を追い、絶賛されたドキュメンタリー映画”One More Time With Feeling”から、ビデオ"Steve McQueen”を発表した。こちら。

このドキュメンタリー映画、公開した時に劇場で観たいと思っていたのだけど、どうしても日程が合わなくて観れないままでいた。週末にNYのラフトレードが無料で上映をしたので、ようやく観た。すでに絶賛されている作品だけど、あまりに素晴らしくて打ちのめされた。

この作品は、ニック・ケイヴが最新作『スケルトン・ツリー』を制作している最中に、息子さんが崖から落ちて亡くなったことを機に作られた。ケイヴが、最新作発売時のインタビューのときに、息子さんの死について語るのはあまりに辛すぎるから、映画を作って、そこで一度だけそのことについて語り、今後は語らなくて良いようにというのが当初の考えだったらしい。

監督をしたのは、『ジェシー・ジェームズの暗殺』のアンドリュー・ドミニク。彼による映像、演出、編集も素晴らしく、映像のムード、テンポ、構成が、ニック・ケイヴのこの特殊な性格の作品の世界観をあまりに完璧に作り上げている。結果、これまで観たこともないような音楽ドキュメンタリー作になっているのだ。ニック・ケイヴのファンでなくても、ぜひ観てもらいたい作品だ。

映画の予告編はこちら。

監督は、映画の制作を頼まれたものの、アルバムは約40分しかないため、そのライブ映像を撮っただけでは、映画がすぐに終ってしまう。なので、それ以外は即興で考えて作ったと言っていた。全体としては、スタジオでのライブ映像、タクシーの中と自宅でのインタビュー、それにケイヴ自身が自分の映像を見ながら解説するという、大きく4つのパートを合わせて出来ている。

今回発表されたビデオ”Steve McQueen”は、アルバムの中の”Girl in Amber”のリハーサル風景に、ケイヴがボイスオーバーで、”Steve McQueen”という詩を朗読しているシーンだ。これが胸に刺さる。

大まかな詩の内容は以下の通り。

「俺はスティーヴ・マックイーンのように大きくて美しい夢を持っている」、そして時に拳銃をぶっ放したりするような男であるが、でもほとんどは、
「タイプライターの中にうずくまり、死にたいと思っている」。でも死なないのは、「誰かが星を歌わなくてはいけないから/誰かが雨を歌わなくてはいけないから」

「タイプライターの中でうずくまり、ハエと一緒に泣いている/俺はハエに泣くなと言う/ハエは俺に死ぬなと言う」「なぜなら誰かが星を歌わなくてはいけないから/誰かが雨を歌わなくてはいけないから/誰かが血を歌わなくてはいけないから/誰かが痛みを歌わなくてはいけないから」

監督は、この作品を作ったことで、ケイヴの悲しみが癒されたとは思えない、とも語っていた。

このドキュメンタリーは既にDVDで発売されている。
またニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズは、5月5日にボックスセット『Lovely Creatures : The Best of Nick Cave & The Bad Seeds 1984-2014』を発売する。
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