ニール・ヤングが自ら主催するフェスの出演を断念。声明文の一言一句が重い

pic by Global Citizen
pic by Global Citizen

変異株(デルタ株)が猛威を振るう中、アメリカでは少し前にはワクチン接種のおかげで復活したと思えたライブやフェス開催に不安がよぎっている。その不安定な状況を反映するように、プロモーターや、アーティストの対処の仕方も様々だ。

しかしここにきて、なんとニール・ヤングが9月25日にコネチカット州で開催予定で、彼自身がウィリー・ネルソンジョン・メレンキャンプとともに主催者でもある農場を支援するチャリティフェス、ファームエイドの出演を断念したと発表した。


以下がその声明文。
https://neilyoungarchives.com/news/1/article?id=A-Message-Farmaid-And-The-Pandemic

「ファームエイドとパンデミック

2021年8月18日

今世界では様々なことが起きている。

俺はそんな中、コロナがパンデミックが急速に拡大している時に、ファームエイドを行うのはみんなにとって果たして安全なのかと思い悩んでいる。心配しているんだ。

みんなをがっかりさせたくはないが、みんなにとって安全ではないかもしれないという疑念を完全に振り払えないでいる。
こういう時期に観客が集まってくるというのが心配でならないんだ。
フェスは売り切れているし。

安全だと思えないからフェスに来ない人たちに、俺も同意する。
それに、俺が演奏するのを観て、もう安全なんだとは思って欲しくないんだ。
だから、君たちが安全だと思えるまで、または本当に安全になるまで、俺は演奏したくない。

みんなが音楽を聴きたいから、友達と一緒にいたいから、という理由で、人が死ぬかもしれない危険を冒すのは、間違ってると俺の魂が言うんだ。

君たちがどこにいようとも俺は君たちと一緒だ。やらなくちゃいけないことをやって欲しい。だけど、よく考えてからにして欲しい。
俺たちは戻ってくる。でも一緒にやらなくちゃいけないことが山ほどある。

ワクチンを接種をした人でもコロナに感染し、コロナを広めるということが既に分かっているから、俺は、子供たちが心配なんだ。ファームエイドの後に、例えば、両親がコロナに感染し、それに気付かないで、子供たちにうつしてしまったら。既にあまりに多くの子供たちが入院しているから。

俺は、ウィリーと、ジョンと、デイヴ(・マシューズ)が予定通り開催し、演奏するという決断を尊重する。しかし、俺は同じ心境にはなれない。非常に難しい決断ではあったが。

時間の経過とともに、俺たちの進む道もより明快になることを祈る。

みんな元気で、愛を込めて。ニール・ヤング」


他でもないニール・ヤングの決断なので、一言一言重く響く。

アメリカのコンサートプロモーターや、アーティストが先週から短い間に次々に様々な決断を下している。

ニール・ヤングと同じ理由で状況が不確かだからとキャンセルするアーティストもいるし、ライブやフェスを続行すると決めた場合は、ワクチン接種者のみか、ワクチン接種者か検査陰性者のみという厳しい規制を設定している。それが人の命を守りながらコンサート産業も守れる現時点では唯一の方法と判断したのだと思う。アメリカは去年の3月からここまで約1年半完全にコンサートが行われなかった。ようやく再開したところなので、なんとか継続するために、ワクチン接種など賛否両論となる難しい規制をしているのだと思う。そこに生き残りたいという必死の思いを感じる。

最近発表されたその他の規制。

1.「ワクチン接種がコンサートへのチケット」とアメリカ大手プロモーターLive Nationも規制を発表

先週アメリカのプロモーターAEGが、ワクチン接種者のみが入場可という非常に厳しい規制を発表した

それに続き、当初はアーティストに任せると言っていたもうひとつのアメリカの大手プロモーターLive Nationも先週の金曜日に急遽規制を発表した。「ロラパルーザの成功を元にして、ワクチン接種をコンサートに戻るためのチケットとする」とCEOが発表。

この発表によると、彼らが主催するフェスやコンサートや、彼らが運営するライブ会場では、アーティストも、観客も、スタッフも全員、ワクチン接種済みか検査で陰性だった人のみが入場可。

https://variety.com/2021/music/news/live-nation-vaccination-best-practices-concerts-1235036359/

ロラパルーザの発表によると、観客の90%がワクチン接種済みだったばかりか、シカゴ市の発表ではクラスターも起きなかった。
また10万人x4日間のフェスで、なんと12%もの人たちが、ロラパルーザに行くためにワクチン接種したと答えている。


なのでLive Nationは、今回の規制によりワクチン摂取率を増やすのに役立てるとも思ったようだ。

2. ザ・キラーズがおそらく最も厳しい規制を発表

ザ・キラーズが8月19日にNYでライブを行うが、ワクチン接種済みでかつ、ライブ開催前48時間以内の検査をして陰性の証明の提出が必要。ワクチン接種と検査の両方というのは、私が知る限りでは一番厳しい。

彼らがこれを決めたのは、おそらく会場が屋内、オールスタンディング、キャパ3000人だからだと思う。

しかし、この規制により、フルキャパで、ソーシャルディスタンスなしで、お酒も飲めるし、歌えるし、踊れる。
最大限に楽しむために、最も厳しく安全な規制にしたのだと思う。
https://www.bowerypresents.com/shows/detail/410665-the-killers

3. ガース・ブルックスが既に35万枚売っていたスタジアムコンサート5日間をキャンセル


「本当にコロナ禍は収束したと思っていたんだが、今新たなウイルスの拡大をニュースで見て、まだ戦いの最中なのだと知った。自分のやるべきことをやらなくちゃいけない」とスタジアムコンサート5日間をキャンセル。既に35万枚のチケットが売れていた。

ガース・ブルックスは、先日カンザス州でコンサートを行い、7万人超えの観客が集まったが、事前にマスク着用を呼びかけたのに、ほとんどの人がしていなかった。なので終了後、ワクチン接種をしていなかった人たちは10日間の自己隔離が要請された。今回の決断がそれと関係していたのかは不明だ。

4. NINも今年のフェス出演、単独ライブを全てキャンセル。「まだ時期尚早だった」

ナイン・インチ・ネイルズは、9月に単独ライブを地元オハイオ州クリーブランドで2回と、フェスへのヘッドライン出演をいくつも予定していたが、今年のライブ出演は全てキャンセルすると発表した(涙)。


「非常に残念だが、今年のナイン・インチ・ネイルズのライブを全てキャンセルする。

計画した時点では、これらのライブは、ライブミュージック復活のカタルシスがある祝祭となるはずだった。
しかし、日が経過するにつれ、まだそこまで行っていないことがより明らかだ。

これによって不都合が生じること、またがっかりさせてしまうことを申しわけなく思う。だけど、相応しい時がきたら、みんなに会えるのを楽しみにしている」


個人的にも非常に残念だ。彼らが今年唯一の単独とクリーブランドでのライブを発表した時に、行けるか分からないと思いながら一応一番安いチケットを買ってあったのだ。しかし直前まで分からないと思って飛行機、ホテルなどは買ってなかった。やはり悪い予感が的中した。

またNINは、Riot FestやLouder Than Lifeフェスなど、いくつものフェスでヘッドライナーとしての出演が決まっていた。が、それも全てキャンセルする。現時点ではフェスはそのまま行われる。Louder Than Lifeはこれから代わりのヘッドラインを発表する。



現時点では、アメリカのライブは、キャンセルするか、続行する場合はワクチン接種か検査陰性証明が必須になっている。今後の様子によってまた変わり続けると思う。

みなさんも引き続きお気を付けて。



『ロッキング・オン』最新号のご購入は、以下のリンク先より。

『rockin'on』2021年9月号

中村明美の「ニューヨーク通信」の最新記事