坂本龍一の最後のパフォーマンスを捉えたドキュメンタリー映画『Opus』のティーザーが公開された。
この作品は、9月5日にベネチア映画祭で世界初上映され、その後坂本が住んでいたNYでもNY映画祭で10月11、12日に上映される。
Deadlineによると、監督は息子さんのNeo Sora。カメラマンはBill Kirsteinで4Kカメラを使い全編モノクロで撮影された。
坂本が、ステイトメントの中でこの作品について語っている。
また、Neo Sora監督は、準備をしっかりとしたいので、事前にどの曲を演奏するのか決めて欲しいと坂本にお願いしたそう。「このプロジェクトは、僕がまだパフォーマンスできる時に、未来に残す価値のある方法でパフォーマンスを記録することを目的として始まりました。それにあたり、NHKの509スタジオを借りました。僕が日本でも最も素晴らしい音響だと思う場所です」
それについてSora監督もAPのインタビューで語っている。「自宅で全ての曲を演奏し、それをiPhoneで撮影しました。全体の構成としては、朝から夜へ時間が進んでいくことを表現したかったのです。全てはストーリーボードを描いて事前に綿密に計画し、曲ごとにカメラ位置も、照明も大きく変えました」
さらにステイトメントで、坂本は以下のように語っている。「この作品は他のコンサート映画などとは違うと思うのですが、初期の段階からセットリストを作って欲しいとお願いし、それに合わせてコンセプトやビジュアルによる構想を練ったのです。また話し合いをして、彼の方も、それに合わせてセットリストを少し変えてくれたりもしました。結果的には、時間の経過などに関する彼の哲学や、彼の人生を音楽を通して、表現できたと思います」
「撮影が始まる時は、この方法でみなさんの前で自分のパフォーマンスを披露するのは、これが最後の機会になるかもしれないと思い、少しナーバスになりました。1日に数曲ずつ、細心の注意を払いながら、収録しました」
「またこれが最後のパフォーマンスになるかもしれないと思いながらも、同時に、新境地を開拓できるとも思えたのです。ただ、その時点では、ものすごく集中して、1日に数曲演奏するので精一杯でした。恐らくその努力のせいかもしれませんが、その後酷く空っぽになり、1ヶ月くらい病状が悪化しました。しかしそれでも僕は、自分が亡くなる前にレコーディングをすることができて、しかも自分で納得のいくパフォーマンスができたので、安心しました」
このドキュメンタリーでは、20曲が演奏されていて、『ラストエンペラー』から『戦場のメリークリスマス』の他、今年発表された『12』からの曲も演奏される。さらに、これまでピアノソロで演奏したことがなかった『嵐が丘』や、『一命』や、YMOの”Tong Poo”が新アレンジで演奏されているそうだ。
また、この作品とは別に、7月にNYでは、バーチャルによるこれまで観たこともないような、体験したこともないようなミックスリアリティ”コンサート”『KAGAMI』が上映されたので観て来た。
Tin Drumとのコラボレーションで作られたこの作品は、簡単に言えば、ARとVRを合わせた体験で、会場に着くと、観客はMagic Leap 2というヘッドセットを渡される。なんとひとつ3300ドル(約47万円)。それを通して観るのだけど、それ自体がこれまでにない体験だし、映像のクオリティの高さもこれまで観たこともないようなものだ。
観客は、椅子に座ったままでも良いし、自由に移動もできるのだ。だから、実際のコンサートでは絶対に不可能なこともできるのだ。例えば、演奏中の坂本の真横に行って指の動きを間近で見れたり、床に座って下から顔を凝視したりもできる。さらに、曲に合わせて背景が変わったり、地面が果てしなく広がったり、その世界観にも没入できるのだ。
しかし、すでに亡くなった後に上映されたので、当然思い切りエモーショナルにもなる。でも、亡くなった後に作品が、これまでにないような体験をさせてくれるというところには、ものすごい希望を感じた。上映は1時間で、10曲パフォーマンスされた。
香水も発売されていた。
この作品についても、坂本がステイトメントを発表している。
『Opus』も『KAGAMI』も日本での上映の情報はないので、分かったらお知らせします。「ここには、現実として、バーチャルの僕が存在します。
バーチャルの僕は、歳をとりません。そして何年も
何十年も、何世紀も、ピアノを引き続けるでしょう。
その時そこに人間はまだいるのでしょうか?
人間の後に地球を征服したイカが僕の音楽を聴いているのでしょうか?
ピアノは彼らにとっては何になるのでしょうか?
音楽は彼らにとっては何になるのでしょうか?
そこに共感と言えるものはあるのでしょうか?
共感は、何百年も、何千年も続くでしょう。
ああ、でも電池がそんなに長くは続きませんね。
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