tricot『Break』:新しいtricotはここからはじまる

tricot『Break』:新しいtricotはここからはじまる

アルバム『T H E』以来のリリース、というよりも、komaki♂脱退後初のリリースであり、その意味ではtricot再出発の第一歩となるのがこのシングル。ドラムはDETROITSEVENの山口美代子が叩いている。

ところでtricotとは自由である。tricotの音楽とは自由である。というか、音楽は自由で無敵なんだ、と全力でアピールしているのがtricotというバンドだ。だからリズムは気の赴くままに移り変わっていくし、歌詞は散文的な語りというよりイメージの集積によって綴られるし、中嶋イッキュウの歌とキダ
モティフォのギターが同じだけの存在感と強さをもって鳴る。そんな自由な運動を守るために、tricotはわかりやすい物語とも、共有しやすいイメージとも距離を取って歩いてきた。それによって生まれるよくわからなさ、不安定さ、なんだか難解そうな感じ、を、曲と音の力でねじ伏せてきた。『T
H E』というアルバムはある意味でその集大成といってもいい。イッキュウの歌詞は明らかに何かを言いたそうではあったけれども、それも奔放なtricotという運動体を規制するほどのものではなかった。

だが、このシングルはそう考えるとちょっと色が違う。自由奔放という言葉では片付けられない、ちょっと不自由で、そのぶんはっきりと「状況」が見えるような感じ。
“Break”も“after school”も、ちょっとセンチメンタルに、ひとつの季節の終わりを歌っているように、僕には思える。アレンジもサウンドも、メロディと顔を見合わせながら、シンプルに作られていて、だからそこから浮かび上がってくる景色は、とてもクリアだ。


一人で帰ろう廃らないうちに
今日は少し息づかいが荒い
きっとやれるわ
うわ言がキラキラ光るの
さよならオレンジ
(“Break”)

終わりあるものは全て美しい
(“after school”)

特に2曲目、中嶋イッキュウが単独で作詞・作曲を担当した“after
school”は、歌詞もメロディもこれまでのtricotでは決して出てこなかった種類の強さをもっている。超スピードで走るF1カーも、カーブではスピードを落とす。その時一瞬だけは、ドライバーにも周りの世界がくっきりと見えることだろう。そして言うまでもなく、カーブを曲がったあとは、また長いストレートが待っているのだ。tricotもまた、このシングルで少しアクセルをゆるめ、今自分たちがいる状況を振り返ったのかもしれない。もちろん、そこからまたアクセルを思いっきり踏み込むためにだ。ヨーロッパツアーに行ってピクシーズと共演したりしているのでわかりにくいが、今のtricotは激変期にある。「Break」とは壊す、打ち破る、新しい何かを手にするという意味だが、同時に「休息」という意味ももっている。このシングルはその両方の意味で、次のtricotへと向かうターニングポイントだと思う。

そしてコマキも元気でやってます。
こちら、日食なつこのMV“水流のロック”。

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