レディオヘッド待望の新曲“Burn The Witch”最速レヴュー! アルバムの行方を徹底考察

レディオヘッド待望の新曲“Burn The Witch”最速レヴュー! アルバムの行方を徹底考察

ここ数日、レディオヘッドの動向を固唾を飲んで見守っていた人も多いんじゃないかと思うが、ついに彼らの待望の新曲“Burn The Witch”が公開された。2011年の『ザ・キング・オブ・リムス』以来5年ぶりのニュー・アルバムからの先行シングルとなるナンバーであり、レディオヘッドのこれまでのやり方から予想するに、シングルが解禁されたからにはアルバム自体のリリースも間もなくのはずだ。


ネット上で突如公開された“Burn The Witch”だが、実際には突然の公開だったとは言えない。ファンの元に郵送(古風!)で届けられた謎のリーフレットに刻まれた「Burn The Witch」の文字、リセットされて真っ白になったバンドのホームページやSNS、そして小出しにされたティーザー映像と、彼らは約1週間前から少しずつパン屑を落とし、ファンを新曲に導いていたからだ。

唐突、即興に思えるレディオヘッドのアクションは、常に緻密な計画とコンセプトに基づいて行われている。それがここ10年変わらぬ彼らの方法論だ。

そんな、「突然だけど驚きはしない」“Burn The Witch”の公開の一方で素直に驚いたのは、この曲がトム・ヨークやナイジェル・ゴドリッチがあれだけ批判していたスポティファイ、ユーチューブを利用して配信されたことだ。単純に彼らが意見を変えたのか、何か別の意図があってのことなのか、こればかりは本人たちに訊いてみないことには分からないが、結果的により簡便に、広範囲に“Burn The Witch”が聴かれるようになったのは間違いない。

この“Burn The Witch”を聴いて感じる鮮烈な、血が沸き踊るような感覚は、レディオヘッドのアルバム先行シングルとしては珍しいほどダイレクトで、直球なものだ。

なぜなら『キッドA』(2000)以降のレディオヘッドの先行シングルは、アルバムを最も端的に象徴する曲ではなく、アルバムの全体像を敢えて秘匿するかのような断片的で少し「ハズした」ナンバーが多かったからだ。それを思えば、“Burn The Witch”は久々にシングルらしいシングル・ナンバーだと言えるんじゃないだろうか。

そんな“Burn The Witch”を主導しているのは明らかにリズムだ。ドラムマシーンのシンコペーションと小刻みに刻まれ加速していくストリングスを主体とするそれは、前述の鮮烈で血が沸き踊る感覚の源になっている。

そこにトムのアトムス・フォー・ピースでの経験が生かされていることは間違いないだろうが、それはアトムスが実践していたアフロ・ビートの変則、転調を安易にレディオヘッドに代用したという意味ではない。この曲のリズムの面白さ、興奮の所以は、ロック的ではないリズムの借用ではなく、むしろロックンロールの、それこそ8ビートの「先」で行われているチャレンジだという点なのだ。

これこそ彼らがレディオヘッドとしてやるべき先鋭の在り方だと思うし、ラストに向けてギュンギュン盛り上げにかかる分かりやすさといい、改めて腹を括ったシングルらしいシングルだなあと思う。

もうひとつ特筆すべきは、これだけ昂揚を煽るパワフルなナンバーであるにも拘らず、その根底にはどうしようもなく不穏な空気が流れていることだ。その不穏の舵取りをしているのはストリングスを采配するジョニー・グリーンウッドだろう。

一聴してトムの美しいファルセットをのせた速やかで流麗な進行を司っているように聞こえる本曲のストリングスは、要所要所でその流れを強引に乱し、塞き止め、逆流を起こしていく。神経をザリザリと逆なでられるようなこの曲のストリングスは、ポール・トーマス・アンダーソンの『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のサントラをも彷彿とさせるものだ。

今回はミュージック・ビデオもまた秀逸だ。このパペット・アニメーションは約2週間で制作されたそうだが、「魔女を燃やせ(Burn The Witch)」というタイトルどおり魔女狩りの物語かと思いきや、実はウィッカーマンだったという「本当は怖いグリム童話」のようなオチ、またTwitterのマスコットを連想させる青い鳥のさえずりなど、いくつもの意味深なポイントがあり、歌詞の内容ともリンクして観る者に深読みさせる内容になっている。

前作『ザ・キング・オブ・リムス』からの先行シングル“Lotus Flower”の、トムがひとりクネクネと踊りまくっていたミュージック・ビデオの「考えるな、感じろ」的なスタンスと比べると、全く異なっていることがわかるだろう。

ちなみに“Burn The Witch”はもともと『キッドA』のレコーディング・セッションで生まれた曲で、その後『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』(2003)、『イン・レインボウズ』(2007)と、新譜のタイミング毎に何度もチャレンジされるも収録には至らなかった難産の曲でもある。そんな“Burn The Witch”と同じく新作への収録が噂されている過去曲には“Lift”(こちらはなんと1996年作)もあるが、つまり過去曲の修復&再生という、『イン・レインボウズ』における“Nude”のようなアプローチがきたる新作でも採られていることがわかる。

昨年、『007 スペクター』の主題歌候補として書かれるもボツになった“Spectre”が単発公開された時、あの曲のメロディアスでドラマティックなサウンドは単発仕事ゆえの考えすぎない気易い産物かと思っていた。しかし、そんな“Spectre”の路線を引き継いでいるとも言える“Burn The Witch”が登場したことで、このオープンな攻めの姿勢、ある意味で「ガッついた」レディオヘッドのモードは、半年、1年スパンで継続されているものだとわかった。そして彼らは、このモードでアルバムを作り、そのアルバムを引っさげて日本にやってくるのだ。

https://soundcloud.com/radiohead/spectre

最高の新曲。目前に迫ったニュー・アルバム。そして数ヶ月後に約束された待望のステージ。ファン冥利につきる、痺れるような展開になってきた。(粉川しの)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする