UK新世代は今どうなっているのか?2016年リリースのアルバムをまとめて検証する

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ビヨンセ、レディオヘッドのサプライズ・リリースを皮切りに、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、チャンス・ザ・ラッパー、ベック、ストーン・ローゼズ、そしてストロークスと、ここ1カ月くらい怒濤の新作&新曲の公開ラッシュが続いている。そんな目紛しくも嬉しい状況の中で、この6月以降はUKの新世代、つまり2010年以降にデビューしたアーティストたちの2作目、3作目が日本盤のリリース・ラッシュを迎えるのも見逃せないトピックだ。

ジェイムス・ブレイクの3作目『ザ・カラー・イン・エニシング』(6月24日リリース)、ジェイク・バグの3作目『オン・マイ・ワン』(6月17日)、トム・オデールの2作目『ロング・クラウド』(6月15日)、ジャック・ガラットのデビュー・アルバム『フェーズ』(6月10日リリース済)、そしてキャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメンの2作目『ザ・ライド』(6月3日リリース済)。ちなみに『ザ・ライド』は一足お先にリリースされた本国で初登場1位を獲得! まさにそのハングリー精神に相応しい有言実行、2010年代世代の底力を見せつける結果に。

さて、上に挙げたアルバムには最後のキャットフィッシュを除いてある共通点がある。そう、どれもがシンガー・ソングライターのアルバムだということだ。しかも彼らはエド・シーラン、サム・スミスらと共に「シンガー・ソングライター」の意味を大きく広げ、ここ数年にわたってブームと言ってもいい「個の表現」の豊潤さを証明してきたアーティストたちだ。そして、そんな彼らの新作にはこれまたひとつの共通したムード、方向性が見て取れるのが面白いのだ。

ジェイムス・ブレイクの新作『ザ・カラー・イン・エニシング』は、言うならば「拡散」の音楽になっている。ミニマムな要約の音楽であった彼のかつてのベース・ミュージックが、ここではトータル・タイム75分超えのヴォリュームを背景に、ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンやフランク・オーシャンをはじめ、他者からの影響もがんがん取り入れながら、ソウル、ゴスペル、オールド・ヒップホップ、ボサノバといくつもの新たなチャンネルを獲得している。

その多様性やカラフルさは、かつての独りの寂寥や孤独をグレーの内宇宙に封じ込めていた彼が、いくつもの色彩に彩られた世界に一歩踏み出したことを感じさせるものだ。


一方のジェイク・バグの『オン・マイ・ワン』は、様々なコラボの中で表現を拡散させたブレイクの新作とは対照的に、ほぼ完璧なセルフ・コントロールの元で作られた究極の個の表現になっている。10代で早熟なデビューを果たして以来、自分が何者なのかを100%理解するより先に音楽が勝手にこぼれ落ちていくような季節を経た彼が、まさにタイトルどおりサウンド的にもアティチュード的にもついにひとり立ちしたことを伝えるアルバムなのだ。

しかし、突き詰めた個の表現である本作がユニークなのは、そこに個を解放したブレイクの新作同様の多様性とカラフルさがあることだ。グライムや大人びたソウル・ポップ等、今までの彼からは想像できなかったサウンドが踊り、ジェイク・バグの代名詞とされてきたロックンロール、ブルースが彼のすべてではなかったことを訴えかけてくるアルバムだ。


ポスト・ダブステップと2010年代のメランコリィの旗手として。ロックンロールの正当&王道のDNAを受け継いだ恐るべき子供として。これまでのジェイムス・ブレイクやジェイク・バグは、あるひとつの「極」を象徴するアーティストとして屹立した存在を示してきた人たちだった。シンガー・ソングライターはひとりの表現体であるからこそ、彼らの音楽は彼ら自身のパーソナリティ(と見なされてきたもの)が直反映されたものだという了解もあった。しかし『ザ・カラー・イン・エニシング』や『オン・マイ・ワン』は、そういう彼らにまつわる一筆書きのようなイメージを超えたところで鳴っている、そういう自由と解放のアルバムであり、彼らの個のネクスト・ステージを感じさせる一枚になっているのだ。

ピアノ・バラッドの貴公子としてデビューし、ポップ・グラウンドで大きな成功を収めたトム・オデールの新作『ロング・クラウド』もまた、多様性と言うかまさに音の重層性において飛躍的な進化を遂げたアルバムだ。究極のシンプリシティから出発した彼が、エド・シーランのような「あれもこれも何でも可能」な奔放なポテンシャルと、「その中からこれを選んで磨き上げた」という徹底したプロダクション管理を両立させた、理想的なセカンドだと思う。


そして2010年代、もとい2016年のUKを象徴する新星と言っていいジャック・ガラットの『フェーズ』。ここ10年のUKクラブ・シーンを縦断したかのようなガラージ、エレクトロR&B、ダブステップから、オルタナ・フォークやローファイまで、マルチ・プレイヤーで何から何まで全部自分でやっている彼がジャンルの境界線をひょいひょい飛び越えていく様が、上記のようなUKシンガー・ソングライターの多様化と自由は、この2016年にはもはや前提条件となっていることを伝えてくれるアルバムだ。


なお、彼らは揃ってこの夏のフェスティヴァルで来日を果たす。新・新時代に突入したUKシンガー・ソングライター勢の現在をお見逃しなく。(粉川しの)
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