今から20年前にくるりが結成された「原点」の場所から生配信された、くるり初期メンバー=岸田繁/佐藤征史/森信行によるスペシャルライブ(本人たちは「公開練習」と言っていた)を観た方も多いことと思う。
「後決めですけどね。『これぐらいじゃないかな?』って決めたのが9月1日」(佐藤)、「もやもやーんと始まったバンドやんか。メンバーもいろいろいたり、途中から入るはずの(大村)達身さんがいつも練習にいてギターソロ弾いてて」(岸田)と曲の合間にメンバーそれぞれ注釈を入れてはいたものの、結成20年の「誕生日」を全国のリスナーと分かち合い、拍手や歓声の代わりにハッシュタグ付きの歓喜のメッセージがタイムラインを駆け巡る、特別なひとときだったことは間違いない。
何より、音楽探求精神の宝庫=くるりの核心に、どこまでも無防備な形で触れることができた、貴重な時間だった。
この日の「公開練習」で演奏した楽曲は以下の通り。
1:尼崎の魚
2:Jam_#1
3:虹
4:リバー
5:7月の夜
6:夜行列車と烏瓜
7:モノノケ姫
8:ばらの花
9:GO BACK TO CHINA(イントロ)
10:ARMY
11:東京
これまでにも「京都音楽博覧会2010」での「くるり・ザ・セッション」、NHK BSプレミアム『ザ・レコーディング』(2014年)でも、もっくんドラムのくるりのセッションは実現してきたが、それぞれに年を重ねミュージシャンとして格段に成長を遂げた3人が「原点」で見せるバンドアンサンブルは、それこそ彼らがこの場所で過ごした大学時代そのものの無垢な情熱に満ちているように見えた。
“虹”“ばらの花”“東京”といった今でもお馴染みの楽曲を「初代くるり」の編成で聴けたのも嬉しかったし、“尼崎の魚”の自然体プログレぶりに改めて驚かされたし、“7月の夜”の清冽な美しさや“モノノケ姫”のブレーキ壊れた爆走感にはいちいち胸が高鳴って仕方なかった。
また、岸田のファンキーなギターのカッティングから自然にセッションに突入したり、“虹”にジャズブルース風のアウトロをつけたり……といった場面からは、初期3人のラインナップが醸し出すしなやかな音の肉体性が伝わってきたのもよかった。
終盤、「“ワールズエンド・スーパーノヴァ”やらないんですか?」という視聴者のコメントに応えて、もっくんが“ワールズエンド〜”のイントロのキメを鳴らしたところ、佐藤が「“Eye Of The Tiger”(『ロッキー3』主題歌)みたい(笑)」と言ったのを受けて、瞬時に岸田がギターの音作りをして、3人でなし崩しに“Eye Of The Tiger”に突入!という流れなどは、まさに学生時代の部室の悪ノリそのもの。
バンド結成〜初期のエピソードを語りながら、若き日の想いをひとつひとつ演奏越しに解凍していった3人。いわゆるスタジオライブとはまったく異なる秘めやかな空気感を、この日の配信をご覧になった方は誰もが感じたはずだ。
2016年9月14日(水)には、バンド結成から最新曲まで20年の歴史を網羅したオールタイムベスト『くるりの20回転』をリリースするくるり。なお、今回の「公開練習」の模様も含む特別番組『V.I.P. -くるり-』は2016年9月18日(日)にスペースシャワーTVにて放送されるので、観逃した方はそちらをお楽しみに。(高橋智樹)