6月に新作『ザ・ゲッタウェイ』をリリースし、フジロック・フェスティバルでは、ヘッドライナーとしての来日も果たしたレッド・ホット・チリ・ペッパーズ。9月5日に発売されたrockin'on10月号でもレポートをお届けしているが、RO69では、遡ること6月下旬に彼らが海外フェスに出演した際のライブレポートをお届けする。
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【レッド・ホット・チリ・ペッパーズ @ オープナー・フェスティバル】
ポーランドのグディニャで6月29日から7月2日にかけて行われたオープナー・フェスティバルの2日目、6月30日のヘッドライナーとして登場したレッド・ホット・チリ・ペッパーズのライブレポートをお届けする。
6月17日に通算11枚目、5年ぶりとなるアルバム『ザ・ゲッタウェイ』をリリースしたレッド・ホット・チリ・ペッパーズ。プロデューサーとして新たにデンジャー・マウスを迎え、野心的なアプローチがみられる今作を引っさげてのツアーでは3ヶ月にわたり世界各地のフェスを巡り、7月24日にはフジロックにて5年ぶりの来日も果たしている。そんな中、ツアー中盤戦、アルバムのリリース月最後にレッチリがプレイしたのが、毎年6月末から7月初めにかけてポーランドの港町グディニャで行われるオープナー・フェスティバル。2006年から元々軍用飛行場のあった広大な敷地にて開催されている同フェスティバルはヨーロッパの主要フェスティバルのひとつとして数えられ、今年の動員数は12万人にものぼった。4つのステージで4日間にわたり開催された今回のラインナップにはレッチリの他シガー・ロス、テーム・インパラ、フローレンス・アンド・ザ・マシーン、ザ・ラスト・シャドウ・パペッツなども名を連ねた。
当日はレッチリの開演時間1時間前にサッカー、ヨーロッパ選手権のポーランド対ポルトガル戦がキックオフしており、ポーランド初の8強進出ということもあり急遽フェスティバル会場でもパブリック・ビューイングが行われた。試合の前半が終了したのがレッチリの出演予定時刻10分前ということもあり、試合を観ていた多くの人々が大挙してメインステージに駆けつけ、先ほどまでサポーターとして母国を応援していた熱狂をそのまま持ち込み、バンドの登場を待った。
開演予定時刻の22時を5分ほど過ぎたところでステージに現れたメンバーは、いきなりのジャムセッションから“Can't Stop”でライブの幕を開ける。飛び回るアンソニー、アグレッシブな演奏で魅せるフリー、演奏に没頭するジョシュ、そしてタイトなリズムを刻むチャド。のっけからエンジン全開のパフォーマンスを魅せるバンドのサイドとバックに映るスクリーンには、そんなメンバーの様子にエフェクトがかけられて映し出されており、そのカラフルな色彩とテイストは“Higher Ground”(『母乳』収録)のミュージック・ビデオを彷彿とさせ、まるで90年代のMTVを観ているかのよう。
2曲目の“Dani California”が終わったところでアンソニーが「ポーランド、元気か? サッカーの試合はどうなってる?」と呼び掛けると、突如フリーが「ポルスカー!」とポーランドのサッカーチャントを歌いだす。当然のようにオーディエンスもそれに呼応して歌いだすという光景が広がる中、ニューアルバムからの“We Turn Red”が披露される。レッチリ十八番のラップ・ファンク色の強い部分と、新たに鍵盤を取り入れた新機軸ともいえる部分がうまく融合した曲で、過去の代表曲に挟まれながらも新たな光を放っていた。ここでジョシュとフリーがドラムセットの前で向かい合って演奏を始める。ジャズのジャムセッションのような趣からの、“Otherside”! 観客はこれを大合唱で迎えた。
曲が終わるとフリーがおもむろに「今朝、二人のすごい良い奴らとバルト海沿いに座って日の出を見たらそれがものすごいキレイでな、ここに来れて、こうやって生きてて、こうやって音楽をプレイできてるってありがたいなって思ったんだ。ここに来れて俺たち本当にうれしいよ。ありがとうな」と話しだす。その様子がまるで親友に語りかけるような様子で、先ほどまで超絶ベースラインを弾いていたプレイヤーが一気に身近に感じられる。
ここからバッハの曲をフリー流に料理するというイントロの流れから『母乳』収録の“Nobody Weird Like Me”と、フリーの独創的なベースラインがフィーチャーされた場面が続く。そしてビートルズの“Two Of Us”の一節を演奏したかと思えば、そのまま“Snow ((Hey Oh))”へと続く流れるような展開には、さすがベテランといった余裕が感じられる。ここでまたフリーがオーディエンスに「昨夜、とんでもない流れ星見たんだ。ものすごかったよ」と語りかけ、またしても超自然体のフリーが顔を出す。さっきまで飛び跳ねながら演奏していた男の、とても繊細な面が窺える。
次に披露されたのは最新シングル“Dark Necessities”。メンバーではなくプロデューサーのデンジャー・マウスの意向でシングルカットされることになったという今作は、ピアノを取り入れたりと新境地でありながらもしっかりセットリストにとけ込んでおり、観客にもポジティブなバイブで受け入れられていた。ちなみに同曲が収録されているニュー・アルバム『ザ・ゲッタウェイ』はジョシュがギタリストとして加入して2作目となるのだが、加入後わずか1年で制作された前作『アイム・ウィズ・ユー』に比べて今作はジョシュの個性がより発揮された作品となっている。そのためか、ニュー・アルバムの曲をプレイするときのジョシュはよりいっそう活き活きしているように見えた。
前曲を鮮やかに彩ったピアニスト、ネイト・スコットを紹介した後、“Magic Johnson”を超絶にタイトに演奏し始めたかと思えば、突如テンポを落としスローなジャムセッションに発展、そこから“She's Only 18”に突入と、相変わらず変幻自在なステージング、演奏スキルは圧巻の一言だ。
次の曲に向けてのセッティングが行われる中、「ポルスカー!」とまたも突如ポーランド語のチャントを歌い始めるフリー(笑)。今度はそこにチャドがドラムで加わり、ジョシュもギターで即興を始める。自国のチャントをレッチリが演奏する場面に出くわした人たちはなんて幸せなんだろう。そのままニューアルバムからの“Go Robot”を披露。シンセサイザーがフィーチャーされたこの曲ではゲスト・ベーシストを迎え、ベーシスト二人でプレイ。「サミー」と紹介されたもう一人のベーシストを加え、バンドはエネルギーあふれるパフォーマンスを魅せる。
曲が終わると、またもジョシュとフリーがドラムセットの前で向かい合い、メロウなジャムセッションを始める。そこからテンポを上げ、チャドも加わりいったんのハイライトを迎えると、そこから始まったのが“Californication”! 観客も待ってましたとばかりにシンガロングが広がる美しい光景。前述のサッカーの試合が延長戦に突入していたこともあり、ライブ中にも「スコアは?!」「まだ1−1だ!」と観客の中には試合の行方を気にする人もちらほら見受けられたが、やっぱりみんなこの日のレッチリを楽しみにしていたんだな、と安心する場面。
ここでジョシュのソロコーナーとなり、アーサー・ラッセルの“Close My Eyes”をしっとりと披露。このときジョシュの後ろで静かに見守るメンバーの姿が微笑ましかった。ジョシュが歌い終えると、アンソニーがステージ前方に帰還し、「フリー! ベースを頼む!」と叫ぶとフリーが“Around The World”の最初の一音を弾き、この日一番のドヤ顔! そして両手でデビルサイン! フリーのこういうところが大好きだ。ここから同曲、新作から“Detroit”とグルーブ感あふれる曲を叩きつける。
ここで短いながらもストゥージズの“I Wanna Be Your Dog”を演奏する場面もあり、この時のメンバーは満面の笑顔で子供のようにはしゃぎ、このバンドでプレイする「今」を心から楽しんでいることが見てとれた。続けてジョシュのカッティングとフリーのうねるベースでジャムセッションが始まると、“By The Way”になだれ込む! オーディエンスはもちろん大合唱、フリーはステージから降り観客のもとへ。アンソニーのボーカルが少し不安定な気がしたが、ジョシュが懸命のコーラスでこれを支える。バンドの一体感が見られたパフォーマンスで本編が終了。
アンコールはニットキャップをかぶったジョシュのソロコーナー第2弾で始まり、ここではなんとデヴィッド・ボウイの“Warszawa”(77年『ロウ』収録)を披露! ダークで美しい旋律が夏の夜空に響き渡り、極上の空間を作り出していく。そんな中フリーが逆立ちでステージに登場、ジョシュのパフォーマンスに花を添えた(?)。ちなみに、4年前にもジョシュはレッチリのステージで同曲を披露しているのだが、その時もポーランドでの公演であった。
ジョシュのパフォーマンスが終わると、ニュー・アルバムのタイトルトラックである“The Getaway”、そして最後はアンソニーが上半身裸にキャップをかぶって飛び出して来ての“Give It Away”と畳み込んでオーディエンスの大合唱の中クライマックスを迎えフィニッシュ。今回のライブではジョシュの存在がバンドの中の欠かせない個性になっていたし、何度も向かい合って演奏するメンバー4人から発せられるサウンドからは、今なお進化し続けるバンドの姿を感じることができた。
長いキャリアを持つバンドのライブは得てして観客の要望に応える形でのヒット曲のオンパレード、もしくはバンドの意向を優先してその真逆の方向、ということになりがちだが、キャリア32年目のレッチリは曲間に数多くのジャムセッションを挟んだり、デヴィッド・ボウイの“Warszawa”というあまりメジャーとはいえないカバー(実際、筆者の周りではこの曲への反応は薄かった)を披露したりと、バンドとして、またはメンバーが今やりたいことを容赦なく打ち出したかと思えば、現地のサッカーチャントを歌いだしたり、フリーが長年の友人のようにオーディエンスに語りかけたりと、ぐっと距離を縮めてくる。そしてもちろんみんなが聴きたい曲もちゃんとやってくれる。そのバランス感覚こそがレッチリがこれだけ多くの人に長く愛される所以かな、と思ったりした。しかもそこには狙った感じは全くなく、あくまで超自然体でそれをやってのけるのだ。新作『ザ・ゲッタウェイ』の、新機軸と「これぞレッチリ!」という部分を絶妙に掛け合わせたところも、そんなバランス感覚のなせる技であろう。アンソニーがステージを去る際に残した「愛こそが答えだ」という言葉を聞いた時、なにか自然と腑に落ちたし、レッチリはいつまでも「俺たち、私たちの愛すべきレッチリ」でいてくれる確信が持てるようなライブだった。(大和矢征)
セットリスト
1. Can't Stop
2. Dani California
3. We Turn Red
4. Otherside
5. Nobody Weird Like Me
6. Snow ((Hey Oh))
7. Dark Necessities
8. She's Only 18
9. Go Robot
10. Californication
11. Close My Eyes
12. Around The World
13. Detroit
14. By The Way
[encore]
15. Warszawa
16. The Getaway
17. Give It Away
“Go Robot”のミュージック・ビデオはこちらから。
“Dark Necessities”のミュージック・ビデオはこちらから。