桑田佳祐、多才にも程がある。落語と音楽を見事に融合させてみせた『SONGS』を観た

桑田佳祐、多才にも程がある。落語と音楽を見事に融合させてみせた『SONGS』を観た

またもや、桑田佳祐にしてやられた。そんな放送回だった。
2016年12月1日夜の、NHK『SONGS』。放送が始まるなり、紋付袴姿で高座にのぼる桑田は、「茅ヶ崎萬秘 改メ 波乗亭米祐(ちがさきマンピー あらため なみのりていべいすけ)」を名乗って小噺を切り出す。米祐の名を「べーすけべーすけべーすけ……」と繰り返すことで、彼の本質が見えてくるらしい。「下ネタは言わない」と断りを入れながらも、案の定というべきか、まあ家族と一緒に見るには少々気まずいぐらいの前フリが放たれてしまっていた。

もちろん『SONGS』なので楽曲パフォーマンスはあり、創作小噺(落噺)を挟みながらニューシングル『君への手紙』の収録曲に繋ぐ、という番組構成だ。まずは、ホワイトクリスマス仕様のセットにキラキラしたサウンドが映える“あなたの夢を見ています”が。続いては、初代林家三平のネタ「よしこさん」の物真似や、見世物小屋の興行主の口上を用いた小噺のオチに引っ掛けて、べったりと髪を撫でつけた桑田が本格ムード歌謡“悪戯されて”を披露するといった具合。斎藤誠、片山敦夫、はたけやま裕といった辣腕バンドメンバーが、楽器も持たずに横並びでコーラス参加しているのが可笑しい。山本拓夫だけは、フルートを携えていたけれど。

で、メンチカツ定食を注文する小噺の直後に披露された“メンチカツ・ブルース”(歌詞からは明石家さんま、タモリ、ビートたけしら所謂ビッグ3の存在が浮かび上がるユーモラスなブルース曲)に触れて、はたと思った。落語に歌謡番組、そしてビッグ3。小噺の中でも語られていたように、これはかつて家族が団欒の中で触れていた、バラエティ性豊かなテレビ文化そのものだ。桑田は25分ほどの『SONGS』の放送枠の中で、テレビというメディアそのものを描いているのである。そのビジョンの大きさに、ちょっと戦慄した。

小噺は、いよいよ波乗亭米祐こと桑田自身が手紙を受け取ったという本題へ。手紙の一部には、こう記されていた。「どんなことがあって どんな風に驚いて どんな風に乗り越えて どんな恋をして どんな大人になっているのか きっと誇れる自分がいる そう信じて今日は寝ます 桑田佳祐殿 44年前の桑田佳祐より」。当の44年後の桑田は、今でもつらいことはあるけれど、とひとしきり難しい顔をしたあとに、こう告げるのだった。「明日への一歩、ふみ出せそうな気がする」。「ふみ」の部分だけが赤色の字幕になっていて、つまり「踏み出す」と「文を出す」の掛詞になっているわけだ。

そして番組は、ニューシングル表題曲“君への手紙”のパフォーマンスで締めくくられる。アナログな手紙、アナログなテレビ文化、アナログなロッカバラード。これはただのノスタルジーだろうか。違う。捨て去ることのできない、心に滲むような豊かさと温かさが、そこには確かにある。何よりも“君への手紙”という一曲は、懐かしい顔をして実はとてもフレッシュな響き方をしているじゃないか。小粋なバカが集うカルチャーの時間を、桑田佳祐は全力で抱きしめにゆく。まるで家族の団欒のように。その価値に、新しいも古いもあるだろうか。(小池宏和)
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