発売30周年を記念してリイシューされた第5作がふたたび全米トップ10入りを果たすなど、メタリカの怪物伝説を彩る記録やエピソードは今なお増え続けているが、どうやら「怪物の血統」についても見過ごすわけにいかない事態になりつつあるようだ。
ここに紹介するタイペイ・ヒューストンを構成するのは、言わずと知れたメタリカのドラマー、ラーズ・ウルリッヒのふたりの息子たち。23歳のマイルスはドラムス、20歳のレインはベースとボーカル担当で、それ以外にメンバーはいない。さっそくコンタクトをとってみると、マイルス自身から「ふたりで一緒に曲を作るようになった時点で、作りたいものを自分たちだけで形にすることが可能なのを実感できた」という理由からデュオ・バンド形態になったとの回答が届いた。
ライブでもギター・アンプを通してベースを鳴らすことでイメージ通りのサウンドが体現できているのだという。そうした編成や手法からはロイヤル・ブラッドなどが連想されるところだが、彼らからインスパイアされた部分が大きいことをマイルス自身も認めており、他に刺激を受けてきた対象としてアークティック・モンキーズ、ジャック・ホワイト、レディオヘッドなどの名前を挙げ、そうした先達の「作品ごとに自分たち自身を再発明していくかのような進化のあり方」への共鳴を述べている。
ラーズ自身も前々からオアシスなどを好み、いわゆるヘヴィ・ロックばかりではなくUKのバンドをお気に入りに挙げることが少なくないが、この兄弟はそうした彼の嗜好を受け継いでいるのと同時に、父親にとってのアンテナ的役割をも果たしているのかもしれない。
ちなみに彼らは去る9月にはロサンゼルス界隈で2本のライブを行なっており、現在は1st EPを制作中。また、この風変わりな名前は、フライト検索アプリでさまざまな航空会社の航行ルートを眺めながら「台北発、ヒューストン行き」という路線を見つけた際に閃いたものだとのこと。念のため調べてみるとこの両都市は姉妹都市の関係にあったりもするのだが、このロック界のサラブレッド兄弟が、今後どんな走りを見せてくれることになるのかを楽しみにしていたい。(増田勇一)
タイペイ・ヒューストンの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。